more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第81回 菊花賞

コントレイル、史上8頭目の3冠を達成いたしました。

直線はゴールまで目いっぱい、息を飲んで見守ることになりました。アリストテレス猛追。ルメールは残り150をフルパワーで走らせたそうです。さすがにダービーのように抜け出して遊ぶ場面は見られませんでした。

ペースが落ちるところでかかる素振りが見えた道中、福永はリラックスさせることができなかったと話しています。アリストテレスのマークがきつかったこともあるのでしょう。

ただ、レース中の追走スピードがもっと速い方が向く、という意味で長距離向きでないコントレイルの資質が垣間見えるアクションだったと思っています。

不向きな距離、比較的緩急の多いラップ、ルメールの徹底マーク、2周目の1コーナーからはインのヴァルコスからもプレッシャーがかかったでしょう。これらを跳ね除けての無敗の3冠となりました。

「最も強い馬が勝つ」菊花賞。言い古されたフレーズですが、こうして時折ピッタリ嵌る年があるから、忘れ去られていないのでしょう。3冠の中では最も強さを示したレースになったと思っています。素晴らしいレースでした。

公式レースラップ

12.8-11.9-12.1-13.3-12.1-11.9-13.1-12.4-12.5-12.7-12.9-12.2-11.8-11.6-12.2

クッション値と含水率

2020-10-25 京都芝コース
クッション値 9.4
含水率:ゴール前 10.0
含水率:4コーナー 11.0

金曜の雨の影響が残る馬場コンディション

菊花賞当日はだいぶ乾いていましたが、それでも外差しの傾向は変わらず。金曜にまとまった降雨があったので、土曜はどうしても乾き切らない中での芝コース使用。インを通った馬は最後伸び切れないという印象が強かったですね。実際、1周目のスタンド前で馬群はインを避けていましたし。

金土日の含水率とクッション値の推移は以下の通りです。

ゴール前 14.8→11.8→10.0
4コーナー 13.2→11.4→11.0
クッション値 7.0→8.5→9.4

日曜に向けて含水率は減少(湿→乾)、クッション値は上昇(軟→硬)。馬場が乾いていることがわかりますね。

キメラヴェリテの逃げは振れ幅の大きいラップ構成

大方の予想通り、という先手争い。…争ってはいないですね。キメラヴェリテが外枠から押していって先頭へ。バビットの2番手も予定通りだったでしょう。どちらかというと隊列が決まったその後のラップ、かなり乱高下して見えることがポイントと言えそうです。

3ハロン目のラップからは、12.1-13.3-12.1-11.9-13.1。1秒以上のアップダウンがハロンごとにつづきます。これを1000mごとのラップで見てしまうと、捉えるべきアップダウンが均されてしまいますね。

1000m通過も2000m通過もスローと判断できるでしょう。しかしその内実は、心身ともにスタミナを消費する、上下動の大きい、アジャストするのが難しいラップ構成だったと読み取れます。

ただし、このキメラヴェリテにまともにお付き合いしたのはバビットとレクセランスくらい。4番手以降はもう少し「波」の抑えが効いた追走だったのではないでしょうか。一定のペースを刻む方がスタミナはロスしませんからね。特に1、2着馬は静に徹していたものと思います。

コントレイルは力みながら中団より前

スタート、よかったですね。内枠のメリットをしっかり活かしてそのまま先行策、ただし外に張りながら最初のコーナーを迎えています。馬場の渋いインを通らないことは作戦だったのでしょう。

しかし、道中はなかなか噛みました。レースラップが落ちたあたりでは鞍上が手綱を引く姿が確認できます。バビットの方がより顕著でしたが、やはりもう少し道中のスピードが速い方が得意なのでしょう。ギアを落として遅く走るには気持ちが勝っているのでしょうね。

ディープインパクトはもっと派手にギアがあがって1周目のスタンド前に入ってきましたが、2周目の向こう正面は落ち着いた追走を取り戻していました。対してコントレイルはリラックスした追走区間をまとまって得られないまま3000mを走り切ってしまったように見えています。…かえって語り継ぐエピソードになった気がしますね。

福永のファインプレーひとつめ

3コーナー手前、インを走っていたレクセランスが後退。コントレイルの前方イン側に大きなスペースが生じました。福永は意識してそのスペースにはいったようです。レースを通じてアリストテレスから馬体を離した唯一の区間となりました。

