more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第168回 天皇賞(秋)

イクイノックス、世界レコードで世界最強の評価に応えました。凄かった。

 

57.7に府中のスタンドがどよめいていましたね。自分はジャックドール、ガイアフォース、イクイノックスの並びと間隔からもう少しペースが落ち着いていると思ったのですが、想像以上に弛む間のない向こう正面でした。

直線に向いて、すぐにガイアフォースの横にださずギリギリ眼前に置いた状態で一呼吸。ここがルメールの冷静さですね。あとは唖然とするばかりの末脚でした。

 

逃げたジャックドールが最下位、直後でマークしたドウデュースも失速。その一方で後方待機したジャスティンパレスとプログノーシスが離れた2、3着。イクイノックスのペースについていった(いわゆる喧嘩を売った)馬は全滅という、とてもわかりやすい構図を示してくれました。

57.7を3番手追走で55.5であがる、1:55.2。信じられませんね。レーティング上世界最上位の評価ですが、世界最強を証明するパフォーマンスと言い切ってしまってよいと思います。おのおのの主観も大事でしょう。凄いものを観ました。


公式レースラップ

12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7

 

昨年のレースラップを比較の意味で。

12.6-10.9-11.2-11.3-11.4-11.6-11.8-11.6-12.4-12.7

 

そしてこれまでの日本レコード、トーセンジョーダン天皇賞秋はこちら。この1:56.1はスーパー前傾ラップですね。質の違うレースでレコードが出ていたことがわかります。
12.5-11.0-10.8-10.8-11.4-11.8-12.0-11.9-12.1-11.8

 

馬場は時計がでやすい良馬場

天皇賞の翌週にこの投稿をまとめていますが、京王杯2歳Sもレコード決着。ここのところまとまった雨量がないことがスピード馬場を担保しているものと推察しています。

 

予想の段階では分析できていなかったのですが(というより乗り替わりの件に大きく気持ちが取られていましたね)のですが、あとから見ると当日9R国立特別のビジュノワール逃げ切りにもヒントがありました。

ビジュノワールの上がりは11.2-11.4-11.6。坂下のラップが最も速くかつ大きくラップを落とさずにフィニッシュしています。2勝クラスの牝馬の筋力でこの速いラップがキープできて押し切れてしまう、と言い換えられるでしょう。

もちろんモレイラの道中の運びも奏功していると思いますが(いまのモレイラは鞍下に負荷の少ないフットワークで道中を走らせる感覚に優れている印象です、ポジションにこだわりが少ない分無理しない川田将雅みたいなイメージ)、それだけいったん出したスピードをキープしやすい馬場コンディションであったと読み取っています。

 

当日はどうしても生でパドックが観たかったことがあり、14時前からパドックで出待ちをしていました。もしこのレースを観て分析をしていたら、もう少し違った組み立てが脳内で起こっていたかもしれませんね。…いや、でもレコード含めてあの展開は予想できなかったかな。

 

ジャックドール藤岡佑介とガイアフォース西村淳也の交錯

昨年、控えて中途半端な結果になってしまったことを踏まえて、ジャックドールがハナだろうという大方の予測は合っていた形でした。

ただ直情タイプでも直感派でもない鞍上のこと、戦略をもってハナを叩くならどこかで弛める意図をもつはず、というのが自分の読みでした。

昨年は実質的なペースを2番手のバビットに握られた中での敗戦という理解が可能だと思っています。そのリベンジをするとしたら、今回は主導権を握った中で立ち回ること、ジャックドールのリズムを優先しつつ攻めたラップ構成にすること、なのではないかと。

 

ただ藤岡佑介はそこまで突っ込んだラップにしようとは思っていなかったようです。おそらくはいったん離した逃げをうちその後少し溜めを作る思惑、それは昨年のパンサラッサのラップ推移に近しい形。「後ろを離したいという意図でしたが、くっつかれてしまいました」というレース後のコメントにもそれは表れていると思います。

