more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第88回 東京優駿(日本ダービー)

シャフリヤール、10cm差でダービーの栄誉に届きました。

直線早め先頭のサトノレイナスが外に寄れ、我慢に我慢を重ねた横山武史がエフフォーリアを粘り込ませる中、ワンテンポもツーテンポも進路確保に遅れを取ったシャフリヤールが最後の最後でインを掬う形になりました。

4コーナーで外に進路を求めてから、10着ワンダフルタウンの真後ろにはいり、その外にいた17着アドマイヤハダルと接触。これでようやく進路を確保ですから、福永自身がコメントしている通り「決してスムーズな騎乗」でなかったと思っています。でも、今年のダービーはその遅れが奏功するほど厳しい後傾ラップ、末脚の持続力を強く強く求める展開になった、という理解に至っているところです。

最後の首の上げ下げ。ヨーロピアンスタイルを取り入れた横山武史の、若干の後ろ重心から腰を入れて推進する追い方と、上体がブレることのない福永祐一の、鞍下といっしょに前へ重心移動する追い方の、鮮やかなコントラスト。どちらも最後までリズムを崩すことなく、勝負に徹するだけの技術とそれを発揮するメンタリティを示してくれました。

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2021年ダービー、シャフリヤールとエフフォーリア、ラスト1ハロンの攻防

あの10cmの差に意味や情緒を求める言葉も散見されますが、当人同士がどちらかわからなかったと話していることが象徴しているように思います。ゴールラインを迎えた瞬間に、たまたまシャフリヤールだったということではないかと。着差という結果はどんな形でもでますからね。

10cmの根拠として、福永が勝ったことでダービー2勝の経験が語られていますが、仮に横山武史が勝ったら若さと勢いが語られていたのでしょう。あ、個々人がどんな感想をもつかはもちろん様々と思っています。

嫌味でも皮肉でもなく、酒の肴には最高ですものね。おそらく自分もそうやって競馬ネタのわかる人といいお酒を飲んで語らっていたはずです。経験が若さを凌駕したのはアドマイヤベガでしょう、くらい意気揚々としたおっさんが目撃できたはず。コロナでなければ、ね。

1週間経ってもあまりたらればが思い浮かばないのは、然るべき役者がふさわしい判断を積み重ねてくれたから、という見解に収斂しています。充実感は大きかったですね。現地観戦でよかった。よいダービーを目撃できました。

公式レースラップ

12.2-10.6-12.2-13.0-12.3-12.4-12.8-11.7-11.4-11.5-10.8-11.6

比較の意味で、2010年エイシンフラッシュのダービーはこちら。

12.6-11.3-12.2-12.7-12.8-13.5-13.1-12.9-12.4-11.3-10.8-11.3

もうひとつ、2018年レイデオロのダービーも。

13.0-11.2-12.9-12.8-13.3-12.5-12.1-12.6-12.7-11.5-10.9-11.4

通り雨の影響はなく、速い馬場

むらさき賞のパドック、「とまーれー」の号令あたりから強い通り雨。晴れ間が見えているのにかなり大粒の雨がざっと降っていました。だいぶ心配しましたが程なく小降りに。ダービー出走馬がパドックに現れる頃には上がっていましたので、これは影響ないなと。安心しましたね。

そのむらさき賞はジュンライトボルトが速い上がりで中位差し。シャフリヤールと同じ10番、ちょうど同じようなコース取りで末脚を伸ばしていました。その直後から差してきたサトノフウジンがハナ差2着でしたが、サトノレイナスでこの競馬ができたら勝っていたのでは…、と思わせる内容でした。そう簡単ではないですよね。

バスラットレオンの逃げは減速幅の大きいスロー

スタミナ面を考慮してもう少し慎重な出し方をせざるを得ないのでは、と思っていたバスラットレオンが全力なストライドで1コーナーへ。タイトルホルダーがこれを見て控える判断にしていました。ただ、行き切ってからの藤岡佑介は極端でしたね、一気にペースを落として後続の渋滞を誘う形を取りました。

ラティアスが先頭との差を詰めていったのは4ハロン目の13.0付近。パドックから気持ちが入っていましたから、やむを得ない流れであったでしょう。ルメールはそのあと、向こう正面で徐々にポジションを上げる形になっていました。もう少し流れていたらポジションはキープだったかもしれません。

