more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第166回 天皇賞(秋)

イクイノックス、届きましたね。

 

珍しく内馬場での現地観戦だったのですが、3コーナー付近でのどよめきと4コーナーから直線にはいるにつれてそれがアップセットの期待と予感に変わる場内の雰囲気は確かに伝わってきました。6万人の歓声はいいものです。ターフビジョンを確認できる角度ではなかったのですが、ルメールが捉え切ったのは視認できました。

パンサラッサとそれ以外。2つのレースがあった、と理解しています。それを最後に1つに結んだのはイクイノックスだけでした。G1戴冠にふさわしい力を示してくれましたね。頼もしい。

ルメールさん、直線まで前が見えてなかったようですけどね。アンカツブエナビスタエリザベス女王杯を思い出しましたよ。

 

公式レースラップ

12.6-10.9-11.2-11.3-11.4-11.6-11.8-11.6-12.4-12.7

mahmoudさんのDERBY ROOMで確認したバビットの個別ラップ、各ハロンラップの小数点第二位を四捨五入して引用いたします。引用?

12.7-11.0-11.4-11.9-12.3-12.6-12.1-11.1-11.5-12.1

 

2つのレースの鍵はバビット

メンコを外したパンサラッサの反応はよくなっていましたね。ファーストコーナーはやっぱりごちゃつくわけですが、できるだけスタートダッシュの負荷を抑えながらポジションを探ってきたジャックドールを前に入れさせませんでした。個人的に、ここまでの運び方でジャックドールの勝ち目はなくなったのだろうと理解しています。

ノースブリッジ、バビットが外から先行してきましたが、あれだけダッシュできていれば譲る必要はないですよね。ノースブリッジはいろいろな意味で強引でしたが、パンサラッサにいったんは並びかけるあのけん制がなければ、ドバイターフ天皇賞秋はつながっていたかもしれません。

 

前半1000m、パンサラッサの逃げは57.4。
一方で、2番手バビットの逃げは59.3。

前半3ハロンを過ぎたあたりでノースブリッジが控えて収まり、じわじわとバビットが馬群を引き連れる形にまとまります。ここからパンサラッサが緩めず、対照的にバビットが控えていくことは上記ラップの比較でよくわかります。800-1000mのラップタイムは1秒近く違いますからね。そりゃ離れますよ。

 

自分がペースをコントロールすることで少しでも有利な立場へ。そういう戦略のなら納得のポジション取り。結果は最下位でしたが外枠から妥当なトライがあったものと理解しています。でもあの差を平然と受け止め続ける横山典弘の経験値たるや、ですよね。

 

パンサラッサはパンサラッサ

持ち味を活かすための前傾ラップ。57秒台ではいって59秒でまとめれば勝てる、矢作師のレース後のコメントでは事前の見積もりが語られていました。前半を突っ込むのはジョッキーの仕事、後半を粘りこむのは鞍下の仕事、極端な言い方をすればこんなところでしょうか。戦略はばっちり嵌っていたと思っています。

吉田豊もハナを取り切るまでの所作と、スピードを緩めないレース運びはお見事でした。古い馬を引っ張り出しますがサイレントハンターでいろいろ試していましたものね。

 

3コーナー過ぎの光景と57.4の符合がサイレンススズカを想起させるのはとても納得。当時を知る1ファンとしては、あの続きを、あのスピードの向こう側を観たい情緒もとても共感するところです。ウマ娘のアニメはその心理をうまく掬い取ってくれていますよね。いつまでも語るべき「たられば」とは思っています。

…でもキャラクターが違うんですよね。贔屓目かもしれませんし、相当に思い出が美化されているのかもしれませんが、サイレンススズカなら直線に向いてもうひと加速あるはずなんですよ。今回のような直線まで一貫した減速ラップを踏むタイプでもないですし。「逃げて」かつ「差して」くるからサイレンススズカなのです。

 

豊かな語りを生む方向でならイメージを重ね合わせることは大いに賛成です。令和のツインターボもアリですね。でもあの福島記念の衝撃を、そしてドバイターフの大接戦を演出できる馬ですから、個別のイメージで捉えるほうがよほど競馬の楽しさは増すのではないかと思っております。

大逃げ馬という同じ箱に入れてしまうだけでは少々乱雑ですし、過去の印象や記憶に頼りすぎてもね。いつまでもシンボリルドルフ最強ではないだろう、的なバランスを意識しながら楽しむポイントを増やしていきたいですね。

 

個人的には、フジの実況で「令和のツインターボ」が「世界のパンサラッサ」に言い換えられていく様がとても程よいように思っています。次走は香港カップ、シャティンは合いそうですね。

 

イクイノックスは父キタサンブラックと親仔制覇

勝ち馬が上がり32.7を出せるレースですから、スローペースですよね。おそらく天皇賞史上最速の上がり。以前に32秒台で上がった馬はいるのかと遡ってみましたが、2020年のフィエールマンが32.7でした。やっぱりあの末脚は凄かったのか、と勝手に溜飲が下がっております。ここで反省したから有馬記念本命だったんですよね。

 

ファーストコーナーでかなり不利を受けているんですよね。左右を挟まれ、ジャックドールが手綱を引いたことでジオグリフ、イクイノックスと玉突き的にブレーキを踏まざるを得ない流れ。スタートから出していったことがアダになってしまったわけですが、これを乗り越えての32.7ですから恐れ入るばかりです。