57秒台ではいって59秒でまとめれば勝てる、とは昨年の矢作師の言葉ですが、それを実現するには弛める場面がないまま直線まで来てしまいました。結果的には今年も主導権を握れずにレースが終わった格好です。

 

一方、西村淳也は「勝ちに行くレースをして思った通りに乗ることができました」とコメント。「この馬自身ビュッという脚はないのでどれだけセーフティリードを取ってゴールできるか」というコメントも同時に残しているので、早め早めのレースを心掛けたということなのでしょう。

ただ、マイラーズカップでは33.2の脚を使っているんですよね。シュネルマイスターと比較すると、というレベルで「切れない」と判断しているなら相当上を見ながらレースプランを組み立てたのだろうと思います。自分はイクイノックスのような3、4番手から早めにギアを上げていくイメージでいましたが、鞍上の野心と若さはもっとアグレッシブでしたね。

個人的な評価として、西村淳也に繊細にラップを組み立てる感度はあまり感じていないところでして。どちらかというと馬のリズムや相対的なポジショニング、思い切りのよさで勝負しているタイプだろうと受け取っています。

 

強いて言うなら、頭脳派の藤岡佑介と直感派の西村淳也、対照的な2人の思惑の交錯。これが昨年のパンサラッサを上回る厳しいハイラップを生んだ正体と見ています。

 

そしてそれを3番手で難なくかつ虎視眈々と追走しちゃうのがルメール。鞍上が一枚上手というのが率直な印象ですね。

 

世界レコードのジャパンカップとの相違

イクイノックスのパフォーマンスを観て、パッと思い当たったのはアーモンドアイのジャパンカップでした。どちらもハイラップを番手から抜け出す内容です。いちおうそのジャパンカップのレースラップも載せておきます。
12.9-10.8-12.2-12.3-11.7-11.8-11.7-11.4-11.4-11.0-11.4-12.0

 

大きな違いは、鞍上の戦略と鞍下のスタミナが効いて逃げ馬キセキが2着に残っていること。そのあたりは当時のレース回顧で書いていますのでご参照いただければと思います。キセキ川田将雅タップダンスシチー佐藤哲三のラップメイクの相似形について語っております。

keibascore.hatenablog.com

 

今回のレースラップはもっと厳しいもの、藤岡が「アグレッシブ」と表現していますが、うーん、逃げ馬にとってはもっと自滅的なラップ推移だったと思っています。だからこその世界レコードなんですけどね。

 

高速巡行能力と「四輪駆動」という個人的な仮説

逃げ馬のラップ推移に違いはあれど、アーモンドアイとイクイノックス、両勝ち馬の高速巡行能力が高いレベルにあることは疑いようがないですよね。どちらにも共通するのは「四輪駆動」というキーワードだと個人的に感じているところです。

ここを深堀りするのは別の投稿でまた長々と取り組んでみたいのですが、3歳時のアーモンドアイは筋肉の柔らかさと伸びやかなストライドで高速巡行能力を発揮していると思っていまして、それは古馬になりパンプアップすることで相対的に失われていると見ています。

胸前とトモの筋力が増したことで5歳時のアーモンドアイはよりマイラー色が強くなったと感じていまして、それはそれでパワーによる加速力という別の強さを獲得したという理解をしています(その分距離適性が短めにシフトしたという理解ですね)。

 

イクイノックスの場合は逆というべきでしょう。3歳時にはトモの推進力が非力なためトップスピードに乗るまでに準備を要し、もっているスタミナも十二分に鍛え上げられていませんでした。

トモの推進力とトップスピードの持続、鍛えていくことでどちらも並行して強くなっていくはずで、その結果として四輪駆動となり高速巡行能力を有していった。それが4歳の、世界最強のイクイノックスなのだと思っています。

 

…うーん、もう少し言葉を重ねたいですね。キタサンブラック産駒の特徴と合わせて語りたいところ。改めて別の投稿で好き勝手書いてみたいと思っています。先に挙げたビジュノワールも父キタサンブラックなんですよね。

 

