more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第25回 秋華賞

デアリングタクト、無敗の牝馬3冠を達成しました。いやーすごかった。

4コーナー、パラスアテナ、ソフトフルートの捲り上げにオーマイダーリンが呼応、一気に2冠牝馬に被せていく流れになりました。これを真っ向受けての手前替え。ん?と思いましたね。リアルタイムではカメラの角度もあり、スピードの乗せ方に違和感を覚えた程度でしたが、まさかここで手前を替えていたとは。

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2020年秋華賞、4コーナーで逆手前になるデアリングタクト、右から4頭目

カーブの途中での逆手前ですのでもちろん外に膨れます。オーマイダーリンと接触しながらそのまま直線に向くことになりました。超私見ですが、松山のミスリードではなく、加速するためにデアリングタクト自身が判断(というより反応)したように見えています。

これまでのレース、コーナーの途中で後ろから併せられた経験はなかったでしょう。キャリアの浅さから思わずでたという類のアクションと見えていますが、メンタルの強さが垣間見える、かえって凄味を感じさせる瞬間となりました。

デアリングタクトのコーナー通過順は13-13-8-5。直線で壊滅するインの先行勢を、4コーナーで自ら迎えに行く形。後続の捲りも、前々の粘り込みも、すべてを4コーナーで受け切って直線になだれ込みました。早め先頭は目標になりますからね、決して最善のタイミングではなかったでしょう。

待機策に徹したマジックキャッスルが直線半ばで迫ったところ、さらに右→左と2度手前を変えて寄せ付けない姿もまた印象的です。

強く、逞しく、美しく。文句なしのトリプルティアラでした。

公式レースラップ

12.3-10.8-11.8-12.2-12.3-12.7-12.1-12.4-11.9-12.1

クッション値と含水量

2020-10-18 京都芝コース
クッション値 8.2
含水率:ゴール前 13.1
含水率:4コーナー 11.8

土曜日中の降雨、日曜の含水率は上昇

前日土曜は雨の中、レースが進みました。すでに外差しのバイアスが見て取れていましたし、含水率の発表にもそれを読み取ることができました。以下は土日の推移です。

ゴール前 11.7→13.1
4コーナー 10.8→11.8

どちらも当日朝の計測ですので、当日日中の乾き具合は数値化されていませんが、前日から変わらず直線インから4、5頭目までは避ける傾向でしたね。通った馬もありましたが、ゴールまでは伸び切れていないようでした。秋華賞のこれまでの傾向、外枠の差し馬有利のデータを強調するバイアスがあったという認識です。

2冠馬への対策としての先行策?前傾ラップに

大方の予想はスロー寄りでしたが、個人的には外に横山武史ウインマリリンがいる分、スローの可能性は低いと思っていました。ウインマリリンの逃げというよりは、外から先行馬をけん制するものと読んでいた次第です。そこは概ね合っていましたね。

マルターズディオサの逃げはちょっと意外でした。田辺の戦略に異を唱える向きもあるようですが、後から考えれば、内枠スタートの先行馬ですので終始インを通る可能性が高いわけです。馬場のアドバンテージが得られない中で取り得る戦略は何か。結論としてマイペースでじわじわスタミナを使う逃げ、さらに奇をてらう戦略、と考えていくと腑に落ちてきました。前日の府中牝馬、トロワゼトワルも似たプロットで逃げていたと思っています。

桜花賞オークスも馬場に泣かされた、との田辺のレース後のコメントを見て、より納得してしまいました。やはりインは厳しかったようですね。

1番枠のミヤマザクラ、ホウオウピースフル、クラヴァシュドール、サンクテュエール、そして出負けしたリアアメリア。2冠牝馬より前でなければ勝てない、という意識をもったジョッキーが前々のポジションを求めてスローを打ち消していきました。

前半5ハロンは59.4。2年前、アーモンドアイの年はミッキーチャームが逃げて59.6ですから、馬場状態を加味するとそこそこ締まったラップだったと読み取ることができます。

デアリングタクトは終始外々での立ち回り

トロールビデオは正面からのアングルですのでよくわかりますが、松山はスタートからインに寄せる意思を見せませんでした。1コーナーではほぼノーマークで馬群の外へ。外枠の差し馬が外寄りのポジションを取る定石と言える動き、これをスムーズにこなしていました。

1コーナーで周囲に馬がいないポジションを確保。正直この時点でほぼ勝ったと思いましたねー。プレッシャーのかかる中で冷静に立ち回ってくれました。

さらに。向こう正面で前との間隔をじりじりと詰めています。ちょうど12.3-12.7と前がスピードダウンした区間。1、2コーナーでは斜め前に見ていたマジックキャッスルをパスして、リアアメリアの直後までストレス少な目で動いていきました。4コーナーはハイライトと呼べる瞬間ですが、その手前でも松山のファインプレイが見られます。

4コーナーでの「受け」は鞍上の胆力も

冒頭で書いた通りですが、4コーナーでの進出は松山の気概が見える瞬間でもあります。馬の気持ちもさることながら、ここというタイミングで「張る」ことができていました。

バテて来る先行馬を交わすタイミング、後続の差し馬が進出してくるタイミング、鞍下にとってのベターなタイミング。経験と準備があの逆手前スパートを生んだのでしょう。あ、いや、逆手前は必ずしも褒められるものではないと思うわけですが、それを含んでなお強さを示したという意味で象徴的だな、と。3冠ジョッキーにふさわしい「受け」でしたね。

