more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第164回 天皇賞(秋)

エフフォーリア、3歳での天皇賞制覇はシンボリクリスエス以来となりました。

先行したグランアレグリア、直後に控えたコントレイル。見どころの多かったファーストコーナーで縦並びになった3強ですが、エフフォーリアは挟まれるような位置関係になりました。外枠からインへ押圧しながら前にはいったグランアレグリア、瞬時に外へ切り返して直後でマークする形をつくったコントレイル、という言い換えも可能でしょう。向こう正面でのヒシイグアスも含めて、けん制を受けるポジションにありながら人馬とも落ち着いて対応していましたね。

直線に向いて、グランアレグリアが早めにラップを上げにかかるところ、ここでも横山武史は落ち着いていました。前に置いたカレンブーケドールのひとつ外へ誘導してから、ひと呼吸ふた呼吸と待つ姿。肩ムチで加速の合図を出し、馬の体勢を整えながらの追い出し。

前走ダービーでは前が開いた瞬間に反応、進路を失わないための早めのスパートはハナ差の惜敗につながっていました。決してミステイクではないと思うのですが、相当フリカエリを重ねたのではないかなと。

最後まで鈍らなかった脚色は、週明けにみたフォトパドックでの充実ぶりとつながりました。満を持して後方から追い上げたコントレイルを振り切ったのは、2kgの斤量差だけではないでしょう。

f:id:barnyard:20211103214530p:plain

2021年天皇賞秋、ゴール手前で抜け出した3強

3歳での天皇賞制覇は祖父シンボリクリスエス以来、府中にかぎっていえば1996年のバブルガムフェロー以来。もっといた気がしていたのですが、2、3着の惜敗があるんですよね、フェノーメノイスラボニータなど。

スローからの極限の上がり勝負。それを見越したファーストコーナーまでの攻防。日本競馬らしいストロングポイントを競い合う、いい比べ馬になりました。後味がよいですね。

公式レースラップ

12.8-11.5-11.9-12.0-12.3-12.0-11.8-11.1-11.1-11.4

昨年との走破タイム差はコンマ1秒。端的な比較になるでしょうか。

12.7-11.7-12.1-12.1-11.9-12.0-11.7-10.9-11.1-11.6

逃げ馬不在と当日の雨

典型的な逃げ馬不在。カイザーミノルが深いブリンカーをしてパドックに現れた瞬間に迷いはなくなりましたが、どの馬がいくのか微妙なメンバーと枠の並びでした。逃げる必要はないけど先行したいというメンバー構成だった認識です。

まさに水を差したのは当日の雨。お昼ごろから降り出したようですが、結局小雨の残る中のレースとなりました。降雨のなかレースする状況が一番馬場が読みにくくなると思っていまして、とりあえず直前のレースを見て勝ち馬のコース取りと、後方から着まで押し上げた馬のコース取りは確認。3強はインを避けて直線外へ意識を向けるのかなと思っていました。

武史は勝利ジョッキーインタビューで「インへこだわらず」と話していました。6Rで8枠から勝利していますのでその手応えもあったかな。レース当日は家族のお祝いでランチをしていましたのでチェックし切れていませんでしたが、概ね見立ては合っていたようです。

コントレイルのスタート

スタートで後手を踏んだことはリアルタイムでわかりましたが、コントレイルは相当不利な体勢にあったようです。パトロールビデオを一時停止してなるほどと思いました。ゲートが開いた時点で踏ん張っていた模様です。人間でもクラウチングスタートで大股を広げていたら前に推進する力は生み出しにくいですよね。

f:id:barnyard:20211103214717p:plain

2021年天皇賞秋、ゲートが空いた直後に大股で踏ん張るコントレイル

1完歩踏み出した後の体勢はこちら。コントレイルの体は左に流れていますが、首から先は右の2番枠カデナとこんにちわしています。鞍下がこの動きだと、福永は内ラチの方向に軽く放り出されるような形になったと思われます。それを支えるにはいったん左足で踏ん張るしかないですね。

f:id:barnyard:20211103214847p:plain

2021年天皇賞秋、ゲートを出た直後に左足でバランスを支えるコントレイルの鞍上福永

この直後に左の手綱を大きく引いて頭の向きを正面にする試み。これでようやく他馬と五分の姿勢になりました。ただし前へ推進するはこれから。直後のポジションに影響するポタジェと比べても、なかなかのディスアドバンテージだったでしょう。

f:id:barnyard:20211103215026p:plain

2021年天皇賞秋、コントレイルのバランスを修正するために左の手綱を使う福永


福永のプラン切り替え

体勢を立て直した直後、福永は今度は右に重心をかけて数完歩。馬体が左へ流れないよう加重してから右の手綱を引いて、コントレイルに外へ進路を切り替えるサインを出しています。

f:id:barnyard:20211103215206p:plain

2021年天皇賞秋、1列外へ展開するために(体勢を整えるため?)右側へ重心を移すコントレイルの鞍上福永

後手を踏んだスタート。グランアレグリアの先行する姿も視野にはいっていたものと思います。これらの条件から、スタートしてかなり早いタイミングでエフフォーリアの直後を取りにいくプランに切り替えたように見えていました。

