トルカータータッソ、重馬場をタフに差し切りました。
当日まで保護していたインの馬場、ましてオープンストレッチですからね。そこを通れる馬にアドバンテージがあると思っていましたが、それよりも馬場適性とドイツ血統が勝ったというべきでしょうか。終始馬群の外を追走したトルカータータッソがそのまま外から差し切りました。
上位3頭の上がりラップを比較すると、その末脚の特徴が掴めるかと思います。
トルカータータッソ
12.28-12.04-12.44
タルナワ
12.41-11.76-12.46
ハリケーンレーン
12.39-11.87-12.53
残り400-200のラップはタルナワが最速。11秒台だったのはこの2頭にスノーフォールを加えた3頭。ここで勝負が決まらないのが当日の重馬場だったともいえるでしょうか。
トルカータータッソはちょうどこの区間で後ろからスパートしたスノーフォールに交わされ、4コーナーでポジションを下げたタルナワにも捕まっていました。外から不利なくスパートしていましたが、加速力では分が悪かったようです。
反対にラスト1ハロンの失速幅を最も抑えていたのがトルカータータッソでした。ここが勝負の決め手になったようですね。ラップで見るとわずかな差ですが、100m単位で分割すればゴール前の攻防をより鮮明に反映した数値になっているのでしょう。
スティッキーな馬場をしっかりグリップしながらいい脚を長く使える、その特徴が活かせるレースになったと思っています。日本のオッズでは単勝万馬券でしたが、決してフロックではないですね。
フランスギャロのレース結果はこちら。
https://www.france-galop.com/en/racing/detail/2021/P/QTk2a3hKNXNVTjFMbVJCWkplSnU4dz09
JRAのレース結果はこちらですね。
公式レースラップ
フランスギャロのレース結果ページに「トラッキングレポート」というリンクがあり、PDFファイルにて閲覧ができます。
https://www7.france-galop.com/Casaques/Tracking/20211003LON04_last_times_fr.pdf
各馬の個別ラップは丁寧に記載されているのですが、レースラップは後半5ハロンのみ、前半のハロンごとのラップは省略?されていまして、おおよそで読み取る必要があります。一応書き起こしてみますね。
1:33.94-13.10-13.22-12.32-12.35-12.67
レースラップ1400m通過タイムはその時点で先頭だったアダイヤーと同一。アダイヤーとトルカータータッソの個別ラップを並べてみるとレースの特徴は掴みやすいかなと思います。
アダイヤー
15.42-12.40-13.16-13.24-13.60-13.33-12.77-13.10-13.22-12.32-12.35-13.32
トルカータータッソ
15.63-12.42-13.19-13.34-13.82-13.40-12.92-13.04-13.05-12.28-12.04-12.44
ペネトロメーターは4.2、馬場発表は「COLLANT」
昨年2020年(勝ち馬ソットサス)は4.6、フィエールマンとブラストワンピースが敗れた2019年(勝ち馬ヴァルトガイスト)が4.1、サトノダイヤモンドとサトノノブレスが敗れた2017年(勝ち馬エネイブル)はシャンティイで3.6。モンジューとエルコンドルパサーの1999年が5.1、近年はそこまで悪化してはいませんが、日本の基準に置き換えての「重」馬場開催が続いていますね。
現地発表は「COLLANT」。フランス語でべとつく、くっつくといった接着力を示す言葉のようです。さらに悪化した場合の表現はありますが、今回の関係者からはまとわりつくような馬場という表現がよく聞こえていましたので「COLLANT」はそれを上手く言い当てているのかもしれません。
以下のページで、JRAが馬場発表の基準について現地表記と比較する形でまとめています。なお、エネイブルの2017年は「SOUPLE」、今年より2段階よいコンディションという発表でした。