前日のプラタナス賞、タイセイアゲインをじっくり下げて4コーナーまでに先行馬のひとつ後ろへ、直線に向いてルメールの外へまわして抜け出しました。おそらくはしっかり課題を持って臨んでいること、ペースや展開に対してアクションを変えられるだけの経験と観察力が垣間見える内容でした。

これを生で観ていたことも3冠に賭ける上での大きな材料でしたね。

5戦5勝の最少キャリア

無敗であることは凄いことですしキャッチーではあるのですが、どちらかというと最少キャリアでの3冠を称えたいと思っています。5戦5勝、おそらくは今後も出現しないでしょう。

ローズSを回避してきたことが不安視される向きもありましたが、想定外ではなく馬本位の柔軟な対応と受け取っていました。これを実現するためには関係者間の連携が不可欠と思われます。Numberの記事では、夏の放牧に関してはオーナーサイドの意向が優先され、ローズS回避は厩舎サイドの進言が受け入れられた経緯を読むことができます。

もうとっくにそういうご時勢ではありますが、チームワークによるプロジェクト推進ができることは大きなアドバンテージでしょう。外厩トレセンか、という二項対立的な論点はあまり現実的ではないのかもしれません。

チーム・デアリングタクトの見事なバトンワークが最少キャリアという稀少な記録を生み出したものと受け取っています。

1頭だけのパドック周回

デアリングタクトの本馬場入場は最後になっていました。その経緯はカンテレ競馬のYouTubeチャンネルでよくわかります、いい仕事してますね、38分ごろからです。

www.youtube.com

2冠牝馬のテンション、パドック周回中もまぁまぁ高めでしたが、停止命令がでて各馬のジョッキーが騎乗、ここでもうひとつテンションが上がった形に。それを受けて杉山師がもう1周回って他馬と距離を置く判断をしたようです。誘導馬の騎乗者と示し合わせている場面も確認できますね。

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2020年秋華賞、他馬と離れて1頭だけパドックを周回するデアリングタクト

このままのテンションで返し馬になだれ込まないよう、いったん流れを切ったのでしょう。細やかでかつ機をみるに敏、という対応がありました。

杉山師の淡々としたインタビュー

スリーロールスのそばにいたNumberの写真をみてなるほどと、自分の記憶と符合いたしました。杉山師の顔、失礼ながらどこかで見たようなと思っていたのです。

追い切り後のインタビューもそうですが、自身が感じるプレッシャーとやるべきことへの思考が区別できている印象を受けました。どこか他人事のように落ち着いてみえるのは努めてそうしている表れのように感じた次第です。

落ち着いて見えることはノープレッシャー、ではないんですよね。指揮官として然るべき冷静さを培ってきたのでしょう。Numberの記事では、スリーロールス有馬記念を自身の経験不足と振り返っています。厳しい結果でしたがそれもまた大事な糧にされているのでしょうね。

レース後のインタビュー記事でも師のスタンスが窺えます。サンスポの独占手記、以下にて。

race.sanspo.com

次走はジャパンカップ

どうやら次走はジャパンカップの模様。海外遠征が難しい状況ですので、多くの有力馬と相対する可能性がでてきています。アーモンドアイが香港に登録したようですが、できれば、というのがファン心理ですね。

正直、次走を見越して、馬体にはまだ余裕があるなかでの3冠だったと思っています。父親譲りのテンションの高さは悩ましい材料ですが、楽しみが増えました。

そうですね、サートゥルナーリアがでてこれるなら血統的にはなかなか面白いマッチアップ。シーザリオは偉大です。

マジックキャッスルは末脚にかけての2着

最終追い切りはアーモンドアイとの併せ馬。食らいつく姿が印象深く、馬券にもつなげることができました。2桁馬番の差し馬、狙いやすい方でしたね。もう一回り成長があればもう少し前目のポジションがとれるかな。良馬場で観たいですね。

パラスアテナは押っ付け通しで4着

オーマイダーリンに交わされた残り800あたりから追い通しになりました。4コーナーでもう一度ハミを取った、とは坂井瑠星のコメントですが、もう少し反応のよいレースをしていたような。。。でも直線はタフに差し脚を伸ばしていました。

紫苑Sより枠もポジションも向くだろうと考えての対抗。惜しかった。3着同着でいいんですけどね。

ラスト1ハロンでの拍手

これは書いておかないと。フジの中継映像、残り200m過ぎからはっきりと場内の拍手が聞こえます。デアリングタクトの3冠を確信した場内。松山への感謝でも安堵でもあったでしょうか。

1000人程度でも観客が戻ってきたことがこんな瞬間に響くとは。そうなんですよね、歓声が出せませんから拍手なんですよね。コロナ禍を象徴する瞬間だったと思います。これもまた、語り継ぐべきエピソードでしょう。

最後に

菊花賞の枠順がでてしまいました。体調を崩したこともあるのですが、忙しくしていると1週間はなかなかに早く過ぎていきます。

コントレイルは2枠3番。見た瞬間に3冠だな、と思ってしまったわけですが、枠の並びを見て少し慎重に行こうと取り直しているところです。傾向として内枠は有利に働くのでしょうが、いまいまの馬場コンディションがね。土日の降雨はないようですから、そこまで懸念材料にはならないかもしれません。

できればアンティシペイトが前々で立ち回る姿を見たかったのですが、除外は残念。武豊の不参戦とイコールですのでますます残念に思っています。バビットに歴代の逃げ馬を重ねるには少し抵抗感を覚えていまして。でもそうやってセントライト記念を軽視し、キタサンブラックを取り逃がした覚えがありますので。

足元を掬われる、という内容でない限りは3冠濃厚と思っていますが、…もう少し堪能しましょうか。じっくり考えてまいります。