more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第40回 ジャパンカップ

アーモンドアイ、三冠馬2頭を抑え込んで、有終の美を飾りました。

記録に残る世紀の一戦であることは戦前から間違いありませんでしたが、これだけ鮮烈な、記憶に残る名レースになるとは。

ちょっとレース後からフワフワとした時間を過ごすことになりました。一昨年の世界レコードとは異なる充足感と言いますか、いいレースを観たという至福感といいますか。チャンピオンの引退、そしてジャパンカップの趣きと期待に適う、それを上回る力比べ。勝ち負けはつきますが、負けた2頭それぞれの評価が下がることはおそらくないでしょう。

例えば1998年毎日王冠や2008年天皇賞秋がそれに当たりますが、リアルタイムで観戦したことが何よりも代えがたいレース、いつまでも語っていくことになるレース、今年のジャパンカップはそういった稀少さをもつことになりました。素晴らしいレースでしたね。

f:id:barnyard:20201130133717p:plain

2020年ジャパンカップ、ゴール手前の攻防

…デアリングタクト本命に思いっきり寄せた分、馬券は外れ。ホームラン狙いで盛大に空振りした感覚ですが、すがすがしい気分なのはやはりいいものを見せてもらったから、でしょうね。

公式レースラップ

12.7-10.8-11.8-11.3-11.3-11.5-11.8-11.9-12.1-12.3-13.2-12.3

2018年のジャパンカップは比較になるでしょうか。

12.9-10.8-12.2-12.3-11.7-11.8-11.7-11.4-11.4-11.0-11.4-12.0

クッション値と含水率

2020-11-29 東京芝コース
クッション値 9.3
含水率:ゴール前 14.8
含水率:4コーナー 14.6

内から5頭ほどが伸びない外寄りのバイアス

クッション値も含水率も問題ない良馬場なのですが、芝のレースは1日を通じてインを大きく開ける傾向。やはり東京開催の前半で掘れてしまった分、軽快にスピードを持続することが難しいコンディションなのでしょう。

hochi.news

興味深いのは原優介の「内は硬すぎてグリップが利かない感じで走りづらい」というコメント。これはちょっと意外でした。根付きが悪い状態で土だけ乾いたのでしょうか。ぱっと浮かんだのは学校の校庭のような硬さですが、さすがにそれは言い過ぎかな。ひょっとするとエクイターフが機能しなくなるひとつの例、と捉える方がよいのかもしれません。

競走馬がトップスピードで掘り返すパワーをかけたときにどんな値を計時するか。現在の計測方法ではそこまでの負荷をかけていないでしょうからね。いまのところ、数値を受け取るファンの側がイメージで補う形になってしまっていますね。

ルメールも日中のレースを通じて、インを突く競馬は皆無。ベコニア賞のキングストンボーイは、ちょうどジャパンカップのコントレイルのあたりを通っていましたね。外のどのあたりを通るのがベターか、探りながらのレースだったでしょう。先の記事では芝の状態について「硬い」「ドライ」とコメントしています。

タフな馬場という表現を見かけましたが、世界レコードがでるようなコンディションでなかっただけで、外側の馬場はある程度スピードを乗せやすいコンディションだったと理解しています。「タフ」という言葉の受け止め方の違い、もあるのでしょうね。

1コーナーまでのポジション争い

アーモンドアイはスタートよく、カレンブーケドールの前に。コントレイルはデアリングタクトと並走したまま1コーナーへ。このあたりが自分の想定と異なるポイントでした。今から思うとここ、かなりズレてはいけないポイントだったなぁと自覚しているところです。

最終追い切りでスピードをセーブしていたアーモンドアイですから、序盤もゆっくり入るのではないかとイメージしていました。1コーナーまでを急かさない流れは、前にカレンブーケドール、ひとつ外にグローリーヴェイズかコントレイル、という陣形になるのではないかと。先週のグランアレグリア包囲網のように働く可能性を予想していました。

いざスタートしてみたら、ニュートラルにあのポジションですからね。1コーナーの時点で流石だなと思っておりました。

一方の3歳三冠馬同士のポジショニング。初速の差からコントレイルがデアリングタクトの前、というイメージだったのですが、デアリングタクトの初速、思ったよりありましたね。松山がしっかり張ったというべきかもしれませんが、福永はこれで無理をしなかったのでしょう。勝つためにはアーモンドアイより前、というイメージかなと思っていたのですけどね。

グローリーヴェイズ川田は、やっぱりという先行策。基本ペースよりポジションを求める近々の傾向を感じ取ってはいましたが、勝機を見出すなら前、ということだったのでしょう。ワグネリアンのダービーより賞賛されるべき先行策だと受け取っています。…いや、あの時の福永も凄かったですよ。

