more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第163回 天皇賞(春)

ワールドプレミア、タフなレースを見事に差し切りました。

残り1000mの少し手前、1000mを切ってから内回りの3コーナーに入りますのでその少し手前。2周目の向こう正面という表現が早そうですね。福永は一度左に顔を向けて、外の動きを確かめています。1周目のスタンド前からけん制し続けていたウインマリリン横山武史を意識しての所作ですね。

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2021年天皇賞(春)、2周目の向こう正面で外を確認するワールドプレミア福永祐一(奥の白帽)

武史が外から被せてくる動きを察知して、福永はアリストテレスの真後ろを捨てて1頭分外へ展開しました。レース後のインタビューで「少し自分が考えていたよりは早く外に出しましたけれども」というコメントは、ここに当たるでしょう。

映像で観ると分かりやすいのですが、その直前がディアスティアのシフトアップでグッと速くなっている区間なんですよね。レースラップでいうと12.6-12.1の箇所。向こう正面に入って間もなく、坂井瑠星はここで後続を振り落としに掛かりました。レイパパレの大阪杯、川田が言うところの「心をへし折りにいく」という表現が近いかもしれません。

スタミナの足りない先行馬は鞍上が手綱を大きく動かしながらポジションを下げていき、一方で有力馬はペースに振り落とされずに粘り込むディアスティマに接近していきます。スタミナの問われる天皇賞、これぞ長距離戦というコントラストが3コーナーを待たずに現れることになりました。

1、2着のスタミナは確かでしたね。終わってみれば、一昨年の菊花賞馬と今年の阪神大賞典の勝ち馬でワンツー。80、90年代の天皇賞のような組み合わせに見えています。

…京都の3200を復活させつつ、この阪神3200もG1格で残りませんかね。異なる資質を問う長距離G1が2つある、というのはとても面白いと感じますがどうでしょう。果たしてフィエールマンだったら今年は勝ち切れたかな、などとイメージが膨らんでおります。

公式レースラップ

12.8-11.3-11.7-11.9-12.1-11.9-11.8-12.1-13.1-12.6-12.1-12.0-11.9-12.1-12.3-13.0

同コースの比較対象はディアスティマの松籟Sしかないですね。

12.9-11.1-11.1-11.9-12.4-12.4-12.3-12.5-13.5-13.0-11.9-11.9-11.9-12.0-11.5-12.6

当日は午前中に小雨、トラックバイアス自体は先行有利

今年の阪神芝は回復が早いですね。週末の降雨の際はさすがに時計が掛かりますが、翌週にはかなり速いラップが計時できるコンディションに回復している印象。JRA-VANのコジトモさんの記事をみれば詳細がわかるかもですが、2月半ばからのロング開催でしたから、補修に努めてエアレーション作業などは行わなかった、かもしれませんね。

仮にそうだとすると、排水性が発揮されると固めの路盤(というか根付きのしっかりしたエクイターフ)がグリップを担保して速くなる、という理屈が成り立つように思っています。とはいえ、降雨や掘り返した箇所で内外の変化もでますから、当日の見極めは必要と思っています。…そういえば、今年からJRAが「良=Good to firm」と訳すようになりましたが、こうした好天時のコンディションの良さを把握した結果かな、などと推測をしております。

午前中の稍重から良に回復しての8R、蓬莱峡特別はレッドフラヴィア、ルメールの逃げ切りでした。特徴的なのは3、4コーナーの通過順、レッドフラヴィアは2-1。2着エレヴァテッツァにいったん交わされているんですよね。中弛みラップとはいえ、4ハロン近いのロングスパートが決まるバイアス。条件戦では先行有利が強い傾向になっていました。

ディアスティマは乗り替わり、坂井瑠星の逃げ

北村友一の落馬負傷はその後、椎体骨折、右肩甲骨骨折と診断されたようです。椎体=背骨のことですが、程度が伝わってきていませんし、箇所が箇所ですので心配です。早期の回復を祈りますが、慌ててはいけない箇所でしょう。