日本馬は馬場をこなせず惨敗
「重い馬場にのめって」「日本の重馬場とは違いました」「未知の経験と言えるほどの重い馬場」。表現は様々ですが、日本馬2頭の関係者から出てきたコメントは、重馬場をこなせなかったというもの。
クロノジェネシスは外枠という不利な条件を打開するために、スタートからしばらく馬群から離して外々のコースを選択しました。オイシン自身がゴールデンホーンを引き合いに出していましたね。ゴールデンホーンは折り合い面が主眼だったように記憶していますが、今回は序盤のスピードセーブと馬場選択の両面に狙いがあったでしょう。直線半ばまでは粘っていましたけどね。
ディープボンドはそもそも当日の重馬場にアジャストできなかったようです。しっかりグリップできなかったとはレース後のトレーナーのコメント。序盤でブルームに前にはいられてからはポジションをキープすることができていませんでした。
日本との馬場の違いは路盤でしょう。雨季があり多湿で根腐れを起こしてしまうような風土の中で人工的に排水性を高めた日本の「スポーツターフ」。これと、降った雨をそのまま含んでしまう粘土質な土壌では、「重」の意味はだいぶ異なると思われます。粘土質の土は乾くとカラカラ、湿るとベトベト、というのが一般的な特徴ですので、そのイメージで捉えているところです。
馬場が大きな要因とは思っていますし、一方で凱旋門賞だけにアジャストすることを狙った馬場を日本で作ることも現実的ではないでしょう。「運」という身も蓋もない言葉が一番適しているように思いますね。もちろん単なる確率の話ではなく、人事を尽くして好天を待つ、ということが勝利へのルートなのでしょう。
以前の凱旋門賞回顧、馬場の話やアジャストできる走りの話など、凱旋門賞の度に考察してきた痕跡を以下に改めて。脚を引き戻す軽さとか、グリップしやすい馬場を馬が信頼しているか、サドラーズウェルズ系がサンデーサイレンス系を阻んできた歴史などなど、我ながらいろいろ言葉を駆使しているなと。どちらも長いのでお時間あるときにどうぞ。ご参考になれば幸いです。
父アドラーフルーク
トルカータータッソの父はアドラーフルーク。2007年のドイツダービー馬で昨年2020年のドイツ・リーディングサイアー。そのリーディングサイアー獲得はインスウープの凱旋門賞2着が大きいものと推察できますが(出走頭数が多くないんですよね)、これまであまりちゃんと調べていなかったなぁと。
YouTubeにはドイツダービーの映像がアップされていました。フォームがトルカータータッソにそっくりですね。首を高くして胸を張って前脚を高く上げて叩きつけるフォーム。自らの脚力で重馬場をグリップするひとつの解なのかもしれません。サドラーズウェルズの支流のひとつがドイツ競馬にアジャストする途上を見ている、という表現も浮かびました。
そのアドラーフルーク、今年の4月に亡くなっていました。やはりもったいないという思いがしますね。トルカータータッソにまたひとつ大きな役割が期待されます。
アドラーフルークの祖母alyaと4代母Allegrettaが全姉妹クロス。Allegrettaはアーバンシー~シーザスターズを輩出していますから、それは凱旋門賞獲るよなーというレース後のTwitterの「感想戦」も納得するところでした。
トルカータータッソの血統解説、こちらも参照いたしました。
気になった馬
アダイヤー
これまでのパフォーマンス、というより走法、特に後躯のストライドの柔らかさと大きさが重馬場に合わないように感じていましたが、個人的には善戦していたという認識でいます。ラビット不在の状況下で3コーナーの下り開始に合わせるように先頭に立つ作戦は、馬場のマイナスを英ダービーを押し切った「下る力」で相殺しにいったのかなと。首を振りながら前半の登坂を何とか我慢させたことも含めて、ビュイックのパフォーマンスは妥当と思わせてくれております。
タルナワ