キセキの大逃げとアーモンドアイのペース

ヨシオが来たことでハミを噛んでしまったとは浜中の弁。それにしても向こう正面で再加速するキセキのラップは、一昨年の抑制の効いたラップとは対照的です。

ただ、後続はそんなに速くないんですよね。個別ラップを確認していない状況下ですが、JRA公開の映像ですとアーモンドアイの通過時は60秒台半ばと推察。以前の競馬エイトをひっくり返してみたところ、2018年ジャパンカップの前半1000m通過は60.4。どうやらアーモンドアイの1000m通過、勝った一昨年とほぼ同じのようです。

そうすると、少し後傾ラップと読み取れます。後傾ラップで先行しているアーモンドアイ、…勝ちますね。

川田の真っ向勝負とアーモンドアイのポジション

直線に向く前にトーラスジェミニをパスして、川田は早めにスパートを開始しました。直後に背負っているであろうアーモンドアイにアドバンテージを取る唯一の策でしょうし、そうするための先行策だったでしょうから。

ただ、一昨年のキセキと同じようにアーモンドアイの高速巡行能力のアシストになっていたように見えています。ルメールにとっては自分のタイミングでスパートできる「間」ができていたことでしょう。…それを許す馬は稀有なのですけどね。

川田のアプローチはまっすぐで、とても妥当だと思っています。実際、僅差の5着ですしね。いまいまは天皇賞秋で自分が書いた表現を自分で噛み締めることになっております。ここにグローリーヴェイズが加わったという認識。以下、引用します。

リリーノーブル、ミッキーチャーム、キセキ、ダノンプレミアム。レースを組み立てながらアーモンドアイの2着を重ねたジョッキーのひとつの回答が、この「早めに」「一気に」スピードを上げるというペース配分に表れたのだと思っています。

三冠馬のラストスパート

百聞は一見に如かず、ここで説明するよりレース映像を、ということに尽きるわけですが、数値についてはmahmoudさんのツイートを見つけています。

 

以下、数値の箇所を引用します。

アーモンドアイ:11.35-11.75
コントレイル:11.25-11.65
デアリングタクト:11.35-11.60

3頭が両ハロンともコンマ2秒と差のないラップ。3歳の2頭が傑出した能力であることが窺えます。

そうすると序盤のポジショニングが明暗を分けたといえそう。レース経験の差が勝敗を分けた、と言い換えてもいいかもしれません。1コーナーまでに先行ポジションを取ること、近年の府中2400のセオリーに適った立ち回りを最も無理なく実現したのがアーモンドアイだったということなのでしょう。

できれば各馬のレース全体のラップが公式に計時されていてほしいですね。単純な比較もそうですし、別の視点に気づけるかもしれません。

アーモンドアイは9冠で引退

グレード制施行当初のG1数と比較するのはなかなか酷だなと思いつつ、シンボリルドルフから呪縛のように続いていたJRAのG1・7勝の壁。いったん乗り越えると、という印象がありますね。牝馬ならではの選択肢の多さも感じますが、一方でコンディションを維持する難しさもあるのでしょうから、やはり見事な記録と受け取っています。

賞金王でもありますね。ジャパンカップを勝ったことで、ジェンティルドンナテイエムオペラオーキタサンブラックを抜いて、歴代トップに立ちました。報道によると19億1526万円。いずれもジャパンカップ有馬記念という高額賞金レースを2回制している点がポイントでしょう。かなり増額されてきた2レースですからね。名前を挙げた中にダービー馬がいないのがちょっと示唆的にも感じます。

ひょっとすると、以降この9冠に並ぶ馬は牝馬以外出てこないかもしれないですね。セントジェームスパレスSのように牡馬限定のG1ができれば少し事情も変わるでしょうか。でもG1の乱立は9冠の価値を高めることはないでしょうから。

…頂は高い方がよいのかな。前人未踏という記録が達成されたという理解でよいのだと受け取りなおしました。

コントレイルは地力を示した2着

先行しなかったという肩透かしがありましたが、パドックの見立てからすると個人的には納得。最終追い切りでグンと良化したことが関係者から語られていました。そのことがオッズにも少なくなく影響したと思っていますが、ちょっとこれは…というのがパドックの印象。グリップの効いた馬場でトップスピードを支えるにはまだ筋力不足、というイメージに収斂しておりました。

ただ、ディープインパクト弥生賞で感じたごく普通という馬体の印象、これはコントレイルのホープフルSで感じたそれと似ているなと。馬体のストロングポイントが目立たない、ということは馬体の柔らかさや筋肉の収縮力でスピードを得るタイプ、ということなのかなと。…こうした着想に至るのがレース後というのがダメなところなのですけど。