ガロアクリークのイン、前方にはバビット。ちょうどその間にはいっていける、ひとつ後ろのポジショニング。しかし4コーナー出口の少し手前、一転してガロアクリークとディープボンドの後ろに回り込み外へ展開、再びアリストテレスと馬体を併せる形になりました。

空いていたインを捨てて直線はそのまま外目へ。あとは印象的なデッドヒートにつながっていきます。

おそらくですが、3コーナー時点ではいったんインを突く判断があったように思っています。ただ、理想とするバビットとガロアクリークの間は4コーナーで閉まるという切り替えがあったのではないかなと。川田というジョッキーのコーナリング、バビットのふらつき、このあたりから前方の進路確保にリスクの少ない選択をしたと推察しているところです。

かくしてアリストテレスに併せにいったのではなく、結果としてアリストテレスの傍に戻ってきたという流れになったのかなと。

この切り替え、3冠のかかったレースの勝負どころで実行できたことがファインプレーでしょう。よく落ち着いて捌いたなぁと感心するばかりです。

関テレのYouTubeチャンネルではレースを空撮映像がアップされていまして、3、4コーナーで福永がどうリードしていたかがよくわかります。

www.youtube.com

福永のファインプレーふたつめ

ファインプレーはもうひとつ。再びアリストテレスを背負って4コーナーから直線。ひと呼吸、ふた呼吸と置いてから手綱を動かし始めています。道中の力みから、ギリギリまで追い出しを我慢する判断と受け取りました。

この判断も相当に落ち着いていないと難しいですよね。着差を考えると欠かせない間だったかもしれません。

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2020年菊花賞、4コーナーをニュートラルに回るコントレイル、手綱が動くアリストテレスとのコントラスト

ルメールは上記4コーナーでコントレイルの俊敏な反応に「カバーしきれなくなった」とのコメント。馬の地力の差がでた瞬間とも言えそうです。

ただ、勝負どころの鞍上のリードが勝利を手繰り寄せる大きな要因ではあったでしょう。ストレス少なく4コーナーをパスし、前方の視界がクリアな状態で直線を向くことができていました。コントレイルと福永だから、という内容でしたね。

本人へのインタビュー記事は以下。プレイヤーとしてコメントを発信する力は変わらず高いですね。

www.tokyo-sports.co.jp

史上8頭目3冠馬

セントライトシンザンミスターシービーシンボリルドルフナリタブライアンディープインパクトオルフェーヴル。ここにコントレイルが加わりました。こうして名前を並べてイメージすると、どの馬ともタイプが違いますね。

関テレのYouTubeチャンネル「はみだし競馬BEAT【公式】」では、実況と合わせてそれぞれの3冠達成となったレース映像を再生リストでまとめてくれています。いい仕事していますね。

www.youtube.com

次走は様子をみてジャパンカップ

すでにデアリングタクトが出走表明をしていますので、参戦が決まれば「無敗の3冠牡馬」と「無敗の3冠牝馬」が直接対決することになります。限りなく近いのはジェンティルドンナ vs オルフェーヴルでしょう。

もちろん他馬の動向も影響しますのでいまは何ともいえませんが、今回も2kgのセックスアローワンスは大きくものをいうのではとぼんやりイメージしているところです。

アリストテレスは大健闘の2着

頑張りましたねー。終始コントレイルをマークして、直線でもあわや、というシーンを演出してくれました。

前走の中京、直線先頭から粘り切った内容をプラスに捉えるかは迷ったのですが、折り合ってすすめられたことで力の発揮につながりました。思った以上に長距離合っていますね。

個人的にはバレークイーンの血統で馬券を外したことが痛恨の極みだったのですが、活躍馬を送り出してくれるなぁという謎の感慨にもつながり。当日TLでもリンカーンという言葉があふれていましたね。淀の長距離、ディープの2着、という符合。ベテランファンならパッと思い出せるはずなのにね。

ルメールはプレッシャーをかけていない、とコメント

上記、福永のコメントと照らし合わせながら読むと面白いですね。以下、平松さんの取材記事です。

news.yahoo.co.jp

「僕はあの位置でコントレイルにプレッシャーをかけていたわけではありませんでした」「コントレイルをインに入れてガードしたかったんです。自分の馬の動きが良かったから強敵を馬群の中に抑え込んで脚を使わせないようにしようと考えていました」