5ハロンの末脚勝負

向こう正面の後半、ディープモンスター武豊が馬群のインからいったん下げて、まるで鞍下を馬群から抜き取るようにして外に展開。ペースが遅すぎたことへの対策だったでしょう。3コーナー過ぎからの捲りという、なかなか自身にも厳しい一手を打ってきました。

それを察知して反応したのがアドマイヤハダルのデムーロ。アドミラブルで捲れなかった思いが強かったか、間髪入れずにディープモンスターの動きを追従しました。2頭で捲り始めるといういわば濁流。先団外にいたサトノレイナスは、ダービーの大舞台で初めて、後方から牡馬のプレッシャーを受けることになりました。

これまで追い込み競馬ばかりですから、そりゃ反応しますよね。ルメールはプレッシャーを避けるようにサトノレイナスのペースアップを許容した格好。残り1000mからの11.4は破格に速いでしょう。

ここからペースアップをはじめてゴールまで1000m分スパートし続けられるなら、もうそれだけでダービー馬確定かもしれません。捲ったディープモンスター、アドマイヤハダルは16着と17着、その捲りを受ける形になったバスラットレオンは15着。そう考えると、サトノレイナスの粘りは脅威ですね。終始インで溜めていた6着タイトルホルダーを最後2馬身離した格好ですしね。

1、2着のコーナー通過順はそれぞれ、以下の通り。

シャフリヤール 7-7-11-9

エフフォーリア 3-4-9-9

3、4コーナーで大きく番手を落とした2頭が連対。翻せば、ロングスパート過ぎて早く仕掛けた馬から脚が上がっていったというレース展開が窺えます。ということは、後ろ過ぎないポジションと追走スピードを維持しながら、トップスピードに達する地点を遅らせる、というのが勝ち馬に要求された後半5ハロンの立ち振る舞いといえるわけで、始めからそれを狙って臨んでいた人馬はいなかったのではないか、というのがいまのところの感想です。1、2着とも終始理想的なポジションをキープしていたわけではないですものね。

シャフリヤールとエイシンフラッシュ

3、4コーナーの厳しさの差は、上がりタイムの差になって表れていると思います。2010年のエイシンフラッシュ、末脚の引き出し方はよく似ているのではないでしょうか。道中はイン寄りでじっとしていて(せざるを得なくて)、直線で馬場の中央へ、そこから軽快な切れを披露する。

ストライドが大きい、排気量が大きいというタイプではなく、機動力に優れたタイプ。その点は2頭に共通しているでしょう。ともに、その機動力と速い馬場がマッチしての戴冠だったという見解に至っております。

奇しくも同じ藤原厩舎。見事な仕上げ方、導き方ですね。

そうそう、その符合があってエイシンフラッシュを振り返っていたのですが、今後のシャフリヤール、2013年毎日王冠のような展開で勝ち星を増やす気がしています。このときのエイシンフラッシュの鞍上は福永。府中で時折見られていたパターンだったんですね。

福永祐一はダービー3勝目

ワグネリアンが大きかった、というコメントがありましたね。個人的にはコントレイルの3冠もいまの落ち着きを獲得するには必要な経験であったと推察します。道中包まれたポジションをそのままキープしたこと、直線で前が詰まっても先走って進路を切り返すことがなかったこと、進路が開けてからの追うリズムもそうですね、あわてて対応するという場面がなかったことは経験の賜物でしょう。

ただ、やはりという表現になるのですが、出来上がっていくペースや展開に対して「受け」に回ることが多いジョッキーという認識があります。ひとつポジションを下げて、ワンテンポ外して追い込む、人気薄のスローで先行策から粘り込む、などなど。

例えば川田将雅がそうですが、ポジションを取って機先を制する、といった勝負の仕方ではないんですよね。自分の存在感を誇示して局面を変えたり支配したりというアクションには乏しいといいますか。考え方、取り組み方がそうした特徴を帯びることになる、と思っていますので、消極的であるといった意味とは少し異なるんですよね(…ワールドエースとか、いろいろ思い出しはしますが)。