パンプアップで主張しないとしても、これでアーモンドアイを交わすのは難しいのでは、と感じての3番手評価。先行策で目標になるなら着順を下げるという見立てでした。

あるいは福永は、絶好調とは言えない鞍下のコンディションを慮って、加減速やプレッシャーを抑える戦略に切り替えたのではないかと感じています。惨敗覚悟でアーモンドアイを差し切りにいく。それが2着まで押し上げる結果につながりました。

プレッシャーを逸らす戦略だとすると、逆に一抹の不安を覚えるところもありますが、ここで120%を絞り出さなかったことは来年のパフォーマンスにつながることでしょう。

…ちょっとソースが見当たらないのですが、福永がどこかで100%の力を出したいというコメントをしていたと記憶していまして。この100%は、フィジカル、メンタルともに過剰な負荷を求めないという意味なら、非常に正直なコメントであったのだろうと理解しているところです。違っていたらすみません。

デアリングタクトはこれまでにない厳しい展開で3着

3強のなかで一番見栄えのする馬体だったのがデアリングタクトでした。秋華賞とは見違える仕上がり。肝心のテンションも許容範囲と見えました。このあたりを現地で観たかったですね。

オークスのパフォーマンスより矢印を上に向けつつ、2頭と差のないポジションまで松山が主張するであろうことを加味して、未知の伸びしろに期待しての本命でした。

場合によるとアーモンドアイの真後ろ、というポジションもあり得ると踏んでいましたが、カレンブーケドールがいたことでインから2列目。ただ1、2コーナーは挟まれないようにポジションをキープするのが大変だったようにも映りました。

エンジンのかかりが遅いように見えた直線入り口。コントレイルに蓋をされてインに潜り込むことになったのは中継でもわかりやすいポイントでしたが、そのひとつ前、3、4コーナー中間にひとつキーがあったと思っています。

インのカレンブーケドールと並走しているところ、トーラスジェミニが下がってきたのを少し膨らんでパスした直後。できるであろう間を津村が狙いました。松山には抵抗する意図はなかったようです、デアリングタクトの鼻先をかすめてカレンブーケドールは外に展開しました。松山の手綱はまだがっちり抑えたまま。最内にいたのにいつの間に、と思っていたのですが、パトロールビデオでみるとその顛末が確認できました。

※12/4訂正:3コーナー過ぎで下がってきたのはトーラスジェミニではなくヨシオでしたね。失礼いたしました。

自分は実質4ハロンのロングスパート勝負と思っていましたので、個人的にはここで盛大な読み違えがあったようです。松山は直線に向いてからの勝負と見ていたのかなと。直後のコントレイルが直線を待たずに被せてきましたので、本人が考えるよりひとつタイミングの早い、仕掛けさせられた格好だったのではないかと。

やむを得ない展開だったかもしれませんが、後手に回った感。それを踏まえるとデアリングタクトのスパートと最後にハナをねじ込んでの3着は素晴らしいパフォーマンスであったと思っています。松山も難しいミッションによくトライしていたなという感想。これまでにないペースや相手関係、他馬の俊敏な反応はプレッシャーになったことでしょう。人馬の組み合わせは続くでしょうから、この経験が以降の糧になることを期待したいと思っています。

有馬記念に登録があるのですが、どうなるでしょう。だいぶ激走していますからね。陣営の判断を待ちましょうか。

最後に

アーモンドアイ、レース翌日も元気のようです。12/19に中山で引退式、初年度はエピファネイアが濃厚という話も聞こえてきました。引退はさびしいですが、あれだけのレースを繰り返して無事引退というのが素晴らしい結果ですね。引退式を行うことができるというのは、無事であったことのひとつの証明、と言い換えられるかもしれません。

いいレースを観たなぁという余韻がまだ消えていませんね。自分なりのアーモンドアイ総括はまた別のタイミングで書こうと思っています。

今年の競馬はまだ終わりではありませんからね。有馬記念ジャパンカップが豪華な分少し心配していましたがいいメンバーが揃いそうですし。

でも、年度代表馬はアーモンドアイでよいように思っています。牡馬三冠の価値を重く捉えてコントレイルという視点もありますが、天皇賞秋では春の天皇賞馬と宝塚記念馬を、ジャパンカップでは3歳の三冠馬2頭を、直接対決でそれぞれ抑え込んで勝ったことは重く捉えたいところです。

悩むとしたら、三冠馬のいずれかが有馬記念を勝つか、グランアレグリアが有馬を制して4つめのG1を獲るか。今年アーモンドアイに勝っているのはグランアレグリアだけですからね。

…こうしてアーモンドアイを中心にあれこれ考えているわけですから、やっぱりアーモンドアイという結論でよさそうです。