その一連の動きをプレッシャーと呼ぶのでは…、というのが自分の見解です。見解というほどでもないかな。細かく言い直すなら、コントレイルの精神面に直接プレッシャーをかけたかったのではなくコントレイルが走りたいコースを取らせないよう外から塞いでいた、となるでしょうか。

結果的にコントレイルにとってはプレッシャーだったでしょう。そうすると「斜め後ろにいた2着馬がずっとプレッシャーをかけてきていた」という福永のコメントと整合すると思われます。

平松さんは取材した内容を整理して提示することに徹していたのかな。このくらいの分析はできたでしょうからね。

3冠馬へのリスペクト、日本競馬へのリスペクト

ルメールのコメントの真意、個人的には3冠馬へのリスペクトを最優先にしたのかなと思っています。レースでのせめぎ合いはフェアであり、その結果3冠馬が誕生したよ、というメッセージが伝わることを大切にしたのかな、と。以下の通り、優勝馬のパフォーマンスに対して賛辞が並んでいるんですよね。

「コントレイルがサッと動いた時に、アリストテレスは少し忙しくなってカバーし切れなくなってしまいました。その一瞬の間に、コントレイルは馬群の中から外へ出て来ました」 「コントレイルに止まる気配は全然ありませんでした。正直、最後の最後まで1度もかわせると思えませんでした」 「2着だったけど僕にとっては優勝でした。強い馬と好勝負が出来たので残念とは思いません」

ちょっと引用が続きますが、そのあとG1で好走した馬への期待について、以下のように語っています。

「G1で好レースの出来る馬は、次もまたG1で頑張らないといけません。それはとても大変な事だけど、コントレイルもアリストテレスも良い馬なので、きっとこれからの日本の競馬を盛り上げる走りをしてくれるはずです」

歴史的レースの後で、こういったコメントが出せるのは本当に有難いなと。リップサービスの側面もあるのでしょうが、この味付けなら大歓迎です。

こうした姿勢は福永にも、リーディング争いをしている川田にもみられると思っていますが、競馬のもつ価値が引き続くよう、もうひとつ前進するよう、その捉え方について踏み込んだ言葉をタイミングよく紡ぎ出すのはなかなか難しいと思います。いちジョッキーの枠を超えて牽引役を引き受ける姿勢が必要ですから。

クリストフは3冠馬への賛辞を通して、競馬の魅力が伝わるよう努めて発言したように見えています。…今回は平松さんの引き出し方が上手かったのかもしれませんけどね。

…そうですね、先達として、競馬の価値の牽引役として、武豊の存在は大きいのかもしれません。

引用したYahoo!の記事、リリースした週で一番読まれた競馬記事とのこと。納得するばかりです。2頭と2人のすばらしいデッドヒートを改めて受け取り直すことができました。

最後に

ゴール後に一段高まった場内の拍手。よかったですね。コロナ禍での感染対策がちょっと強迫的なエチケットになりつつありますので、そうした背景を踏まえてちょっと感慨深く中継映像を観ていました。

一方で、こういう記事をまとめるにはどうしても全集中する時間の確保をしたいところなのですが(ちゃんと堪能したテンションのなかで書きたいんですよね)、結局平日は仕事三昧。ずっと書いていない書いていないと思いながら仕事に向かうのは精神衛生上よろしくないんですけどね。案の定、土曜にずれこんでの投稿となりました。もうブエナヴェントゥーラが勝っていますよ。

さて、今週のチャレンジはアーモンドアイ8冠。自分は達成できると思っているのですが、他馬の力量と戦略を見極めないと予想的中にはつながらない難しさがあると見積もっています。何が逃げますかね。ダノンプレミアム、ジナンボーという線もあり得るでしょうか。

川田が勝機を見出すべくどこかでペースを締めてくる(=緩めない)でしょうから、特にレース後半に速いペースを追走してもう一段ギアを上げられる馬を狙うイメージ、…アーモンドアイですよね、というのがいまいまの見解です。キセキ、ブラストワンピースの先行策をどう見積もるか、あたりが難しいかな。隊列とペースに影響しますよね。

2歳時にアイビーSで32.5を出しているから高速馬場への適応は問題なし、という見解を目にしましたが、高速巡行能力とは別の資質だと理解しています。当時に比べてしっかり筋肉のついたクロノジェネシス。府中のG1実績はペースの緩むオークスのみですから、やってみないとというのが現在の見立てです。

このクロノジェネシスの評価が今年の天皇賞の最大のポイントと思っています。はい、楽しむポイントであり、的中のポイントという理解ですね。