レモンポップ、再び距離を克服して有終の美を飾りました。
ジョッキーカメラは雄弁ですね。逃げ馬の耳の動きを観ていると、いかにレモンポップがしっかりと調教されてきたか、人間との信頼関係を紡いできたかがよくわかります。
スタートダッシュでスピードを上げること、その時に全力をださないこと。それを馬がよくわかっているのでしょう。ゲートをでてから67km(かなり加速してます)までスピードアップしているのですが、レモンポップの耳は倒れる素振りなく、まっすぐ前を向いています。気持ちをいれて全力で走っていない証拠ですね。
公式記録から、1コーナー通過順は2番手。そうなんです、外から被せていたミトノオーが前にでている時間があるんですよね。
上記の映像では、ミトノオーが画面にはいる少し前から瑠星のなだめる声が聞こえていて、ミトノオーが真横に来たあたりでジョッキーは声量を上げました。レモンポップはその瞬間に耳の角度を変えて、その声を聞き取ろうとしています。
ふつう横に馬が被せてきたらもう少しエキサイトしたり速度があがったりする(いわゆる「かかる」)ものですが、この区間を冷静に減速しながら通過できているんですよね。
周囲のプレッシャー < 瑠星の声。…レモンポップ推しの皆さん、心震える瞬間がやってまいりました笑
いや、でも、冗談抜きでこれがレモンポップというチャンピオンの特性だと思います。めちゃめちゃ素直でどっしりと落ち着いたメンタル。人馬の絆といいますが、ここに田中博康厩舎の力が表れているように感じます(戸崎もね)。
向こう正面では耳を前に向けるレモンポップ。そりゃあペースダウンになりますよね。そして3コーナーの入口付近では後方を窺うような耳の動き。瑠星の声は聞こえていないので、ひょっとしたらレモンポップが「そろそろだけど、まだ?」みたいなサインを出していた可能性もあるのかな。
3コーナー手前では56km台が見え隠れするペースダウン。昨年はその先、3、4コーナーで溜めていたのですが、今回は3コーナーを回りながら58km台へペースアップ。おそらくリラックスしながらペースアップができていたものと思います。
中京は残り1000mから残り400mまでが下り坂。今年はその下りを使いながら、そしてコーナリングの中、じりっとペースアップを図ったようですね。ここは昨年と大きく異なっていますし、よりスピードとスタミナを問う厳しい流れを自ら作りにいったと読み取るべきでしょう。
直線の登坂にむけて吹かし切ったのでしょうから、ラスト1ハロンはさすがに失速。ただ厳しいラップ構成の中にあって、失速幅は相対的に少なかったものと思います。
「がんばれ!」。直線3回でしょうか、鞍上の𠮟咤激励が聞こえます。きっと鞍下もこれに応えての粘り込みだったでしょうね。
受けて立つ立場で、受けて立った坂井瑠星。鬼のような(笑うところ)先輩リーディングジョッキーの猛追をハナ差退けた事実は重いですね。
そして期待に応えたチャンピオン・レモンポップ。昨年は距離延長の克服というテーマと思い切った逃げという戦略でしたので、受けて立つという評価とは少しずれる印象があります。今年、かしわ記念のマッチレースも受けて立つ内容でしたが、ラストランの今回こそチャンピオンらしいパフォーマンス、いわゆる「横綱競馬」だったでしょう。素晴らしい競馬でした。
公式レースラップ
12.6-11.0-12.4-12.2-12.6-12.4-12.2-12.0-12.7
昨年との比較は重要ですね。
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6
馬場は少し時計がでやすいグッドコンディション
当日10R、クロフネカップはライジンの番手押し切り。前傾ラップの割に前が残る展開で、レースの上がりは36.4。いったん出たスピードがある程度持続できる馬場コンディションと読みました。
こうなると、コースの特性から「馬群の外」「差し追い込み」は、極端なペースにならない限り勝ち切るのは難しい、という見立てになっておりました。そのクロフネカップ、1~3は先団からなだれこみ、4~7着は4コーナー通過順が2桁ですのでね。
ここまで読んでおいて、かつレモンポップが1コーナー先頭ですんなりという展開までイメージしておいて、どうして本命がガイアフォースになってしまったのか。。。
1コーナーまでの攻防にレモンポップの強さをみる
最もスタートダッシュを決めたのは他ならぬレモンポップでした。ゲートから内に寄れてクラウンプライドを押圧する形になり(ちょっと接触しているようですね)、結果としてインから主張されることはなくなりました。そもそもテンのダッシュ力はレモンポップの方が上回っていたでしょう。
クラウンプライド横山武史からすれば、ゲートでひとつ遅れ、押圧でもうひとつ遅れ、後手のままチャンピオンの直後にポジショニングすることになってしまいました。ただ、レース後のコメントが「4コーナーでペースが上がったところでついていけなかった」「収穫のあるレース」という内容ですから、レモンポップのインから主張するようなガチなレースはあまり想定していなかったように思っています。