ですので、コントレイルの菊花賞のようなデッドヒートって、あまり福永にはイメージがなく。そもそもあの菊花賞ルメールから併せにいっていますしね。積極的に馬体を併せて競り落とすというマインドはあまり感じないと表現すべきでしょうか。だからこそコントレイルやシャフリヤールがダービー馬になった、とも言えると思っていまして。そういうタイプのジョッキーとして確立した、ということなのでしょうね。

エピファネイアのダービー2着、差された直後に本人が下を向いていまして。あまりネガティブなことはブログで言葉にしてこなかったのですが、当日は「下を向くんじゃない!」というちょっと違った期待感で怒っていたと記憶しています。もう、そんなこともなさそうですね。

ディープインパクト産駒はダービー7勝

トウルヌソル、サンデーサイレンスを抜いて産駒がダービー7勝、歴代トップに立ちました。11世代で7勝というのは驚異的な数値でしょう。影響力の大きさを改めて思う記録です。

フジの中継、ダービーのレース実況へ切り替えるところ、福原アナがサンデーサイレンスの影響について言葉を重ねておりました。「サンデーサイレンスが日本で種牡馬のキャリアを始めたのが30年前」「17頭の出走馬すべてにサンデーサイレンスの血がはいっている」「1番人気のエフフォーリアには父にも母にもサンデーサイレンスの血」そして「横山武史はサンデーサイレンス産駒の活躍時期に生まれたジョッキー」。

レースの意味づけを深めるアナウンス、歴史の堆積がすっと伝わるそれでした。キャリアのある競馬ファンでかつアナウンサーでないと成立しませんね、こうした演出は素晴らしいなと聞いておりました。

種牡馬の墓場という表現も、マル父という表現もとっくに遠い昔の話ですね。先ほど英オークスをスノーフォールが圧勝。ディープインパクト産駒の英クラシック制覇はサクソンウォリアーに続く2頭目。ディープ自身は亡くなっておりますが、産駒の活躍はもう少し楽しめますね。

横山武史の見事なチャレンジ

エフフォーリアは2着。操縦性がある分、横山武史のリードがしっかり見えやすいこともあるのでしょう、人馬とも見事なパフォーマンスでした。

スタートから1コーナーまで出していきましたね。1枠1番で後手に回らないためのアクションをしっかり取っていました。やるべきことと言えばそうですが、これだけでも相当に凄いことですね。ひとつ外がヴィクティファルスでなかったら、もう少し1、2コーナーでの選択肢があったかもしれません。

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2021年ダービー、最内枠で押していったエフフォーリア横山武史

スタートから池添がびっしり馬体を併せてきたことで1コーナーまでに横のポジションを云々することは敵わず、1コーナーでは外からバスラットレオン、タイトルホルダーが前に入ってきて、それとほぼ同時にヴィクティファルスはブレーキ。順番に外側に蓋をされながらエフフォーリアはここしかないというポジションに押し込まれた形になっていました。おそらく、ここまでは武史も織り込み済であったでしょう。甘んじて受け止めた、より有利に受け止めるためにスタートからプッシュしていった、と受け取っています。

そこからが厳しかったですね。バスラットレオンの急ブレーキは前方から蓋をされた格好、タイトルホルダーともども番手を下げることになってしまいました。
横にはヴィクティファルスがいますしね。やむを得ない場面が続きました。

これまでもインで溜めていた勝ち馬が3、4コーナーでひとつ通過順を下げることはありましたが、1コーナーを出していって3番手通過した馬が、4コーナーで9番手はなかなかない展開。それだけ厳しいマークであったことが、コーナー通過順だけで推察できます。

4コーナーで池添が外に展開したことでようやくエフフォーリアの視界が開けました。躊躇せず、アクセルを踏みましたね。仕掛けが早かったのでは、というテキストも目にしましたが、ここで踏まないと勝負にならないでしょう。前の馬が進路を塞いでしまうかもしれませんしね。

武史は「切れ負け」という表現を使っていましたが、直線ほぼすべてをスパート区間に充てて切れ負けという表現ではないでしょう。このコメントは彼なりに表現した、という受け止め方でよいように思っています。あの展開で押し切る寸前まで運んだのですから。

藤原調教師のコメントが奮っていました。「将来トップになる若武者です。未来の競馬界を背負っていく彼も、今日は悔しくて眠れないでしょう。その悔しさを与えたのがシャフリヤールであり、福永であり、藤原であるということは、彼の記憶に残って、意味のあるダービーになるでしょうね」。

