10月にはいって、立て続けに名牝引退の報に触れることになりました。
どちらも長い競走生活でしたので、印象に残る場面が多々ありますね。
それぞれいま思いつくところを書いておきたいと思います。
ソダシは脚部不安から引退
10/5付、ソダシの競走馬登録抹消のリリースはこちら。
スプリンターズSで全妹ママコチャが勝利した直後に引退の決定があった模様です。安田記念後は脚部不安で秋の動向がどうなるか、という状況でしたので「無理をせずに」という判断なのでしょう。
印象深いのはサトノレイナスとの接戦
ソダシが無敗の桜花賞馬になるまでに2度対戦しているのがサトノレイナス。自分がソダシを語るときにはセットになる、といいますか、サトノレイナス目線でライバル視していた存在という印象が強いんですよね。
いまでもあの世代ではサトノレイナスがNo.1と思っていますが、ソダシの頑張りに退けられたのは確かなんですよね。。。
いまレースぶりを見直すと、札幌2歳Sの早仕掛けのタフな展開とアルテミスSの10.9の切れと、対照的な馬場コンディションで行われた両レースを押し切っている時点で相当強さを示していまして。これを相手にサトノレイナス本命はやっぱり思い入れ以外の何物でもないなと。大きな壁というのが改めて思うソダシへの個人的な印象です。
阪神JF、桜花賞でともにサトノレイナスを僅差で退けていますが、他に負かした相手を並べるとまぁすごい。
阪神JF:
ユーバーレーベン(オークス)、メイケイエール(重賞4勝、次走アメリカのBCターフスプリント)、ヨカヨカ(北九州記念)、ジェラルディーナ(エリザベス女王杯)、シゲルピンクルビー(フィリーズレビュー)
桜花賞:
ファインルージュ(紫苑S、秋華賞2着、ヴィクトリアマイル2着)、アカイトリノムスメ(秋華賞)、ホウオウイクセル(フラワーカップ)、エリザベスタワー(チューリップ賞)、ソングライン(ヴィクトリアマイル、安田記念連覇、1351ターフスプリント)
ジェラルディーナとソングラインは頭角を現す前。映像を見直しましたが特にジェラルディーナはその後の活躍を彷彿とさせるいい伸び脚でしたね。
これらを押さえて無敗で桜花賞を、それもレコードで制しているわけですから、同世代ではトップの評価で妥当だったわけです。…サトノレイナスに目を奪われすぎでしたね。
その桜花賞の映像です。「けがれなき純白の女王」ですね。
ソダシの特徴とヴィクトリアマイル
秋華賞はエイシンヒテンの残り800mからのロングスパートにお付き合いした流れ、フェブラリーSはスローから速いダート馬場でカフェファラオやテイエムサウスダンにスピード負け。鞍上はレースを忌避する素振りを見て取っていた時期でした。
ただおそらくアカイトリノムスメやファインルージュの位置に控えて差しにいっても、テイエムサウスダンのように途中から先頭を奪う形でも、勝ち切るには難しかったように思います。
極端なペースでない道中からラスト3ハロンでしっかり脚を使い切る、という平均点の高さで押し切るのがソダシの特徴。そうするとヴィクトリアマイルの勝利はまさにそのソダシらしさが最も発揮されたレースだったのかもしれません。
個人的にヴィクトリアマイルは強い牝馬が美しいレースを披露することが多いように感じていまして。ええ、美しさはとても主観ですので伝わりにくいかもしれませんがいいんです満足度が高いのでそれが何より。予想は外していますが、いいレースを観ることができました。
…そういえば秋華賞のゲートで歯をぶつけていましたね。後日、ソダシ抜歯という記事タイトルを珍妙だなと眺めていたことも思い出しました。
マイルチャンピオンシップの直線に心身の強さをみる
ラストはセリフォスの追い込みに屈するわけですが、牡馬に交じってフィジカルコンタクトを受けて立った直線半ばの雄姿。もちろんコンタクトそのものは不可抗力なのでしょうが、受け止めるだけのフィジカルそして気持ちの強さが際立って見えました。
吉田隼人も第一印象で「ブレない」点を感嘆しています。もともと体幹が強かったのでしょうね。元ソースはNumber Webの記事、気性の荒さを取り上げていますね。…そうでした、母ブチコはゲートがね。
そうそう、引っ張るタイプの逃げ馬不在でスロー寄りの不向きな展開だったことも加味しないと。負けてなお強し、という一戦でした。
白毛のアイドル