もう一頭、ペプチドナイルもスタートを決めていましたね。陣営から聞こえてきたのは過去イチの仕上がりというコメント。追い切りの動きもよかったですし、縦の比較でいえば過去最高だったかもしれません。
ただなー、過去イチでここまでか…というのがパドック映像での正直な感想。いえ、陣営の努力には敬意を持っておりますし、それだけカラダの緩さと向き合う難しさがあったものと推察するわけですが、どうしても上位には取りにくかった。ここで予想の難しさも出たと思っています。
前走同様、レモンポップを負かすなら1コーナーまでにダッシュを利かせてすぐ外で馬体を合わせるくらいのポジショニングが必要ですし、それを狙ってくるのではないかと思っていました。その期待をしていた分、パドックの姿はもうひとつパワーに欠ける印象だったんですよね。
全くレモンポップについていけないとも、五分で勝負するとも言い切れない印象。1コーナーでどこまで肉薄するかのイメージがはっきりしなくなってしまいました。
事前の展開予想では、インからクラウンプライドがギリギリ主張し、ペプチドナイルが外から併せて、その外を大回りしながらミトノオーが1、2コーナーで被せるという、レモンポップ包囲網ができあがるのでは、と考えていました。チャンピオンには息の入りにくい厳しい展開ですよね。
坂井瑠星はスタートから主張し切ることで、周囲からのプレッシャーを最小限にとどめることに成功していたと思います。個人的な懸念は全部杞憂に終わりましたね。さすがレモンポップでした。
ミトノオー松山弘平はいいプレッシャーをかけていました。見せ場はつくってくれたと思っています。しかし、その先行したミトノオー、クラウンプライドはそれぞれ10着と11着。チャンピオンが1コーナーまでに受けて立ったことがここにも表れていますね。
ウィルソンテソーロは完成度と川田のリードで2着
デキがよかったですね。JBCクラシックからこちら、着実にパワーアップした姿と見えていました。こちらも経験を重ねて仕上がってきた馬体ですね。
ただ、そのJBCクラシックの序盤は後方から、1周目のスタンド前にかけてかなりえげつないイン突きからポジションをあげていった経緯を覚えており。3、4コーナーで一気に進出した姿が鮮烈ですから先行押し切りのイメージが強いかもしれませんが、スタートからはポジション取れていないんですよね。それが勝ち切るイメージを喚起しなかった、というのが個人的な心象でした。
川田のリードはさすがですね。序盤のスタートダッシュでは深追いせずインから2、3列目をキープ。3、4コーナーでは前のペイシャエス、外の斜め前にいるグロリアムンディの手ごたえから、その間かひとつ外のどちらかのコース取りで直線を迎える準備をしていたように見えています。
4コーナー出口、グロリアムンディが頑張っていたことからその外へ展開。スタミナの尽きかけていたセラフィックコールを押しのける形で進路を確保。眼前にサンライズジパングが粘っていましたがスムーズにその外へ展開。少ない手数で前方をクリアにしました。
ラストは惜しかったですね。ジョッキーカメラの映像にはゴール直後のカラッとした「ちくしょう」のひと言が聞き取れます。観ている側からは角度の問題もあり、あれ?交わしたか?と判然としない瞬間がありましたが、当事者の見立てはさすがですね。
「着差はわずかでしたが、チャンピオンは最後までチャンピオンでした」。レース後の川田将雅のコメント。知力と体力を尽くしてこのコメントがでているのでしょうから、見事なひと言だったと思っています。
ペプチドナイルは1コーナーの攻防で実力差がみえた4着
藤岡佑介のコメントは次の通りでした。「勝ち切るにはこの上ないさじ加減が必要で、それをできなかった分の負け」「現状はワンターンの1600mの方が安定して力を出せそう」。
自分なりの解釈ですが、先ほど議論した1コーナーまでの攻防でもうひとつ前のポジションを、もうひとつスタミナを使わずに取り切れるか、という課題が「この上ないさじ加減」だったのではないかと推察しています。
1コーナーでミトノオーが前に入られなければ。きっとレモンポップのすぐ横で3、4コーナーを迎えるコース取りになっていたでしょう。実際は向こう正面でミトノオーのひとつ外に出していて、3、4コーナーはその外を回りながら進出することになりました。
鞍上の見解を借りるなら、距離ロスがありながら距離延長したG1を勝ち切る、という難しいミッションになってしまったと言えそうです。
次走はフェブラリーSとのこと。リピーターが活躍しやすいレースですので、条件好転と捉えるべきでしょう。関係者の苦労を度外視するように無邪気に語りますが、もうひとつ腰高の特徴が見えにくくなるのが理想的かなと思っています。
