more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第70回 安田記念

グランアレグリア、快勝でした。

スタートから終始アーモンドアイより前々で展開、最後は2馬身半突き放してのゴールとなりました。

本命を信じ切っていたことに気づくのはたいがいゴール板を過ぎてから。競馬は楽しくも難しいものです。そういえば阪神カップのぶっちぎりもこんなリズムじゃなかったかなと1コーナーに流していく姿を見ながら思い返しておりました。その阪神カップから高松宮記念のゴール前急襲、そしてこの安田記念ですから、グランアレグリア自身がパフォーマンスを上げながら2つ目のG1制覇に至ったのだなと、改めて認識しているところです。

池添はスタートから終始、約3頭分インを空けながらの進路取り。前日は府中本町近辺の線路が冠水する豪雨でしたから、どうしても乾き切らない馬場コンディションでした。荒れたインには寄せず、前にルメールがいないことも確認していたでしょう。3、4コーナーの進出はインから押圧されず外から被せられないように、というけん制の効いた冷静さがあったと思います。

3コーナーにはいる瞬間、前の馬のキックバックが右目に直撃した鞍上。映像でも一瞬腰を落とす姿が確認できます。血の付いた痛々しいゴーグルがインスタに上がっていたようですね。位置関係からすると直前にいたヴァンドギャルドの蹴りがパワフルだったでしょうか。…レース直前に「ヴァンドギャルドが何とかならないかな」とツイートしたのですが、まさかこんな形とは。

以下のキャプチャ画像では外から進出するケイアイノーテックを首を振って確認する池添の挙動が確認できます。レース後のインタビューでは何か来たのかわからなかったとコメントしていますので、どうやらだいぶ見えていなかった様子。後ろから被されないように、進路を外に切り替えた直後の視認ですね。

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2020年安田記念の4コーナー


池添にはアーモンドアイ対策だけにこだわっていた印象もなく。緩めの馬場コンディションとその割に速く流れたラップをしっかり追走し早め進出からの1:31.6。

人気が人気ですからアーモンドアイが敗れたレースという語り口はあって然るべきですが、個人的にはグランアレグリアの快勝と語るべき内容だったと思っています。本命アーモンドアイでしたから悔しいのは間違いないですけどね。

公式レースラップ

12.1-10.9-11.2-11.5-11.6-11.4-11.0-11.9

グランアレグリア阪神カップ、比較的似た折れ線グラフになりそうですね。

12.3-10.5-11.1-11.3-11.4-11.3-11.5

かなり突っ込んだ前傾ラップ

アドマイヤマーズが好スタート、インからダノンプレミアム、ダノンキングリーが主張し、外からダノンスマッシュがハナを取る序盤の先行争い。12.1-10.9-11.2はダノンスマッシュ三浦皇成が緩めなかったというべきでしょう。今年のヴィクトリアマイルの前半3ハロンは12.0-10.9-11.3。数値はほぼ同等ですから、馬場差を考慮するとかなり厳しいラップだったことが窺えます。

前後半4ハロンのラップだけ見ると45.7-45.9のイーブンに見えるあたりがちょっとした罠ですね。5着のケイアイノーテックまで、掲示板に乗った5頭の3コーナー通過順は8、11、9、12、12。4コーナーでも好位に付けていませんから、この緩めの馬場で後方から差し比べをする展開だったといえます。逃げ宣言をしていたミスターメロディが引っ張りながら番手追走に切り替えていたのは納得するところですね。

グランアレグリアはリズム重視

折り合い重視、と表現しようと思ってちょっと躊躇しました。どちらでもよいのかもしれませんが、スタートからある程度スピードを乗せていることから、力まずにかつポジションを求めていく、という鞍上の意思を見ていまして。折り合いの難しいタイプという認識がありますので、この継続騎乗は大きなプラスだったでしょうね。

前半のリズムがよかった分、4コーナーでの反応も早かったですし、直線馬なりで唸る姿にもつながったのでしょう。前走、高松宮記念は勝負しつつの待機策、よい前哨戦になっていました。当時もそう思って観ていましたが、改めて、繋がっていますね。

桜花賞馬の古馬混合マイルG1制覇は初

皆さんよく見つけてくるなぁと思いながら、ちょっと意外な記録という印象を覚えています。キョウエイマーチ桜花賞馬だけどマイルチャンピオンシップ2着、ウオッカ安田記念連覇だけど桜花賞2着、シンコウラブリイ桜花賞出てないか…、などなど、浮かんでくる牝馬はみな惜しい成績。揃って結果を出した牝馬が初だったんですね。

言ってしまえばアーモンドアイが勝っても記録達成だったわけで、時間の問題だったとも言えそうです。でも3歳春の完成度、そのアドバンテージだけでは届かない難易度がここまで到達を阻んでいたとも。…思えば、グランアレグリアもアーモンドアイも、古馬になって一回りパワフルになりましたものね。

アーモンドアイは厳しい条件が重なっての2着

ゲートが開く直前に突進気味、後ろ重心になったところでゲートが開き、出遅れ気味のスタートになりました。ジョッキーの重心も後ろ、慌てずに4、5完歩を要しながらゆっくりカラダを起こして。五分にスタートが切れていたら、最初の1完歩からキ甲付近に膝が重なる、いつものポジションで乗れていたことでしょう。

