現役中にダービー馬が亡くなるというのは何とも言えない喪失感があります。
2018年のダービー馬、JRAの発表では多臓器不全を発症したとのこと。その発表は以下の通りです。
友道師のコメントも。どうやら胆石がたまっていたようです。疝痛の症状が出ていたかもしれませんが表情やしぐさから観察することはきっと難しかったのでしょう。
内臓疾患と向き合う難しさ
競走馬の抱えるリスクという切り口で、島田さんがNumberWebでまとめていました。そうでした、ドゥラメンテは急性大腸炎でしたし、ナリタブライアンも開腹して始めて胃破裂であることがわかったと記憶しています。こういった発信はとても有難いですね。
獣医師の若原さんの記事からは、専門的なメカニズムについて触れることができます。そもそも、胆石はサラブレッドにはまれな症状のようですね。
一部抜粋すると、「胆石は胆汁の成分が固まったもの」「胆汁酸は脂質と結合して腸壁を突破する効率を上げる働きがある」「馬には胆のうがない」「多くの動物では、食餌に合わせて胆のうから胆汁をまとめて消化管に放出するが、馬ではこれが本来的に不要」「胆のうがないので、胆石ができるのは、胆汁生成現場の肝臓か、消化管までこれを運ぶ胆管。場所が絞りにくい分、発見もしづらい。」。
また、痛みなど明示的な症状としては現れにくいようです。不運の一語に尽きる、という表現が確認できるのは何とも言えないですね。。。
手元にある「競走馬ハンドブック」からも引いてみます。胆汁については以下のように説明されていました。
…この胆汁が上手く機能しておらず消化器官が詰まってしまっていたわけですから、多臓器不全も理解できるところです。
ワグネリアンの戦歴を振り返って
全競走成績、JBIS-Searchでご確認ください。
大きくは、3歳の神戸新聞杯まで(疲労が溜まって翌春まで休養)、5歳の宝塚記念まで(このあと喉の手術)、ラストレースとなる6歳のジャパンカップまで、と区切れるように思っています。クラシックの有力馬として戦線をリードしていた時期、古馬の王道路線を踏みながら惜敗していた時期、体調と適性とを手探りする時期、というところでしょうか。
個人的にはダービー以後、条件がぴったりくる目標はなかったように思っています。特に4歳になってからの大阪杯や札幌記念は、適性の合わない条件で接戦に持ち込む強さを目の当たりにしたという認識でいます。
適性に関するつかみどころのなさは、ダービーの回顧ですでに触れていました。というかこの回顧記事、前後半にしていたんですね。当時の自分の熱がわかるようで恥ずかしいやら改めて納得感を覚えるやら。
印象的なのはダービー、皐月賞、そして2回のジャパンカップ
もちろん印象的なのはダービー、「最悪」と評した外枠スタートから1コーナーまでにポジションを取りに行く姿ですね。いま見ると、ちょっと探り探り先行しているようにも見えなくもないかな。いまの福永はかかるリスクに対する怖れが少なく先行策を選択している認識でおります。
ブラストワンピース本命でしたが、直線入口でしっかりコースを切って末脚を伸ばす姿もまた印象的。あのレースができたことがいまにつながっているのは本人も自覚されているようです。
そうそう、一昨年のコントレイル3冠ロードを取材中。福永Jに競馬を達観するような考え方になったきっかけを聞くと、「ワグネリアンで勝った時から」と即答されたんですよね。で、数時間後。今度は矢作師から福永Jについて「今は本当に頼もしい。すべてはワグネリアンだと思っている」と聞いたんです
— 山本武志 (@Hochi_Yamatake) 2022年1月7日
その裏返しというといじわるではありますが、皐月賞の1コーナーまでは何とも歯がゆい思いをしました。
いま改めて振り返ると、内枠発走から縦のポジションに「拘らず」、外へ展開できるようにという動きに注力しているように見えます。その縦のポジションを取り切ったエポカドーロは皐月賞を勝ってダービーも2着。当時の鞍上には勝つために必要なアプローチが十分でなかった、という理解が妥当ではないかと思っています。
…やはり、ワグネリアンの印象を語る際には福永祐一というジョッキーのスタンスやパフォーマンスがセットになってきますね。同い年で思い入れのある分、分析も恨み言も強めにでているのかな。
ダービー回顧記事でも何やらほとばしっておりました。我ながら、というところです。「キングヘイローもワールドエースもエピファネイアも本命にした自分が、そして皐月賞の本命がワグネリアンだった自分が、何故このダービーだけ単勝を手にしていないのか。」
川田将雅と差し込んできたジャパンカップは、ワグネリアンの底力に感服していました。結果的に後手になった4コーナー、あそこから3着まで来れるのかという。「ダービー馬の底力」とはよくある言い回しですが、実感を伴って響いたのが思い出されます。重馬場、苦手なはずですしね。
ラストランのジャパンカップは戸崎の先行策に尽きるでしょう。ダービーを思い出した方はきっと多いでしょうね。外枠から抗するにはあれしかなかったわけですが、普段はペースに対して受けの姿勢を取ることが多い鞍上が、かなり積極的に出していく姿。
ダービーで悔しい思いをしたライバルの背にのってのトライですから、その意味でも印象的でした。
最後に
一報を受けて、ブロードアピールの血が残せなかったか、という思いが真っ先によぎりました。あのピッチ走法がどう中和されて先に繋がっていくのか、見てみたかったという思いはあります。
一方で戦歴や過去記事を振り返ってみると受け取りなおすことも多くあり。同期がアーモンドアイというのはなかなか難儀な巡り合わせですが、ダービー馬としての奮闘が戦歴に現れていますね。ダービー後のダメージの大きさも改めて思うところです。
思い出語りが供養になると思いつつ。返す返すも残念です。どうぞ安らかに。