more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第162回 天皇賞(秋)

アーモンドアイ、史上初のG1・8勝を達成しました。いやー強かった。

ゴール手前で再び右手前に切り替えての5完歩。クロノジェネシスとフィエールマンがせまってきたことがスイッチだったのか、ルメールの左鞭がスイッチだったのか、いずれにしてももうひと踏ん張りしようとした手前替えであるように見えました。

左前がとられるような不器用な手前替え、そして少し外にヨレ気味になりながらゴールを迎えているあたりはパトロールビデオで確認できます。ラストは「少し疲れた」というルメールのコメントとも符合するところです。ラップタイムから見ても相当長いスパートを強いられました。決して向いた展開ではなかったでしょう。

チャンピオンの矜持、という表現も浮かびましたが、いつも全力の7冠牝馬ですから、ルメールの左鞭4発にただただ力を出し切ろうとした、と理解するのが程よいかな。

f:id:barnyard:20201103161058p:plain

2020年天皇賞秋、ゴール手前で右手前に変えたアーモンドアイ

 桜花賞で見せた、才能を持て余すようなクルクルとした手前替えが懐かしく感じられます。前進する意思と合理的なカラダの使い方、メンタルとフィジカルが噛み合ったそれこそアスリート然としたパフォーマンスでした。3歳のジャパンカップで示したフィジカルの卓越さとはまた違った強さだったと思っています。

春の天皇賞馬と宝塚記念馬を抑えきっての勝利。残るは後輩の3冠馬2頭、ですね。

公式レースラップ

12.7-11.7-12.1-12.1-11.9-12.0-11.7-10.9-11.1-11.6

クッション値と含水率

2020-11-01 東京芝コース
クッション値 9.7
含水率:ゴール前 14.7
含水率:4コーナー 13.7

速い上がりが効く馬場コンディション

当日7R、1勝クラスの1400m、最後方から大外を追い込んだアカノニジュウイチの上がりは32.5。大外だと相当速い上がりを計時できることが見て取れました。

ただインでは2番手追走だったマサノアッレーグラ、逃げたパラレルキャリアもそれぞれ34.0、34.3で2、3着に残していましたので、最内以外は何とかなる、トップスピードが欲しいならインから4、5頭分外かな、という見立てでした。

7Rのペースは布石だったか

馬場読みで引き合いに出した7Rでしたが、あとで見返すとダノンプレミアムの逃げにつながる兆候が表れていたとに思っています。以下、ラスト1ハロンまでは逃げた武豊が刻んだレースラップです。

12.7-11.7-11.7-12.0-11.0-11.5-11.3

向こう正面は早過ぎずかつ後続に迫られない程度のスピード感、コーナー部分(11.7-12.0)で溜めを効かせて、坂下で一気にスパートし最速ラップを計時、そのまま登坂してラストを粘り込む、という構成。

…上記の天皇賞の公式レースラップ、川田のラップメイクはほとんどその相似形。7Rで2番手だったマサノアッレーグラ、鞍上は川田ですから、コース取りやペース配分をフィードバックしてG1に活かしているとしたら相当なヘッドワークですね。

早めスパートで押し切るという戦略がマッチする馬場、という捉え方があったかもしれません。

ダノンプレミアムの逃げは緩ペースからの早仕掛け

ブリンカーを装着してピンク枠、行くというサインはでていました。同型馬が少ないのはわかっていましたが、ダイワキャグニーはほぼ抵抗できず、クロノジェネシスは挟まれてポジションを下げてしまう形。キセキの先行策はスタート次第で十分あり得ると思っていましたが、序盤は緩ペースで折り合うことに専念していました。

離れた単騎逃げ。キセキでジャパンカップを逃げ粘った時は、もっと肉を切らせて骨を断つ戦略だった印象がありますね、残り1000からペースを上げるロングスパートでした。今年はそれとは異なり、3コーナー過ぎまでほぼイーブンラップ。4コーナーを助走に使い、坂下で一気に爆発させるという仕掛け。

リリーノーブル、ミッキーチャーム、キセキ、ダノンプレミアム。レースを組み立てながらアーモンドアイの2着を重ねたジョッキーのひとつの回答が、この「早めに」「一気に」スピードを上げるというペース配分に表れたのだと思っています。

実際、中団から先行策を取る有力馬は、少なくなくこの急なシフトアップにお付き合いする形になりますので。アーモンドアイがゴール前で脚が上がる可能性が高いペース配分。実際、アーモンドアイはラスト1ハロン後続に詰め寄られましたからね。もう少しダノンプレミアムが競走生活を通して順調に来ていたら、もっと際どい勝負が観られたかもしれません。

アーモンドアイはスタートを決めての先行策

安田記念で後手を踏んだことから、スタートには気を付けていたでしょう。五分以上のスタートで3番手を確保することになりました。公式の通過順に倣って3番手としていますが、3コーナーまではキセキをインにみての4番手と表現した方が映像と符合するように思います。

2コーナーまでにポジションを下げてしまったフィエールマン、クロノジェネシスが差し届かない展開ですから、このポジション選択は妥当でしたね。安田記念の二の轍を踏まずに済みました。

巻き込まれるべくして巻き込まれた早めのスパート

ルメールは直線に向いてすぐ、ダイワキャグニーの後ろを捨ててひとつ外に展開しています。本人は「バテた」と表現していましたが、ダイワキャグニーに10.9を追走する地力不足を見て取って、進路確保を優先してポジションをスライドしたのでしょう。