トーセンジョーダンから見るエクイターフへのアジャスト

エクイターフが導入されて、最もその特徴を発揮したのがトーセンジョーダン天皇賞秋だと思っています。当時のエクイターフに対する見立てをまとめた投稿、いまでも大外しはしていないように思っています。

keibadecade.blog.fc2.com

レイデオロ天皇賞秋の回顧で、もう少し端的にまとめています。こちらも参考になれば。

コンディションのよいエクイターフでは、強くグリップしなくても地面からの反力が得やすい=スピードが落ちにくいためバテてからの失速幅が少なくなるのでは、という推論をもっています。

地面からの反力を受け続けてトップスピードを維持するには強い筋力が必要と考えられます。

keibascore.hatenablog.com

上記の議論に付け加えるなら、スピードの持続力には心肺機能も強くなければいけません。イクイノックスにはこの点も問題なかったということでしょうね。

 

サイレンススズカを通じて語られた理想とその結実

Number Web、2020年の記事ですが武豊サイレンススズカの回顧のなかで、理想のサラブレッドについてコメントしていました。

number.bunshun.jp

本当に理想的な競馬はいきなり先頭に行って、最後もいい脚を使う。これができる馬が理想のサラブレッドなんです

上記リンクのひとつ前のページではサイレンススズカ金鯱賞後の武豊のコメントとして以下が紹介されています。

夢みたいな数字だけど、58秒で逃げて58秒で上がってくる競馬もできそうな気がしてきました

速いスピードの果てしない持続。これが叶うなら端的に無敵、ですよね。エクイターフのスピード担保を受けて、今回のイクイノックスは57.7-57.5のレースラップを走り切りました。この理想論がある意味で形になりましたね。

 

…何と言いますか、こうして過去の名馬との比較の中でその強さを論じていると、イクイノックスがもう「歴代」という価値観で語るべき存在になっているのかななどと身勝手なフィードバックが始まってしまいますね。

 

次走はジャパンカップ、リバティアイランドとの対決

先のエクイターフ論で述べていますが、あの馬場でスピードを出し切る代償として、レース直後は過大な筋肉への負荷を負うことになると思っています。

どの程度回復して、どの程度超回復してジャパンカップに臨むことができるか。イクイノックスに限らず、まずはその点が秋天組の大きな課題になるはずです。

 

そして三冠牝馬との対決。ワクワクしまくっているわけですが、実際どうなるかはまだイメージしにくいですね。

ひとつ思っているのは、ジャックドールのようなタイプがいませんから、天皇賞のようなオーバーペースの追走力を問う展開にはならないだろうということ。そしてこの完勝でイクイノックスに息の長さでは敵わないと判断する他陣営がどう負かそうとするのか。

例えば、馬群が密集した極端なスローペースからのハイレベルなチェンジオブペース。昨年のヴェラアズールのような展開なら、リバティアイランドやドウデュースに利があるとも。多分に枠順がものを言いそうな気がしています。

 

ジャスティンパレスとプログノーシスは前半の追走を求めずに2、3着

スタートダッシュがつかないことは折り込み済。そのうえですぐに待機策に切り替えました。横山武史も川田将雅も鞍下のリズムを保って後半勝負にかけるあたりはさすがの勝負のかけかたですね。

当日行われた社台のパーティの様子がYouTubeに上がっていたのを見つけたのですが、川田はプログノーシスで追走しながら「このペースでもイクイノックスだけは止まらないんだろうな」と思っていたとコメント。果たして、その見立て通りになりました。

 

直線外目からひとつ早めに仕掛けたプログノーシスを見てから外に持ち出したジャスティンパレスが2着。直線入口の思惑の差が2、3着を分けたような気がしています。

 

ドウデュースの敗因とその走りの特徴

本命でした、まずは残念でした。とにもかくにも乗り替わりは痛かったと思っています。もちろんピンチヒッターの戸崎に罪はないですし、むしろあの直前の指名からよく乗ってくれたという感想です。

