more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

アーモンドアイ凱旋門賞見送り

1つのレースの1次登録を見送るのに書面で公開コメントがでるのは珍しいと言えるでしょうか。

シルクホースクラブの発表

以下のお知らせにて確認しました。

www.silkhorseclub.jp

PDFファイルのタイトルは「凱旋門賞登録の見送りについて」。一字一句の分析にどこまで意味があるかというとアレですが、関係者間での検討が一定の合意形成をもって着地したことは窺えます。例えが古いかもですが、シンボリルドルフの時のようなオーナーブリーダーとトレーナーの乖離があるならこうした文面にはならないでしょうから。以下、ポイントを抜粋しました。

ドバイ遠征における新たな環境への対応・レース後の様子・長距離輸送での体調の変化などを精査した結果

これまでの本馬の経験上、コース・距離・斤量、そして初めての環境と全てがタフな条件になる

環境適応力・レースそのものへの本馬への負荷・レース後のケア環境・長距離輸送などの条件を鑑みますと、「ベストのレース選択ではない」、との結論に至りました。

凱旋門賞<個体の適性とコンディション

スプリントG1を複数勝っている父ロードカナロア、これだけでも2400が長いという端的な訴えはできると思いますが、分析の俎上にあげた要素をみると、取り巻くひとの事情と同等に、個体の適性を取り扱っているのが窺えます。

大方の見解通り中距離かつ軽い馬場への適性を見い出すなら、天候が不順で重くなりやすい10月のロンシャンに挑戦するのはリスキー。より適性の高いレース選択を、という帰結は筋の通った議論と思います。

どちらかというとコンディショニングに不安があることの方が大きいように察しています。一度ではないレース直後のふらつき、原因が把握できていてもいなくても不安材料であることには間違いないでしょうから。

※追記:

投稿後に見つけた国枝師のコメント。コンディションの面を気にされていますね。オセアニアを視野に入れなければ、ほぼ国内という見通しのようにも。

p.nikkansports.com

ビジネスライクな面はきちんと

一方で、クラブ法人にしてもマーケットブリーダーにしても、様々なお客様に向けて継続的な信用を得るという観点はとても重要でしょう。その点からできるだけ客観的な分析の上で判断をする、またこうした判断を積み重ねる、という姿勢は至極妥当と思います。個体の適性と同じウエイトで、いい意味でビジネスライクな側面がきちんと見える判断と対応に映ります。

ESG投資などという言葉も広まってきていますが、多数のプレイヤーに出資先として選ばれるための姿勢がより問われるご時勢ですから、関係者個人の志や夢に相乗りするような海外遠征とは違う枠組みが徐々にできあがっていくかもしれませんね。その意味ではマカヒキサトノダイヤモンドと遠征決定にいたるプロセスは異なっていると推察されます。

いちおう。今回の判断からクラブ法人側の私的な利害ばかりを受け取って一方的に揶揄する言葉が蔓延するなら、全くの筋違いであると理解をしております。

あー、サートゥルナーリアとの使い分けというのもかなり強引な邪推と思います。取らぬ狸の、と申しますしね。

凱旋門賞挑戦という固定観念の相対化

個人的にはエポックメイキングとは思っていませんが、象徴的な出来事として映る界隈もあるでしょう。ただ、ジャパンカップを制した3冠牝馬凱旋門賞を目指さないという判断が、ひとつの実績として残ったのは間違いなく。今後、前例主義的にこの形を説得材料にする場面がでてくることは推察されます。

凱旋門賞が相対化されていくにはまだ時間がかかるでしょう。端的に日本一→世界一というプロットで競馬を楽しむライトなファンもまだまだ多いはずですし。ラスボスを倒したらもっと強い敵が現れた、というプロットの転用とも言い換えられるでしょうか。ただ、キャリアを重ねたファンがその楽しみ方を間違いと断ずるのもピントがずれていると思います。

新しい判断や価値は、既存のプロットとの比較を繰り返しながら、時間をかけて取り込まれていくものと心得ます。今回の個別の判断も、時間とともに汎用性を帯びていくかもしれませんね。

チャンピオンの次への模索

どちらかというと、チャンピオンが次を目指す時点でそれは未踏の領域ですから、照らすべき前例などないと思うのですけどね。

先に引き合いに出したシンボリルドルフならサンルイレイS、エルコンドルパサーならイスパーン賞サンクルー大賞タイキシャトルならジャック・ル・マロワ賞、ちょっとマニアックなところではウオッカジェベルハッタなどなど、例示したものはすべて、日本調教馬では前例のないレース選択をしています。

チャンピオンの模索。それはできるだけ開放的で発展的な手探りであってほしいですし、それを楽しんで支える賢明なファンがあればワクワクしながら次へ進むことができるのではと思っています。私財を投じる側の負担には頭が下がるばかりですが、こちらはいい意味で楽観したいところですね。

否定しがたい議論だけがひとり歩きしないよう

競走馬の海外チャレンジにはある種の破綻と言いますか、通常としていないといいますか、議論の整合性や採算を度外視したモチベーションが必要と思います。今後クラブ法人の採算が決定要因として強くなり過ぎる場合、ワクワクするような野心的なチャレンジは見られにくくなるかもしれません。否定しがたい議論を飛躍したところにこれまでの海外チャレンジはあったと思いますので。

…ファンとしてワクワクするって、責任と関係がないところだからこそ、という側面がありますものね。ワクワクさせてくれという暗黙の態度は贅沢な我が儘なのでしょう。

ただファンが馬券を買う動機づけ、そしてたくさんの方に競馬を許容していただかないと、競馬という箱物自体がなくなってしまうかもしれないですから。ファンの興奮とオーナーシップと採算と、今後も極端に偏らず進んでいくことを願います。


…話を広げ過ぎたかな。いちファンとしていい判断と受け取っています。アーモンドアイの次走、期待しながら決定を待ちたいと思います。