直接観戦は都合4回。すべて府中で2度のヴィクトリアマイルと府中牝馬S、そしてラストランとなった安田記念。そのすべてでパドックを囲む人数が桁違いに多かったのがとても印象的でした。府中牝馬でも近くで見るのが難しかったですものね。
もちろん、というべきでしょうか、ターフィーショップにも普段では考えられない長蛇の列。白毛のぬいぐるみは早々に完売していました。…現役当時にウマ娘で実装されていたらどんなパニックになっていたでしょうね。
今浪さんのツイートも奮っていました。ゴールドシップとのつながりもウマ娘からはいったファンには推せる要因になったのでしょう。人気先行とは思いませんでしたが「白くて」「強い」はとてもキャッチーでしたね。
クロフネ牝馬らしい戦歴
あらためて戦歴を眺めると、桜花賞までの連勝は強烈に際立つわけですが、それ以降はらしい惜敗が続いています。
この戦歴に相似していると感じるのはアエロリット。1600~1800の重賞で勝ち鞍があり、1600~2000の重賞で2、3着惜敗が多い点はとても重なって見えます。札幌記念で2000mをこなしたのは個体の能力がなせる業というべきでしょう。クロフネ牝馬で2000mの混合G2勝ちがあるのはソダシだけ。マリアエレーナにまだ可能性は見出せそうですが、クロフネ産駒の距離適性はかなりはっきりしていますよね。
最後に配合
フィリーサイアーという見方もあるクロフネですので、ソダシの仔はとても楽しみ。どんな種牡馬が合いそうでしょうね。
あまり大柄な馬体にしない方向ならコントレイルがパッと浮かびましたが、セールスポイントが柔らかさ…?個人的にはオルフェーヴルをかけてダートチャンピオンを目指してもらうのがとても面白そう。見てみたいですねー気性が必要以上にきつくなりそうな気もしないでもないですが。
サトノレイナスは一足先に繁殖入り。将来2頭の仔がまたクラシックで競ってくれるなら出来過ぎたストーリーですね。
デアリングタクトは繋靭帯炎再発で引退
一方のデアリングタクト、競走馬登録抹消のリリースはこちら。10/12付です。
速報がはいったのが10/6ですので、ファンからするとソダシの登録抹消のニュースから間を置かずに今度は三冠牝馬が…と立て続けに引退ニュースを目の当たりにしていたわけです。残念が重なるのは、ね。
トレーニングの負荷が上がってくる頃ですし、ましてデアリングタクトは患部を一度手術していますから。旧ツイッターで一報を目にしたときは、あの走りが観られないという思いと同時に関係者の苦労がもう一度報われてほしかったという思いが浮かびました。
エルフィンSの切れ味、桜花賞のタフな末脚
デアリングタクトのファーストインプレッションは後日チェックしたエルフィンSの映像。もう脚の回転力が違いましたね。父エピファネイア譲りのパワーも未完成な馬体ながら感じました。
あの重馬場でなければ桜花賞は本命視していたかもしれません。コンディションが異なる2レースでともに鮮烈な末脚を披露しましたからね。世代でも抜けた馬と評価すべきところでした。…ええオークスまではそこまで信頼していなかったんですよね。
秋華賞の4コーナー
印象深いシーンです。当時の自身の投稿でこう書いていました。
デアリングタクトのコーナー通過順は13-13-8-5。直線で壊滅するインの先行勢を、4コーナーで自ら迎えに行く形。後続の捲りも、前々の粘り込みも、すべてを4コーナーで受け切って直線になだれ込みました。
これに尽きますね。バテる逃げ馬を待たずに、コーナー途中で逆手前になりながら、外から捲りきられないよう自身が壁となりつつスパートする二冠牝馬。さすがに不安がよぎりましたよ、負荷の高いポジションとタイミングで勝負していますからね。
あれで押し切ったのだから文句なし。平成からこちらの三冠牝馬はどの馬も、秋華賞でこのフレーズにふさわしいパフォーマンスを見せているイメージがあります。
以下、映像でぜひ。
三冠馬の三つ巴
そして三冠馬が3頭揃ったジャパンカップ。事前期待が高過ぎましたね。これはお祭りでよいと思っていました。アーモンドアイと悩んで迷ってのデアリングタクト本命、いやー楽しかったですね。結果は3着でしたが強いところを見せてくれました。入場制限がまだまだ厳しい時期、とはいえやっぱり現地で観たかったなぁ。
ジャパンカップに向けた当時の過剰な期待感、改めて掘り出しました。
幹細胞手術と再起まで