仮にスタートを五分以上に出た場合、ポタジェと並走しながら逃げ馬の直後でファーストコーナーを迎えるというプランがあるのではと予想していました。でも、あくまでこちらの見立て。実際はほとんど一択(=外へ展開してエフフォーリアの位置)だったのかなとも思っています。実際に取った進路はリカバリーの結果でしょう、ベストなスタートではなかったと思っています。

気になった馬

コントレイル

道中のポジション、スタートのことを割り引いても福永は勝てる可能性を感じていたのではないでしょうか。直線の伸びはその手応えからすると案外だったのかと。直線は何度も手綱を手繰る所作がみえました。道中外へ張りながら他馬との接触もあったようですから、最後にそれが堪えたように見えています。

やっぱり雨が降ってほしくなかったですね。同じスピードがでるとしてもグリップの仕方には差があるでしょうし。引退まで残り2戦で臨んでいましたから、3冠馬のベストパフォーマンスを雨なしで見たかったという思いは残ります。そうした条件下でも勝てると踏んでの本命視でした。

ジャパンカップでパフォーマンスが上がるかな。昨年の惜敗より期待できると思っていますが、だいぶメンバーが異なりますしね。

グランアレグリア

この枠の並びになった時点で先行策の可能性はありましたね。降雨の影響も後押ししたと思っています。ホントに先行してしまうあたりがクリストフなのですけど。

ひとつ早く仕掛けたのも距離不安の裏返しかもしれません。個人的には少し仕上がり切っていない印象でしたので、それも含めて大善戦だったと思っています。

藤沢厩舎にとっては最後の天皇賞尾形藤吉の記録に並ぶことは敵いませんでした。その情緒も人気を後押ししたかもしれません。でもなぁ、タイキシャトルゼンノロブロイレイデオロも、古馬になってからの休み明け緒戦で絞り切れていないという負け方のパターンがあるように見えていまして。馬への負担という意味ではよいのかもしれないですが、馬券的には狙いにくい、という過去の記憶からのアラートが。

どうやら次走はマイルチャンピオンシップになる模様ですが、中2週がどうでるでしょうか。

サンレイポケット

鮫島のファインプレーと思います。2コーナーでコントレイルにはじかれて下がった後、コントレイルが避けたことでがら空きだったインコースに飛び込みました。この切り返しが4着善戦のポイントでしょう。

ヒシイグアス

追い切る度に疲れを取る時間を要するというコンディション。掘師のコメントを正面から受け止めるとなかなか買いづらい状況でした。実際は向こう正面でエフフォーリアを、3、4コーナーではコントレイルを外から蓋をする立ち回り。さすがに直線入り口の加速ポイントで離されましたが、最後まで末脚を伸ばしての5着。

もちろんスローペースだったからこその善戦という側面はありそうですが、このコンディションでここまでやれるとは。今後安定して調教を積めるようになるなら。楽しみな1頭と思っています。

エフフォーリア

走りの分析は冒頭で書いた通りなのですが、スパートした際のフォームがカッコいいんですよね。祖父も父もダイナミックなフォームでしたが、そのどちらとも異なる伸びやかさとパワー。共同通信杯が鮮やかでしたものね。…こういう好みの部分と予想を別にできるようになってしまったのはよいのかわるいのか。

ひとつ気づいたのは、まだ関西圏への遠征がないこと。菊花賞に向かわなかったことで早くて来春の阪神になりますね。輸送自体にあまり懸念はないものと思いますが、レースまでの環境変化を馬がどう捉えるのか。…まだ先の話ですね。次走は有馬記念とのこと。楽しみに待ちたいと思います。

最後に

JBCを観ながら天皇賞のまとめというのは、やはり避けた方がよかったと反省しています。どうもレース直後の感覚を言葉にするにはちょっと集中し切れなかったですね。とはいえなかなかまとまった時間がとれない状況ですからやむを得ないかなと思っています。

レース直後に感じた熱をまとめたいという金色のマスクマン(仮)さんのレース回顧は秀逸ですね。この記事の身勝手な解釈をフラットにするにはよい参照先だと思います。記事は長尺ですが、ぜひ。

note.com

JBC4競走の勝ち馬はいずれも、ジョッキーの立ち回りの良さが目立ちました。序盤のペースに対して控えたテオレーマとアイスジャイアント。大外枠からスタートして4コーナーで砂が深いインへ飛び込んだレッドルゼル。前走白山大賞典の経験から、いつもより積極策で押し切ったミューチャリー。

天皇賞もそうですが、鞍上のコース取りや縦横のポジションに対する判断のよさ、反応のよさがないと、特にG1は結果に結びつかないように思うことが増えました。ジョッキーの意識も技術も、かなりのレベルがもとめられているのでしょうね。その中で今年G1を3勝した22歳がいることは、改めて頼もしく受け取っているところです。