「思ったより前にいけてしまった」という戸崎のコメント。すべてが手探りのなかで、折り合い方やスイッチの入り方、仕上がっている分より繊細であったかもしれませんから、そのすべてを感じ取ってゲートから2コーナーのポジショニングまでを完璧にこなす、というのは相当に難しいことでしょう。一度でも跨っていればもう少し違ったかもしれませんけどね。

少なくともこれまでのドウデュースの経験を壊すような勝負をしたとは見えませんでした、それだけでも代打騎乗の役割をしっかり果たしてくれたと思っています。

 

アクシデントでの乗り替わり、レースのペース、そして左右を挟まれての力んだ追走。敗因はこのあたりに見出せると思います。

 

前走にあたる京都記念のレースラップ、入りの3ハロンは12.5-10.9-11.2でした。これをドウデュースは後方3番手で折り合いに専念しています。対して今回は12.4-11.0-11.5で5番手追走、初速がついて馬の間に挟まれながらいきたがる状態になりました。

 

ダービーの直線でイクイノックスを一瞬で置き去りにした通り、ドウデュースの得意技はギアチェンジの速さ、トップスピードまで一気に持っていく脚の回転力にあるでしょう。端的に、加速力のドウデュース、持続力のイクイノックスと理解していました。

今回はレースラップ通り、高いスピードレンジでの持続力が問われたわけで、ドウデュースは相対的に苦手な流れの中で着順を落としたと見ています。

 

1週前の追い切りはやばかったですねー。仕上がった一流馬の動き、後年のお手本とすべきパンプアップだったと思っています。

パドックで見た馬体も素晴らしかった。ただホントにちょっとだけ、ものすごい主観ですが、あの1週前の超絶追い切りからするとホントにちょっとだけ物足りなかったんですよね。何と言いますか、言語化しづらいですね、若干のピークアウト?と思ってしまったのを書いておこうと思います。

 

また、あのパンプアップからするとマイルから1800mくらいがベストな距離になっている可能性が高いという印象です。もともと朝日杯にアジャストしていた馬ですからね。

 

次走はジャパンカップ。幸いレース後すぐに乗り始めたとのこと。武豊も2週騎乗を見合わせてマイルCS週から乗り始める予定、ドウデュース騎乗に間に合わせるということですね。この一頓挫から復活Vなら、さながら週刊少年ジャンプの主人公。それも見てみたいですね。

 

最後に

武豊負傷の報は当日のパドックで目にしました。正直しなしなとワクワク感がしおれていきましたね。。。

新馬のブラックライズに右足(膝のうえ、ももの部分)を蹴られたことまでは情報をつかみました。インゼルレーシング所有というのがなんとも皮肉な巡りあわせでした。

新馬とはいえ鞍を外すところでジョッキーが蹴られるというのはあまり聞いたことがない認識。結果として太ももの筋挫傷、本人のブログで膝を蹴られなくてよかった旨指摘がありました。腱や骨、関節に影響がなかったのは本当によかった。でもドウデュース。。。

 

天覧競馬であったことも触れておかないとですね。陛下は以前にも馬券を買われたことがあるなど、いろいろなエピソードが報道ベースにのっていました。お墨付きではないですが、競馬がよりオフィシャルな存在として認められるよい機会だと思っています。

ルメールにとっても天皇賞を勝っての拝謁ですから日本への思いを深くする出来事になったのかな。観ているファンにとっても印象的な瞬間でした。


…ふう、これをまとめるのに1週間を要してしまいました。すでに日本のJBCアメリカのBCも終了(アメリカはまだスプリントG1が残っているというタイミングですが)。こちらはこちらで印象的なレースも多く、感じることが多く。まとめて書くかな。

大きなレースが立て続くとどうしてもひとつひとつの取り扱いが薄くなってしまうのでうれしいやら慌ただしいやら、何とも複雑ですね。とりあえず朝まで競馬観戦がだいぶカラダに堪える年齢になっているのが間違いないので、振り返るにしてもたくさん休息をとってから、と思っています。