more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第102回 凱旋門賞

エースインパクト、豪快な追い込み勝ちでした。切れましたねー。

 

スローが予想されていましたが、案の定というゆったりしたペース。馬場がよいとなおのことスローになるのは道理でしょう。

クリスチャンはあわてずに後方外目へポジショニング。直線に向いてから体勢をつくってスパートをかけました。上がりが33.0。例年にない暑さと良馬場は究極の切れを後押しした形です。

 

グリーンチャンネルの中継では、直線で内側が広くなるオープンストレッチというコース形態について「馬群が内に流れる分、外に馬が来ない」「オープンストレッチの恩恵」という解説が聞こえました。コメントしたのはゲストの武豊、番組内でレース映像を振り返りながらのコメントでしたが、的確でわかりやすかったですね。

クリスチャンに向けて「キスしてないであと検量しなさい」も奮ったコメントでした笑。

 

それらも含めると、後方外目での盤石の待機策、クリスチャンのシンプルな騎乗がビシッと決まったと言えそうです。ポジショニング、レースの運び方だけ見るとジェラルディーナのエリザベス女王杯に似ているかな。レース前のエースインパクト、かなりテンションが高い姿が見えていましたが、ジョッキーの多様な経験値もしっかり活かされた結果なのでしょう。

 

しかし大きなストライドですよねー、特に後肢の振りの大きさ。柔らかさと筋力の強さを兼備していないとああは動かないでしょう。突出した才能そのままに欧州のチャンピオンに上り詰めたという印象です。

 

JRAの結果ページです。

www.jra.go.jp

 

フランスギャロ発表の公式レースラップ、個別ラップはこちら。

https://www7.france-galop.com/Casaques/Tracking//20231001LON04_last_times_fr.pdf

 

エースインパクトの上がりは、11.35-10.67-11.03で33.05。
スルーセブンシーズは、11.46-10.74-11.10で33.20。
…良馬場の府中を思わせるラップですね。

 

スルーセブンシーズは4着惜敗

惜しかったー。ルメールカメラでみるとよりわかりますが、序盤にポジションを取り切れず下がっているんですよね。あくまで馬のリズム優先という戦略だったと思うのですが、楽に中団のポジションが取れるようなら、などとタラレバを申してしまいたくなります。それくらいラストの切れは欧州トップクラスと互角に渡り合いました。

 

道中ひっかかってしまったようですね。ここが気にならなかったエースインパクトとは差があったように思います。ルメールもそれを見越しての待機策だったかもしれません。

 

牝馬、馬場不問、スピードがあって馬体はコンパクト。G1未勝利ながら凱旋門賞4着になれた、という実績は上記のような物差しを生んだようにも思います。もちろん遠征に耐えうる性格、気質は重要でしょう。今年は帯同馬の手配がない遠征になっていましたが、当日のパドックも堂々たるもの。こうした対応力を見極めて、今後の遠征については判断されることになるのでしょうね。

 

レース直後の尾関調教師の涙と、ルメールがインタビューの最後に(おそらく意識せずに)言った「また凱旋門賞にトライしないといけない」という表現が印象的でしたね。

 

立ちはだかるサドラーズウェルズの血脈

エースインパクトはフランスダービー凱旋門賞と、パリロンシャンに限らず重馬場の欧州G1を経験しないまま引退するチャンピオンになりそうです。父クラックスマンも切れ味が身上の馬、という認識。サドラーズウェルズガリレオフランケルと続く主流血統ですが、サドラーズウェルズからこれだけスピード競馬に対応する馬も出てくるんですね。

 

真逆の馬場コンディションだった一昨年の勝ち馬トルカータータッソは、サドラーズウェルズインザウイングスアドラーフルークと続くドイツに根を広げつつある父系。いずれもサドラーズウェルズから4代ですが、その走りの特徴はかなり異なる傾向にあります。

サドラーの強い影響力、その底堅さは子孫が示すこのバリエーションの豊富さにあるような気がしています。そしてどちらの凱旋門賞馬の母系に流れるAllegretta。こちらも畏るべしですね。

 

JRAがまとめた凱旋門賞歴代勝ち馬のページ。勝ち馬の父については記載がありませんが直近10年(2013~2022)でいうとゴールデンホーンとソットサスを除いてすべてサドラー系(ほとんどがガリレオですが)と、レースにおける血統のバイアスが顕著にでています。そして今年も同じ父系という結果になりました。

www.jra.go.jp

 

日本の凱旋門賞へのチャレンジ、大きくはサドラーズウェルズサンデーサイレンスを阻んできた歴史という印象があります(そりゃあエルコンドルパサーといった異なる血統のケースもありますが、あくまで大きく、ですね)。これをいつ打ち破れるのかなと。日本の馬づくりが欧州のそれを打ち破るという象徴的な瞬間ですね。

以前にも書きましたが、個人的にはオルフェーヴルが先頭に立った瞬間に、凱旋門賞を悲願とする必要はなくなったんだろうと思っています。

 

凱旋門賞という価値の変化

以下、このブログで一番アクセスの多い投稿なのですが、凱旋門賞へのチャレンジについて当時感じていたところをまとめています。2023年時点でも通じる内容かな。

stickyな馬場への対応、日本の馬場とのギャップと遠征する馬の経験値、個人のチャレンジとしての「点」から組織的なプロジェクトとしての「線」に変わった遠征の在り方、などなど。いちファンの視点から見える限りで議論をすすめてみました。ご興味あるようでしたらぜひ。

keibascore.hatenablog.com

 

夢やあこがれから大胆なチャレンジ、そして個々人のトライから組織だった目標やビジネス上のターゲットへ。関係者にとっての凱旋門賞の位置づけはおそらくこのように形を変化させていることでしょうが、多くのファンにとっていまだ目指すべき海外のビッグレースであり続けています。

今年はウマ娘でも凱旋門賞へチャレンジできるシナリオが実装されました。ファンが端的にその価値を共有する環境は十分すぎるほど準備されています。

こうした浸透は関係者がチャレンジを続けることの土台になり、チャレンジが途切れないことは異なる資質、適性を問う日欧の競馬を橋渡すことになります。そして、この異文化交流と価値の比較の機会が、日本競馬のプレゼンスをより示すことにつながるはずです。…いちファンが風呂敷広げ過ぎかもですね。でも日本競馬が充実して長く続くことにつながるのだと思っています。

 

最後に

グリーンチャンネルの中継で合田さんがスタジオのユタカさんにひと言、「そこにいちゃダメでしょ」。談笑ムードの中で冗談交じりでしたが、ほんとにそうですね。

当日のパドックが始まったあたりでのコメントだったのですが、それを聞きながら今年の馬場でドウデュースの走りが観たかったなと心底思いました。

どうやらユタカさんは来年現役なら、というエクスキューズをつけて凱旋門賞再チャレンジを希望している模様。あのオーナーと陣営ですし、今年はレース使っていませんからね。サドラーズウェルズの牙城を崩すのはあのコンビなのかもしれません。そうだったらいいなぁ。

 

ホントに性懲りもなくなんですけど、このワクワク感がファンを続けさせてしまうわけなんですよね。