本人の耳には届かなくてもよいでしょう。変に俯瞰し過ぎず、そのまま経験を積んでいって欲しいと思います。抜粋したのはNumberの島田さんの記事ですね。

number.bunshun.jp

サトノレイナスは外枠を克服できず5着

本命でした。バスラットレオンが躊躇せずにいったことでサトノレイナスのリズムで1、2コーナーに入れたものと思います。ただ、レース前から少し気合が表にでていましたので、どうしても力んだ追走になってしまいました。

向こう正面にはいったところで前に置いていたグラティアスが一列内へ。前に馬を置けなくなってしまったことは影響したでしょう。ここで番手を上げることになりました。テンションが落ち着いていたらゆっくり運びたい場面ですけどね。

3コーナーにはいって、外から2頭が捲ってきたことに反応。これまで後方から前を交わすレースを経験していますが、後ろから迫られる経験は初めてだったのではないかなと。

直線外に寄れたことも、インから抜け出してきたエフフォーリアの影響かもしれません。ひょっとしたらウオッカのようなタフさとは異なり、牡馬と伍していくにはまだ繊細さが残っているのかも、と思っているところです。

ただ、そもそも刻んだラップが厳しかったですね。レイデオロとの差は3、4コーナーを淡々と進められなかったことでしょう。やはり外枠が厳しいというのは、このくらいの着差に表れるものと考えておく必要がありそうですね。

個人的には出走馬のなかで1番の評価をしておりました。そのことは秋まで忘れずにいたいと思います。…でも秋華賞は圧倒的にソダシに適性がありそうですよね。

ステラヴェローチェ、グレートマジシャンについて

それぞれ3、4着に差し込んできました。ともに勝てるポジションではなかったと認識していますが、その中でも能力は示したと思っています。

ステラヴェローチェは共同通信杯の負け方を嫌って評価を下げていましたが、1、2着と同じ上がりを計時。速い馬場にも対応できることを示しました。あくまでポジションを取りに行ったことが影響した、と考えるべきなのかもしれません。朝日杯の印象がよいんですよね。阪神3000mで行われる菊花賞は面白い存在と思っています。

ちなみにこれで皐月賞、ダービーともに3着。96年のメイショウジェニエ以来となるのはなかなか意外でした。あの時も同様に1、2着は接戦でしたね。はい、フサイチコンコルドダンスインザダークですね。

グレートマジシャンは前走よりトモのパンプアップが見えて、好印象でした。でもまだまだ完成途上。テンション高めの中、テン乗りの戸崎が上手くリードしていたように見えています。競馬ラボのコラムでは少し悔いているコメントを出していましたが、本人が「ゲートの出方、二の脚の付き方、ここらは一度乗っているか、乗っていないかの差はあったと思います」と指摘している通り、分かっていれば違ってはいたでしょうね。

展開ひとつでもっと上位はあったかもしれませんが、あのダービーで勝ち切るまではどうか。個人的にはフィエールマンの成長曲線を重ねながら秋以降を楽しみにしたいと思っています。

最後に

当日は現地観戦。2年ぶりのダービーですからテンション上がっていましたね。昨年の3冠馬が並んだモニュメントにやられてみたり、ローズガーデンの雰囲気にやられていたり、青のダービーリボンが当たってヨーホーレイクのサインか?などと思ってみたり。

 

自分の指定席から程ないところにはウエディングドレス姿の女性も。おそらくエアグルーヴかな、ウマ娘の期間限定のアレでしょう。正直、どういう状態に価値があるのか(素晴らしいコスプレなのかどうか)はわかっていないのですが、大きく許容している空間ではあってほしい、などと達観モードでございました。

ダービーのゴール直後はどっちだ?という微妙さから会場の反応が遅れていましたが、ひと呼吸置いて高揚感のある拍手が。ゴール前に勝敗がはっきりしていたヴィクトリアマイルとはさすがに異なるリアクションでしたが、いい雰囲気でした。

さて、もう安田記念。金曜にまとまった雨は降りましたが、日曜にどれくらい影響を残すのか。これからじっくり見極めたいと思います。まだ予想らしいことは何もしていないので、気になる馬も特に定めておらず。追い切り映像からチェックしようと思います。