more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

相対化されつつある凱旋門賞

会社帰りに「優駿」を熟読する時間はよいですね。至福のひと時です。

 

秋のG1を展望する記事はこの時期ならではのもの。自身の評価との一致やギャップを感じながら近況を読み進めていくと、どんな期待感で秋開催を迎えるのかという心の準備が少しずつできてきます。

 

昨年10月号の優駿では、秋のG1に向けた特集がありつつも表紙はばっちり凱旋門賞でした。ドウデュースやタイトルホルダーがフィーチャーされています。

一方、今年の10月号の表紙はリバティアイランド、「ラストクラウン」という題字が真っ先に目に飛び込んできます。やはりスルーセブンシーズ1頭だけの参戦という状況が、凱旋門賞の取り上げ方に変化を生んだものと思います。

 

春先の一次登録が3頭と、その少なさが話題になっていましたが、スルーセブンシーズ陣営はこのあたりから具体的にその可能性を念頭においていたようです。全文は有料記事ですが、こちらの取材がその経緯にいちばん詳しい印象です。

news.netkeiba.com

 

記事のなかではクルーガーのオーストラリア遠征などを引き合いに出しながら、現地の天候や馬場状態、そして血統(からくる気性)など、より適性を見極めて遠征を判断している様子が窺えます。

Twitterでたまに、一口持っている方が投稿した海外遠征費用の請求書類を目にすることがありますが、いやー凄い金額ですよね。遠征、滞在費用についてはJRAの助成はなかったはずで、会員への負担は相当な重さになるのが現実です。

 

昨年まったく適性外ということがはっきりしたドウデュースも、現役世界最強の評価を受けたイクイノックスも今年のかなり早いタイミングで凱旋門賞を選択肢から外していたと記憶しています。

いずれもより適性が高く、何より限られた競走生活のなかでベストなパフォーマンスと結果を希望すると、やっぱり府中のG1という選択肢に落ち着くのではと推測しています。イクイノックスの場合は会員各位への負担と賛否が渦を巻くでしょうしね。

※9/30追記

ドバイシーマクラシックを勝った馬への報奨金制度があったんですね。失礼しました。それを秤にかけてなお凱旋門賞という価値判断ではなくなってきている、ともいえそうです。

sportiva.shueisha.co.jp

 

 

JRA-VANの特集ページでは、凱旋門賞へ挑戦した歴代の名馬が一覧されています。チャンピオンクラスのチャレンジがコンスタントにあったことがが見て取れますね。

world.jra-van.jp

 

一方で、バリードイルからの参戦も今年は寂しいものになりました。直前で英セントレジャーを勝ったコンティニュアスが追加登録での参戦。ハーツクライ産駒という日本向けの話題性はありますね。

セーブザラストダンスがヨークシャーオークスで3着に敗退したことで、有力な参戦馬がいなくなってしまったように見えていました。今年のオブライエン厩舎のエースは重馬場が苦手なオーギュストロダンですからね。

そのオーギュストロダンは早々にBCターフへの参戦を表明。先に挙げたヨークシャーオークスヴェルメイユ賞を連勝したウォームハートもBCへ矛先を向けるとのこと。こちらも適性を求めた結果、凱旋門賞が選択肢から外れました。

 

サドラーズウェルズモンジューガリレオと大きな影響力のある種牡馬を繋養してきたクールモアスタッドが、いわゆる「ポスト・ガリレオ」体制をどう求めるのか、という課題にディープインパクトというひとつの回答を提示してきたのが近年の実績であるわけで、これと今年の凱旋門賞参戦への濃度はよくリンクしているように見えてしまうんですよね。

 

雨の多いこの時期のパリロンシャン。馬場適性がマッチしない馬をエントリーして天候を祈るのはリスキー、というのはこれまでと変わらない条件であるわけです。それを踏まえてなお凱旋門賞を最優先ととらえる価値観が欧州にも日本にも横たわっていたと理解をしてきたのですが、それに少しずつ変化が生じてきているように感じます。

 

もちろん欧州最高の賞金額を誇るレースであることには変わりありませんので、当面「凋落」というような表現は当てはまらない安定した運営が続くことでしょう。

ただ、現在大きなマネーが動くドバイやサウジアラビアでは、よく整地されて手入れの届いたフラットな芝コースでスピードを競っているわけで、こちらに世界のトレンドが移っていくというのも頷ける傾向だと思っています。

 

うーん、パリロンシャンが府中のような馬場を目指すことは、…ないような気がしますね。競走馬の取り扱いを極めていくと、馬場と天候という自然の不確定要素が勝敗を左右する要素として浮かび上がってくるわけで。人事を尽くした結果、自然のいたずらを待つことになるとは、皮肉と言いますか面白いと言いますか。

 

One Of Themになりつつある(と思われる)凱旋門賞。スルーセブンシーズが勝利するとなると日本競馬の呪縛がひとつ解かれるわけで、チャンピオンのチャレンジは必ずしも不要というこの相対化もますます進むものと思います。

 

個人的には、日本ダービージャパンカップが名実ともに世界最強を決める場所と評価を受ける時代を望みます。とはいえ、隣の芝生の青さのごとく他国の競馬のいいところをうらやましがっていくマインドも大事にしたいですね。そのほうがどちらも堪能できますから。