急きょ乗り替わった坂井瑠星、自身の特性と鞍下の特徴と、上手くマッチしていたようです。スタート直後にジャコマルに迫られても引かずに先頭をキープしたあたりはさすがだなぁと。

2周目の1コーナー付近は、12.1-13.1としっかりブレーキング。そこから2ハロンで13.1-12.6-12.1と再加速し、そのままゴールまで踏み続けました。松籟Sとおおよそのラップ構成は同じ、瑠星の方がもう少し厳しいラップを求めたようです。

 

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2021年天皇賞(春)、残り600mを過ぎて逃げるディアスティマと追走にスタミナを使う後続


厳しかった分、ラスト200からの登坂が思いっきり堪えましたね。申し分のない逃げではありましたが、もう少し、何と言いますか「ズルい」構成でまとめられるとよいのでしょう。そうした心理的なアクセルとブレーキの踏み分けは、もう少しあとで覚えるくらいがちょうどいいのかもしれません。横山武史もリオンリオンで思いっきりアクセルを踏んでいましたものね。

俊敏さとは異なるディープインパクト。母父ストリートセンスに納得感を覚えつつ、このあとのローテーションが気になりますね。最適な条件がまぁまぁピンポイントになる予感がしています。が、もうひとつカラダが出来てきたら、秋の重賞戦線で楽しめるのではないかなと。

他のG1とは違って、着順の如何を問わず春天の本命に悔いが残らないというのは、やっぱり気持ちがいいんですよね。今年の天皇賞春のレベルを引き上げた立役者。期待して秋を待ちたいと思います。

ワールドプレミアは人馬揃って好パフォーマンス

スタートはよくなかったんですよね。外にヨレ気味で福永も右の手綱を落としています。そこを取り直してからが上手かった。

ジリジリとプッシュしていって、ゴーストに前に入られない主張をしつつ、直前のアリストテレスから少し空けての中団追走。スタンド前までこのポジションをキープしていたことは非常に大きかったと思います。

最後2頭が外から差していますが、待機勢に有利ではないんですよね。コーナー通過順で1コーナー2桁だった馬は掲示板に載っておらず、最先着はユーキャンスマイルの7着。藤岡佑介は「前が止まらなかった」と評していまして、このあたりが単なるハイペースではなく、ラップの変動に対応する加減速の柔軟性も合わせて求められたことが窺えます。オーソリティもここに上手くアジャストできなかった面があったでしょう。

このペースを、スタミナをロスしないギリギリまで前のポジションで受けて、前段の通りひとつ早めに進出を開始して押し切ったわけですから、馬のスタミナや仕上がりも十分だったと言えそう。前残りの日経賞で見せた末脚、そこからの上昇曲線も含めば、納得の結果と思っています。

人馬のパフォーマンスを讃えること

持続化給付金の受給にかかる件、せっかくのG1制覇に水を差す格好になっていますね。ことの顛末や批評はnetkeibaの野元さんの記事などを参照していただくとして、個人的には税金の適切な再分配を阻害したという点に問題があるものと理解をしています。条件が整えば給付されるという意味では合法的ですが、以下のような主旨がありますからね。持続化給付金のサイトトップにあるテキストです。

感染症拡大により、営業自粛等により特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える給付金を給付します。」

不適切な給付を斡旋するということは、本来受け取るべき方のところに届かない、パイの再分配が上手くいかない状況をつくるということでもあります。制度設計の問題が半分ですが、運用するひとの規範意識がもう半分、というところではないでしょうか。全国のファンを相手にするエンターテインメントに携わっているのですから、そこまでの視野を持っていてほしいというのは必ずしも高い望みだとは思わないのですけどね。

そういう業界なのね、と思われても仕方ない事象であることが残念な限りです。ファンは外野ですから見守るばかりですが、JRAなり馬主協会なりの自浄作用も含めて、応援したくなる佇まいであってほしいものです。

福永が背負うべきものを背負っていたのは笑顔のない勝利ジョッキーインタビューで察しました。18度目の挑戦で天皇賞春を制覇、1976年のエリモジョージを父・福永洋一が制していますので、ジョッキーとして親子制覇でもあるわけです。いちファンとしてはもう少し無邪気に喜びたかった、というのが正直な感想です。