直線入口、前とあれだけ離れていれば慌てそうなものですが、ひとつ外へ誘導して視界をクリアにしてゆっくりエンジンを吹かす。落ち着いたものですねぇ。慌ててもマイナスの挙動になるのはわかっていても、それを実行できるかは別の話。ルメールのリードもまた大きな勝因と思いますし、それだけイクイノックスの実力を信頼していたとも言えそうです。

 

皐月賞もダービーも大外枠。皐月賞は先行策、ダービーは一転して思い切った待機策。インに潜り込んでいけない条件下でともに2着と崩れなかったのは実力の証と捉えるべきですね。これで連対率は引き続き100%ですし。名馬は崩れない、ということかな。

 

史上4頭目の親仔制覇と聞いて、あと3組は?という疑問が。モーリスも違う、ジャスタウェイも違う、エフフォーリア…はおじいちゃんとの組み合わせだから違う、などと記憶から引っ張り出せずにJBIS-Searchで検索。グレード制導入以降はスペシャルウィーク-ブエナビスタが唯一でしたね。あと2組?

調べていたらnetkeibaで同じ疑問をもって調べていた島田さんの記事に行き当たりました。なるほど、メジロアサマ-メジロティターン、そしてトウメイ-テンメイでしたか。

news.netkeiba.com

 

同記事で古馬G1制覇の最少キャリアについても確認。イクイノックスが新記録の5戦目なのですが、これまでの6戦目タイという記録はファインモーションリアルインパクト、フィエールマン、クリソベリル、レイパパレ、エフフォーリアが該当。

ファインモーション以外はクラブ法人がオーナーかつエクイターフ以降ですから、近年の出走レースを絞る傾向と符合してきます。そう考えるとファインモーション、強かったなぁ。いまは殿下と呼ぶべきですね。

 

次走は年内にもう一戦、ジャパンカップ有馬記念という報道ですが、年内休養もあり得ると思っています。というよりまだ成長途上でしょうし、来年に楽しみをつないでほしいところ。慎重な判断をお願いしたいですね。

 

ダノンベルーガは復調の3着

上がり勝負と読んでいたらこの馬をより評価していたかも…、いや、あのパドックを見る限りは無理だっただろうなー。やっぱりトモの送りがいまいちだったんですよね。いまできる調整を施しながら目標のレースを使ってきた、堀厩舎の力の素晴らしさとそれでもここまでという印象が交錯した中で、評価はあげられませんでした。

netkeibaのコラムで川田将雅が振り返っていますが、ファーストコーナーで早々に控える選択をしたことも、直線でインへインへ進路を取ったこともお見事と思うばかり。攻める姿勢とセーフティとのバランス、リーディングジョッキーの戦術眼、確かなものです。実際に瞬時にカラダが動いていることも、あとでそれが説明ができることも素晴らしい。いまいま得難いジョッキーのパフォーマンスを観ているんですね。

イクイノックス同様、こちらも先のある馬。年内は出走はないかな。今後、本命視する場面がきっとあるでしょう。

 

ジオグリフは折り合いつかず9着

ファーストコーナーで外からプレッシャーをかけられ、ジャックドールに合わせてブレーキを余儀なくされ、ここでだいぶ引っかかってしまいました。向こう正面を通して、かなり首をブンブンしている様がよくわかります。落ち着かせるために手綱をホールドしている間にシャフリヤールに前に入られる悪循環。これだけの力のロスでは後半の上がり勝負に参加できなかったのもうなずけます。

ジョッキーは直線前があいていたが頭をあげてはいっていけなかったと話していますが、それまでのロスが響いていたのではないでしょうか。前半力みがちなのは今回だけではありませんので、今後のレース選択に向けて課題が残ったように思っています。ペースがもっと流れていたら、とは思いますね。

 

ジャックドールは自分の得意な流れに持ち込めず4着

ファーストコーナーでパンサラッサにもっとプレッシャーをかけているイメージでした。それをしなかった鞍上には札幌記念で粘られた記憶が色濃かったのかもしれません。

ペース的に無理をせず、あがりもまとめて僅差の4着でしたが、勝ち切る競馬だったかと言われると…。個人的にはバビットをけん制する所作が見えなかったんですよね。バビットの後ろを早々に選択していたなら、戦略的に切れるカードに欠けていたとも言えそうです。

レース前に香港カップの招待受託のニュース。この差を詰めていけばタイトルを取れると思います、という前向きに受け取れる鞍上のコメントも聞こえていますが、獲れるチャンスを逃しているならちょっと心配な見解とも受け取れます。

 

最後に

JBCも終わり、ブリーダーズカップも始まってしまっていまして、どんどん時間が経過してしまっていますね。平日はだいぶ仕事に追われていましたので、あのレース後の余韻をどう言葉にしようか、この投稿をまとめる時間自体も楽しみのうちですから、その確保ができないなぁともよもよしておりました。休息する時間も必要ですしね。

キタサンブラックと親子制覇とはいえあの不良馬場とゲート突進と4コーナーのイン突きは、なかなか息子のダイナミックな末脚とは符合しないなぁ、などなど。母父キングヘイローの奥にいるダンシングブレーヴの追い込みならイメージを重ねやすいかもしれません。

そうそう、天皇賞のひとつ前、ペルセウスSはレモンポップが快勝。内馬場での観戦でしたから、こちらはよく見えましたね。以前から先が楽しみと思っていましたから、ここもきれいに通過点にしてくれました。東京ダート1400mを4連勝。こだわった使い方はフェブラリーSにつながるでしょうか。こちらも楽しみにしています。