夏から本命でした。セントマークスバシリカの2着、秋3戦目で望むローテーション、鞍上にスミヨンを迎える判断、内枠を引いたこと、その都度都度に本命視へ自信を深めていきましたね。実際のレースでもインでじっとしてオープンストレッチで広がったインへ切れ込む、内枠のアドバンテージを最大限に利用したコースを選択できました。
そこからゴールまでのイメージだけが戦前と異なっていた、というのが率直な感想です。凱旋門賞当日のみ使用されたオープンストレッチですが、それまでの数レースで思った以上に悪路になっていたのかな。冒頭でラップ比較をしましたが、末脚のスタミナを奪いやすい馬場コンディションが敗因と言えばそうでしょう。結果だけが伴わなかった、という認識でいます。日本馬の敗因探しとたられば的な分析は沸き立ったファン心理を落ち着ける効果を期待できるとは思いますが、今回のタルナワが何故勝てなかったという議論はそれ以上にすっきりとはまとまらないでしょう。それこそトルカータータッソが馬場にアジャストしなければ、という「運」の部分が大きいと思われます。獲ってほしかったですね。
ハリケーンレーン
年間を通して安定して高いパフォーマンスを続けていました。英ダービー、凱旋門賞と象徴的な場面で惜敗したことで「安定して」という表現に妥当な感覚を覚えてしまうのが何ともですね。愛ダービーも英セントレジャーも高評価、アダイヤーより重馬場に適したフォーム、これらをもって最終的にタルナワ-ハリケーンレーンが本線になったのはピントが合っていたという理解でよいものと思っています。アダイヤーのダイナミックさとはまた違う、カッコいいフォームなんですよね。もう少しその走りを観たいですが、アダイヤーともども来シーズンはあるのかな。
スノーフォール
直線でトルカータータッソの背後からいったん交わすまで切れ味を発揮しましたが、そこで息切れしてしまいました。加速力に長けていてもパリロンシャンの重馬場をタフにバテずに走り切るには、ディープインパクトという血統以上にコンディションの下降が大きかったかなという印象です。戦前の懸念は当たっていたのかな。
先ほど英チャンピオンズフィリーズ&メアズSでも3着敗退。間隔を詰めて使って敗退を続けるその意図が読みにくいですね。
最後に
先ほど英チャンピオンSの結果を確認。ミシュリフ、アダイヤーともにアスコットの「Good To Soft」に耐えきれなかったような敗戦でした。一方で凱旋門賞5着のシリウェイが他馬を退けての勝利、2着ドバイオナーと3着マックスウィーニーはレース前半に待機策、前でやりあったミシュリフとアダイヤーを後ろから捉えた格好ですから、凱旋門賞の着順が序列としてしっかり反映されたように見えています。
2着ドバイオナーはドラール賞の勝ち馬、3着マックスウィーニーは愛2000ギニーの勝ち馬ですから、決してフロックでもないですしね。馬場の巧拙が着順に反映されたものと受け取っています。
ミシュリフ、アダイヤーともジャパンカップで走ったらどうなるでしょう。実現の可能性は低いと思われますが、例えばアダイヤーなら少し湿ったあとの府中に上手くアジャストできるような気もしています。こちらでパフォーマンスを見せてくれると、より能力や適性の評価はしやすくなるんですけどね。
日本馬の海外遠征、それもG1中のG1へ挑むことは、現地の馬との直接比較による能力のアピールの場という側面が大きいでしょう。国際レーティングへの反映もしやすくなるでしょうから、実力とレーティングの数値にギャップが生じにくい=妥当な評価を受けやすい、ということにも通じるはずで。
でも直接対決がないことで「未知の魅力」が生まれることもまた競馬の楽しみのひとつですものね。その意味ではシリウェイを仏ダービーで、ミシュリフをエクリプスSで、タルナワを愛チャンピオンSで下しているセントマークスバシリカ。アダイヤーとハリケーンレーンの2頭とは直接対決がないものの、今年1番強かったのでは?という未知の部分を残しながらの引退は絶妙なタイミングだったのかもしれません。
でも、仮にセントマークスバシリカが出ていたとしても、今年の凱旋門賞はトルカータータッソだったように思っています。こういうタラレバはファンの醍醐味ですね。