アーモンドアイからすると視界がクリアになるタイミングはいつもより早かったと思います。今年のヴィクトリアマイルは残り400までサウンドキアラの後ろをキープしていました。前方はクリア、でも鞍上は持ったまま、という時間がしばらく続くことに。このあたりはmahmoudさんの分析を待ちたいところですが、おそらく、持ったまま全開に近いスピードまでシフトアップしていたものと推察しています。

巻き込まれた、はちょっと大げさな表現とも思っていますが、あのタイミングでダイワキャグニーの後ろをキープするとジナンボーに外から蓋をされてしまいますからね。

改めて直線の手前替えについて

残り200手前、すでに全開になっているアーモンドアイにルメールが右鞭を1回。ちょっと反応が遅れているのですが、これで鞍下は左手前に切り替えています。これまでも残り300付近でルメールの右鞭がはいっていますが、必ずしも手前替えの合図というわけではなさそうです。

右鞭がもうひとつはいり、冒頭に書いた左鞭4発はそのあと。ここも馬をファイトさせる意図が大きいと思いますし、外から強い差し馬が来ていることを意識してイン側から叩くことに切り替えたと推察することができます。

鞍上はファイトを促し続け、それに応えるためにアーモンドアイ自身が手前替えを選択したと受け取ることが妥当かなと。苦しい場面での所作でもあったでしょうね。ここにも全力少女な一面が垣間見えます。頑張り屋さんですね。

逃げも追い込みも受け止めた横綱競馬

サウンドキアラのような先行馬がひとつ前で粘ってくれれば、直線前半の追走はもう少し楽になったでしょう。これが不在だったことで自らペースを受ける形になりました。これまでにない速いタイミングでのスパート。

ダノンプレミアムのペースも、それを外して追い込んできたフィエールマン、クロノジェネシスの末脚も、有力馬のストロングポイントを受け止めて押し切って見せました。最近はあまり使われませんが、横綱競馬という表現が最もしっくり来ています。

相手の得意な形になってもそれを受け止めて勝ち切る。今に続く横綱のイメージだなぁと思っていたら、望田潤さんが似たような投稿をされていました。読み応えのある語り口、こちらに譲るのが賢明かな。

blog.goo.ne.jp

次走はジャパンカップか香港か

来年のサウジかドバイ、という選択肢もゼロではない気がしていますが、報道ではジャパンカップか香港のどちらかという論調。ただ、特例でもない限り、香港遠征後はジョッキーが14日間隔離されますから、朝日杯、有馬記念ホープフルS東京大賞典まで含まれるかな、年末のG1騎乗が軒並みアウトになるでしょう。

アーモンドアイに限りませんが、香港遠征にどのジョッキーが行くことになるのか。それも含めた調整結果がここ1、2週で聞こえてくることになるのだろうと思っています。

個人的には香港かな。3頭の3冠馬が揃う瞬間も見届けたいですけどね。アーモンドアイの評価を上げる意味では府中以外のコースでパフォーマンスを示す方がよいのではと。ウオッカジャパンカップを勝った直後の感覚が近しいかな。

正直、ここが美しい引き際、という判断もアリだと思っています。まだまだあの走りを観たいですけどね。

フィエールマンは猛追しての2着

軽視してしまい申し訳ありませんでした、というのが率直な感想です。とんでもない上がりで猛追してきました。思えばラジオNIKKEI賞から評価してきているわけで、何故ここで評価を下げてしまったのか。

鞍上もコメントしていた通り、スタートして数完歩で前が閉まってしまいました。そこさえなければ、というのは最も思いつつ、そこでダッシュをかけてポジションを取ってこなかったのもまたフィエールマンですから、何とも言い難いところ。

前述の望田潤さんも触れているように、前半が緩んだことでフィエールマンの切れを引き出しやすい展開になりました。ならないと読んでいたんですけどね。

クロノジェネシスはひとつ位置取りを下げながらの3着

フィエールマン同様、2コーナーまでに挟まれて下がってしまったのがクロノジェネシス。道中の縦のポジションがあまり変化しない府中の2000ですので、ひとつ位置取りを下げたことはなかなか厳しい展開に陥ってしまったようです。キセキと枠順が逆だったら、だいぶ違ったポジショニングになっていたことでしょう。

フィエールマンをインに抑え込みながら直線はかなり外へ。このあたりはポジションなりに北村友一がしっかり仕事をしていたと思っています。個人的には懸念していた速い上がりもクリア。ペースひとつポジション取りひとつでアーモンドアイを負かしていたかもしれませんね。

スカーレットカラーは距離が長いかも

道中のペースが締まった場合、ラストにやってくるのでは、という色気を出し過ぎてしまいました。アーモンドアイ本命とは別にガンバレ馬券を持っていたのですが、思いっきり大振りで三振という結果です。

待機策はこれまで通りですが、ペースに対して自身の特性がうまく嵌らなかったという結論に至っています。直線での脚色をみるとちょっと距離が長いのかも、とも。それこそアカノニジュウイチのように距離短縮で嵌る場面があるかもしれません。

最後に

ルメールの涙が印象的でした。昨年のハイなインタビューとは対照的。期するものがあったのか、心中察するに余りあるという印象です。

個人的には残り300からの右鞭に、いつも通りを貫こうとするリーディングジョッキーの自信と不安、両方が覗いたように思っています。どこかでその心中を語ってくれるでしょうか。

さてさて、間断なく大きなレースが続くのが秋らしいですね。JBC4競走が間もなく。TOKYO MXかNARのネット映像かで迷っているところです。

雨の影響がだいぶ大きなファクターになりそうですので、あまり先入観をもたないように予備情報を押さえておりました。フィーリングで当たったら楽ではありますけどね、これから楽しみたいと思います。