ノルマンディーファームの近況報告ページではこれまでの経緯が時系列で読めるようになっています。左前の繋靭帯炎と診断されたのは2021/5/14、香港遠征の後になりますね。
2021/5/27には幹細胞移植手術。「再発を防ぐ狙い」と記されていて、対処療法ではなく症状の完治と復帰をセットで捉えていたことが窺えます。
体部繋靭帯炎という珍しい症例であったことは治療にどう影響したのでしょうね(繋靭帯炎は起始部で起こりやすいとのこと、起始部とは骨との接点部分のことですからテンションがかかりやすい箇所なのでしょう、デアリングタクトはこの「はじっこ」ではなかったようです)。
長い戦いになりました、とひとことで表すには関係者の心労たるや如何ばかりか思うところです。強い負荷をかけなければ競走に耐えうるフィジカルに仕上がっていかないわけですが、負荷をかけ過ぎてしまえば繋靭帯炎が再発してしまう。プール調教は脚元への負荷が少なめですから、きっとたくさん泳いだのでしょうね。
1年以上の休養を経てヴィクトリアマイルでの復帰。当時の投稿でも書きましたが、現地で目撃できてよかったです。特に本馬場入場でのあれだけの拍手、初めての体験でした。
そこからの戦歴は、以前の投稿でも引き合いに出しましたがカネヒキリを彷彿とさせました。当時管理していた角居師が、カラダを仕上げ過ぎても反対に緩めても患部への負荷が大きくなってしまう懸念をもっていたようで、コンスタントに使えるだけレースを使っていくという趣旨のコメントしていたのを覚えています(嘘だったらごめんなさい、出典がわかれば)。カネヒキリは屈腱への移植でしたが理屈が近しいなら、と邪推しておりました。
ヴィクトリアマイルの復帰から、宝塚記念、オールカマー、エリザベス女王杯、ジャパンカップという詰め込んだローテーションはその証左ではないかと思っています。あるいはより強い負荷をかけたい意図、あるいはもうひとつ勲章をと願う陣営の願望が反映されていただけかもしれません。いずれにしてもデアリングタクトは走り切りましたね。
オールカマーは外枠スポイル(馬番2→1→3で1~3着が決まる極端なイン有利バイアス)、エリザベス女王杯は内枠スポイル(外有利の重馬場でインから出せない展開)、そしてジャパンカップは極端なスローからの上がり勝負で進路確保が難しいままゴール。。。不運も重なったと思っています。着順ほど負けてない印象が残っていますね。
年が明けて2023年、ネオムターフカップへの参戦とその後のドバイシーマクラシックへの転戦が視野にはいっていましたが、右前に不安が出ての休養。そして秋口の左前繋靭帯炎再発。。。
おそらくもうひとつ大きなレースを勝つところが観たかった、というのがファンや関係者を含めた気持ちだと思います。上記の不運な3戦のいずれかでひとつ勝てていたらというタラレバはちょっと思ってしまいますね。その後のローテーションも変わってきたでしょうし。
個人的には、関係者の皆様には初の無敗の三冠牝馬を大事に守ってくれたことに感謝するばかりです。三冠は日本競馬が大事にしてきた価値のひとつですからね。
最後に配合
旧ツイッターではコントレイルとの架空血統が目につきました、サンデーサイレンスが20%超えることにやんやと議論が過熱していましたが、三冠同士の同期の配合、端的にみてみたいです。しかしどの種牡馬が合うんでしょうね。フレームがしっかりして筋力もある分、柔らかさを求めたほうがよいのかな。…コントレイルじゃないですか。
具体的にベンバトルという報道もあるようです。あー岡田さんつながりでタイトルホルダー、あるかもしれませんね。いずれにしても決まるのはこれからでしょう。次の楽しみが続くのは競馬のよいところだと思っています。
最後の最後に
ソダシとデアリングタクト、2頭の桜花賞馬が唯一同じレースに出走したのが、先のヴィクトリアマイルでした。距離適性の違いもありますし、デアリングタクトが復帰戦というタイミングでなければ選ばれなかったレースだったかもしれません。
さすがにひとつ使ってからという仕上がりでしたから、インから直線だけで6着に押し上げた姿に地力は違うなと思っていました。この2頭が全力でぶつかれるなら、府中1800mですかね。…府中牝馬S?
いずれにしてもあのヴィクトリアマイルを現地観戦できたのは時間の経過とともに意味が増してきています。いずれも繁殖牝馬としての活躍を期待しています。おつかれさまでした。