more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第87回 日本ダービー補記 ~福永の自信と経験

コントレイルのエピソードについて、ひとつ前の投稿で触れようとしたところむやみに長くなってしまいました。こちらに分割して投稿しますので、よろしければ。

福永の冷静さと自信の背景

ダービー翌日、サンスポは福永の独占手記を公開していました。

race.sanspo.com

「大きなトラブルがない限り、勝てるだろう」というコメント、そこだけ切り取ると不遜な態度をイメージする字面にも見えますが、本人は相当に冷静に見立てていたのだろうと受け取っています。

結論は真逆ですが、大きなトラブルがない限り負けるだろう、という分析と同じ論法であったのでしょう。例えば「一発を狙う」といったコメントは、自分の乗る馬は実力馬には劣るという冷静な見立てができて始めて成立する表現ですので。コインの裏表ですね。

ホープフルS皐月賞を経て、そして皐月賞組が制した2つのダービートライアルを踏まえて、相手関係の分析が済んでいたと推察はできます。ただ、本人がコメントしている以上に、一度ダービーを制している経験が大きいのだろうと感じた次第です。

ダービージョッキーの実績と循環

ダービーウィーク発売のGallop、ダービー勝利後に武豊に「これからはこの馬にダービーを勝たせてくれ、という依頼が来る」と言われた旨、コメントが掲載されていました。1度制したジョッキーの経験談、怖いですね。福永は図らずもそうした経験が強く問われる形で2年後のダービーを迎えることになりました。

追い切り後のインタビュー。冷静で泰然自若とした姿がそこにありました。同い年でかつ自分も自分の職場では多少実績を積んだこともあり、多少わかるところもあります。泰然自若が求められますし、それを身に着けつつあると自覚していますので。これもまた、ダービーの実績が背景として大きいと推察します。

皐月賞までの間のフォーム改善

前日のテレビ東京では競馬中継の後に、ダービー特集の番組が放送されていました。コントレイルを追いかけて鳥取ノースヒルズへの密着取材。実際に福永が跨ってフォームチェックする様子もあり、関係者間のコミュニケーションの取り方がなかなかリアルに切り取られていました。

ダービーウィーク発売のGallopのインタビュー記事では、ホープフルS後にフォームに関するオーダーを出したことが書かれています。牧場と厩舎の連携で修正してきたことを評価していますね。そして同じくダービーウィーク発売の優駿では、そのオーダーの内容に触れられていました。

コントレイルの2歳時は、ハミを頼ってかかり気味になり前進気勢が強過ぎるという循環に入っていた模様。前肢に頼って走っている、いわば前輪駆動であったこと。福永は、馬がカラダを起こして走れるように修正すること、これをオーダーとして出していたようです。

育成の段階で前肢の球節に不安が出て、半年間騎乗訓練ができなかった経緯と符合する話。本馬の走りの癖が影響しているのでしょう。前輪駆動から4輪駆動へ、皐月賞までの短い期間でそれに応えた馬がすごいと思いつつ、牧場と厩舎の技術と連携もすばらしいと感じました。

チームワークへのコミットが福永の強み

ダービーを制したことがある、という看板だけではなく。様々な経験とそのフィードバックがなければ、フォーム改善が必要だという問題点を的確に捉え、それを伝えることもままならないはずです。競走馬の理想的なフォーム、それは一様ではないでしょうが、そのレファレンスがイメージできているからこそ、こうした点を指摘することが可能であると受け取っています。コミュニケーション力も大事でしょうね。

チーム・コントレイル。そのプロジェクトのいちプレイヤーとして機能すること、自然体で役割を引き受けていること、そしてチームの方針にプラスの影響を作り出せること、ここにいまの福永の強みがあると理解しているところです。誰でもこういう仕事の仕方を体得できるわけでははないでしょうね。

東スポ杯の乗り替わりはラインベック優先の結果

裏事情寄りの話になりますが、2戦目の東スポ杯、コントレイルに騎乗しなかったのは騎乗停止だったからではなく、ラインベックを優先した結果と理解しています。

時系列でいうと、ラインベック騎乗受託→コントレイルはムーアに→福永騎乗停止→ラインベックはビュイックに、ですね。

この騎乗停止で福永はインディチャンプのマイルチャンピオンシップワグネリアンジャパンカップが乗れなくなったわけですが、もしこの騎乗停止がなかったら。ラインベック継続でコントレイルに再び乗っていなかったかもしれませんね。

池添の素晴らしいリードでインディチャンプが淀のマイルを勝ったあたりは正直福永どうしたと思っていましたが、こういう巡りあわせもあるのだなぁと。

チーム・コントレイルと福永の距離感

というわけで、運命づけられたチーム・コントレイル、みたいに華美に礼賛するつもりはないんですよね。もっと現実的と言いますか、先約を大事にするスタンスを維持しつつ、巡りあわせをしっかり引き寄せて、ビジネスライクにチームワークにコミットする。福永と関係者には程よい温度感があるのではと思っているところです。

…でも、矢作師が鞍上を戻す可能性を含めつつライアン・ムーアをワンポイントリリーフで起用した、とも思っていまして。ライアンならソラ矯正に不足はないですしね。そこまで含めてチーム・コントレイルなら福永への信頼感たるや、というところでしょう。

4コーナーの進路変更とチームプレーについての見解

ガラッと話題は変わりまして、ノースヒルズのチームプレー的なお話について。

コルテジアとディープボンドが同じノースヒルズであることで、チームプレーうんぬんの議論が散見されています。個人的にはコントレイルが道中外から被せられないメリットを享受したとは思いますが、自転車競技のようにエースを勝たせるための戦略があったかというと?と思っています。

ひとつの場面だけで断言はできませんが、4コーナー付近、JRAの公開動画から取ったスクリーンショットですが、福永は外ではなくコルテジアのインにコースを見ているんですよね。

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2020年日本ダービーの4コーナー、JRA公開映像からのスクリーンショット

 

でも松山はここを開けません。その外のディープボンド和田もコルテジアとの間隔を絶妙に取って割らせません。前の2頭がきっちりコーナリングしているのを見て、福永はようやく外への選択をしているように見えています。
和田については、このスクリーンショットの直後、直線手前でいったん後ろを振り返ってからインを閉めに行ってますのでね。

これらを総合すると、3頭とも互いにマイナスを作らない範囲で協力していなくもない、という程度のことしか言えないように思います。松山も和田も自分の勝負をしていますよね。

ラビットの存在を公式に認めれば、といったアイデアも目にしましたが、いまのところ玉虫色でよいのではと思っています。性悪説前提のルール設定に関する議論が必要になるとしたら、採算や顧客満足にあたって余裕のなくなったクラブ法人がやむなく、といった状況を邪推しますが、まだまだ未来の話ではないかと。競走の質や魅力にかかわる話ではありますので、タブーなく議論したいテーマではありますね。

この2頭の挙動がなくても、コントレイルは2冠を獲っていたでしょう。今回は不問でよいと思っています。コントレイルが示したパフォーマンスが曇ることではない、という結論です。

最後に

コントレイルの額が受話器にしか見えないというネタにほんわかしつつ(ホントに受話器にしか見えなくなるので要注意です)、すっかりダービーの余韻に浸ったところです。

図らずも福永を評価する内容になりましたが、netkeibaのコラムで1週前追い切りに福永を乗せた矢作師がひとこと。

「超一流のジョッキーは、調教に乗らなくていいんですよ。1週前に祐一を乗せているのはヤツを安心させるため。」

…。きっと愛されキャラということでいいのでしょう。