スプリント寄りの前半のラップ。緩めの馬場でパワーとスピードが問われる追走になりました。軽快な追走と加速力で勝負を決めたヴィクトリアマイルとはだいぶギャップのある要素が求められたと見ています。そう考えると、今回と類似したレース展開を繰り返してきたグランアレグリアには、その分アドバンテージがあったといえそうです。対照的に見えますね。

また、直線向いてすぐ、目前にはいったケイアイノーテックをパスするまで、アクセルを踏めない間が生じました。その間早めにアクセルを踏んでいたグランアレグリアはノンストレスで持ったままの加速。ここにも厳しい場面が生じていましたね。

これらのロスが累積し、それを切り返しての2着はむしろ実力の証明と言った方がよいように思います。強い前進気勢のままインを追走したダノンプレミアムが大敗していますので、そこから比較してもよく踏ん張ったといえるのでは。

スタートが五分ならこうしたロスの蓄積もなかっただろう、というアーモンドアイ擁護的なたらればは、うーん、あまり現実的ではないでしょうか。肝心な場面で発揮すべき冷静さが、初の中2週というローテーションの中でほんのわずか削られていたとも受け取れますのでね。

ノーザンファーム外厩戦略による大きく間隔を開けるローテーションは、フィジカルコンディションには大きく寄与しつつも、個体のレース経験と安定したメンタリティにはマイナス面を見せる場面があるように見えます。どうしてもレースの数が絞られますから。とても高いレベルでのPDCAを要求することになりますけどね。

mahmoudさんのアーモンドアイ分析

note.com

見事な分析と思いました。配慮の効いた、淡々とした分析をみることができますので、是非。前半の追走がアーモンドアイに取って厳しかったことが数値で確認できます。

自分はやや重馬場というより緩めの馬場も敗因に含めておきたいと思っています。柔らかく大きなストライドのアーモンドアイより、前捌きが少し硬めなグランアレグリアにいくらかのアドバンテージはあっただろうと。かといって良馬場だったらアーモンドアイが勝っていたかというと、ちょっと難しかったかもしれません。それだけ今回はグランアレグリアのスピードが勝っていたように思っています。

気になった馬の所作

アドマイヤマーズ川田。早め早めにアクセルを踏む流れを想定していたでしょうし、その形を作るためでしょう、3コーナー手前で被せてきたセイウンコウセイを押圧して進路を確保していました。実際に4コーナーでアクセルを踏む形、さすがと思います。

インから進路を求めたインディチャンプ福永を塞げるだけ塞いでいたのはなかなか見ごたえありました。最後はインディチャンプがカラダを入れて進路を確保していましたが、やれることはやった印象があります。

ヴァンドギャルドはちょっともったいないポジショニングでした。スタートから出していって間もなく、寄れたセイウンコウセイを回避するため手綱を引く場面。無観客のパドックでもテンション高めですので、この動きのロスは痛かったと思います。

また3、4コーナーをインでじっとしたことで直線に向く直前、セイウンコウセイに乗りかかるような場面が生じました。その少し手前から外へのウインカーを出しておく上手さがあればもっとやれたかも、というのは高望みかな。結果、グランアレグリアに外の進路を難なく塞がれた格好でしたので。岩田望来のフィードバック力に期待しましょうか。

ケイアイノーテックは津村のシンプルな戦略が功を奏したと思います。前半800はリズム重視、後半800は全部スパート区間、という捉え方があったように見えていまして。他馬に先んじて4コーナーでの進出になったのはその戦略があったためだろうと。良馬場だったらまた別の戦い方になっていたでしょうか。津村の戦い方が印象に残る捲りでした。

最後に

アーモンドアイの次走は天皇賞秋という報道。中2週に敗因を求めるなら、天皇賞秋からジャパンカップというローテーションはあまり現実的ではないでしょうか。香港国際競走というのも、コロナウイルスの影響と政情の問題が重なりますのであらかじめ予定できるかというと。。。

中距離で最もパフォーマンスが上がるとしたら、やはり天皇賞連覇が妥当な目標になるのかな。ベストでない条件を克服していくチャンピオンの姿に強さを見出したい思いがあるのですけどね。

…古いレースとの符合。1996年の高松宮杯ナリタブライアンがスプリント戦の流れに乗り切れず、直線ようやく脚を伸ばす姿。諸条件は異なりますが、追走力にギャップがあったケースとして類似点を見出してもよいように思いました。ちょっと極端な例えかな。


天皇賞秋→有馬記念ヴィクトリアマイル安田記念。どちらも前走の圧勝から大きく条件が変わったレースで勝ち切れませんでした。コロナウイルスの逆境を、1番人気で圧勝したヴィクトリアマイルがありますから、ピープルズヒーロー的な注目は集まって然るべきと思いますし、そうしたマスメディアでの取り上げられ方が競馬の看板になっていくのは稀有なことではあると思います。

秋はどんなパフォーマンスを見せてくれるでしょう。できれば3歳の強豪を迎え撃つレースが観たいですねー。