ディープボンドは成長を示した2着

ディアスティマが引き離しにかかった3コーナーから、掲示板に載った5頭では最も早く追い通しになったのがディープボンドでした。あれだけ押っ付けてなお、残り200からあれだけ踏ん張れるのは豊富なスタミナの証。ディアスティマ本命でしたので、3コーナーの和田の姿にはちょっと「よしよし」と思っていましたが、あそこまで粘り込むとは。

追い切り映像ではだいぶ全身を使って走れていることが見て取れました。ひと言でステイヤーと言うべきでしょうか、シュッと反応できない代わりにジワジワ伸び続けられる、本馬の特徴にさらに磨きがかかっていました。和田もこの特徴を活かす乗り方だったと思います。

ディアスティマがもう少し溜め逃げになった場合に前残りを捉えられたか、という仮説を立てると、ディープボンドが勝ち切る展開は案外ピンポイントだったかもしれません。

阪神3200での天皇賞は来年もう一回ありますよね。もう一度、できればもう少しスムーズにシフトアップする姿で来年また見てみたいと思っているところです。

勝ち切れないカレンブーケドール、距離不適だったアリストテレス

好位のインで虎視眈々として、ディアスティマのペースアップに付いていけたカレンブーケドールでしたが、4コーナーで捉えてからは抜け出すには至らず。脚色が鈍ったところを1、2着に交わされてしまいました。

「道中いい意味でまじめに走る」とは戸崎のコメント。抜け出してソラを使う面とセットで本馬の特性なのでしょう。抜け出した瞬間にゴールが来るようなコース形態を探すしかないでしょうか。ムーニーバレー?

一方のアリストテレス、京都と阪神のギャップ、同世代のG1と古馬G1のギャップ、先行バイアスと折り合いに配慮が必要というギャップ、諸々のギャップを埋めきれなかったように見えています。1周目のスタンド前までは奇跡のような負担の少ない誘導を見せていましたけどね。あのあたりは鞍上の経験の成せる技だったでしょう。

それでもレース後のインタビューでは2400くらいがベストというコメントも。追い切り後のインタビュー、質問に応える姿にさえない表情を見て取っていたのですが、それが諸々を象徴していたように思っています。ルメールのインタビューはユタカさんと違った意味で嘘がないですね。

レース前の見立て

馬場

  • 日曜午前の降雨→回復したが多少パワーは要する
  • 先行有利のバイアス

先行馬と序盤のペース

  • ディアスティマ、というより坂井瑠星が引かない
  • 先行馬の動向次第だが、前半は深追いするラップにならないのでは→ディアスティマのマイペース

隊列やレース展開

  • ディアスティマ坂井瑠星のロングスパート
  • ディープボンドは先行策、アリストテレスはディープボンドの直後にはいない
  • ワールドプレミアは外から蓋をされる分、ベストなコース取り、仕掛けのタイミングでなくなる
  • ウインマリリンが読めない、ペースを深追いしないのでは
  • ユーキャンスマイルは前半に中団のポジションが取れるなら上位進出があるかも

各馬の評価の上げ下げ

  • ディープボンド、ワールドプレミアは仕上がりよし
  • ディアスティマも上々、まだ良くなる余地あり

勝敗に強く影響するであろうファクター

  • 先行バイアスを活かせる立ち回り、軽快なスピードより息の長い末脚

最後に

6、7日は出勤ですが、十分連休を満喫しているところです。元々がインドア寄り、出かける機会の減少には全く抵抗がありませんので、運動不足に注意しながら、部屋の模様替えや中間テストの勉強などに勤しんでいるところです。中間テストという響きにはまだアジャストできていないですけどね。

連休前にはアーモンドアイのDVDが届いていましたので、明日には封を開けているでしょう。頻繁な手前替えで未完成さを覗かせた桜花賞から、おとなの立ち回りで3冠馬を完封したジャパンカップまで、9冠の軌跡を堪能したいと思っています。感動は再生しますものね。