ガイアフォースは負けるべき条件を揃えてしまっての15着
外枠が不利なコースというのは承知のうえで鞍上がどんな作戦を立てるのか。長岡に期待した部分も大きいわけですが、レースの進め方は裏目裏目にでてしまいました。
「スタートからダートは初めてで、2歩目に脚を滑らせてしまいました」「ペースもあまり流れず早めに動いていったんですが、外枠からずっと外を回る形で厳しいレースとなってしまいました」。レース後の鞍上のコメントです。
ジョッキーカメラもみましたが、1、2コーナーですぐ内にセラフィックコールがいる形。クリスチャンは外へ押圧してガイアフォースをインへ迎え入れないようにプレッシャーをかけていました。これは厳しいせめぎあいになりましたね。
1、2コーナーで外を回り、3、4コーナーでも外を回る。おまけにちょっとかかり気味になりながら内の馬と強いプレッシャーをかけあう。中京1800mでマイナスになる要素が重なりまくっておりました。。。それは失速しますよね。
素人考えながら。2歩目が出なかった時点でいったん下げてインへ潜り込む、という選択はリスキーだったのかな。ダート2戦目でキックバックが懸念材料という馬もおりますが、フェブラリーは中団インで追走していますからね。
1コーナーをウィルソンテソーロのひとつ外で迎えるポジショニングは可能ではなかったかと思っている次第です。ペースが流れていないからこそ溜めた差し馬の台頭もあり得るわけで。
…外の追走しか勝ち切るイメージがなかったのか、あるいはレースのなかで戦略を切り替える力がなかったのか。馬に問題がなくかつ1コーナーをあの形で回るしか選択肢が浮かばなかったのであれば、今後のジョッキーへの期待の仕方が変わるレース運びだったという印象です。
その他気になった馬
ドゥラエレーデはライアン・ムーアが脚質転換を図ったかのような3着。昨年のムルザバエフとは馬の能力の活かし方について発想が違ったように見えています。
これまでは息を入れられる先行策、そこからの粘り込み、というパフォーマンスでしたが、レースの特性やメンバー構成に合わせてライアンが味付けを変えてきたという印象。ウィルソンテソーロと並びながらの3、4コーナー。あの位置で待てるのが凄いですよね。BCターフのオーギュストロダンを思い出すくらい、ギャンブル性の強いイン待機だったと思っています。
ハギノアレグリアスは4着。内枠をしっかり活かしたパフォーマンスになりました。このメンバーだとスタートダッシュや勝負どころで機敏に動けないよな、と思って評価を上げられなかったわけですが、クラウンプライドの後ろで1コーナーを迎えていましたからね。直線は粘り強く伸びていたと思います。
サンライズジパングは持ち前のスタミナを披露した6着。コーナー通過順が9-11-4-4ですから、向こう正面からながーくスピードアップしていました。ガイアフォースを本命にした理由のひとつは、展開ひとつでサンライズジパングに連れて行ってもらえる可能性を考慮したからなんですけどね。
ただ、捲り切れるようなペースでもなく、緩急あるラップとコース形態…というより距離不足かな。不向きな条件、というのがはっきり見えた中での敗戦だったと思っています。
最後に
当日は悪友とパークウインズ府中で観戦。久しぶりの会合となりました。合流するなり、レースの予想から出走各馬の特徴、そして適したコース条件を分析しつつ、目の前のダートコースを指して「どうしてここの2100mに重賞がないのか」というこじれたベテランファンの願望が炸裂するまでの遠大かつ不毛な議論。
以前にも書いているのですが、個人的な願望である春の古馬ダート三冠(フェブラリーSを名前を変えて春の開催に移動して2100mにリメイク、川崎記念→(フェブラリーS)→帝王賞というローテーションにする)を熱く語りだす始末。…ちゃんと予想をしなさい、というところですね。はい、めんどくさいおっさんです。
今年、3歳のダート三冠が明確になったわけですが、いずれも大井コース。羽田盃は1800mですが東京ダービーとジャパンダートクラシックは2000m。そして古馬の頂点を決める春の帝王賞、暮れの東京大賞典のいずれも大井2000m。…大井2000mと中央ダートG1の連動性についてはまだまだ議論の余地が大きいように思います。
人口減少、競馬場の存廃といったかなり先の未来まで見越しているのであれば、その間の過渡期とも受け取れますが、いま現役の馬の活躍の場所も大事ですよね。
確かにフェブラリーSとチャンピオンズカップは、マイルをこなす短距離馬と中距離馬が一堂に会することができるというある意味稀有な特徴をもっています。そのことが強いスペシャリストを生みにくくしているようにも思うのですよね。
今年はレモンポップがその強さで短距離馬と中距離馬の橋渡しをしてくれましたが、強い中距離馬が不在だったことも事実。ローテーションと各G1の在り方はまだまだベストではないと思っている次第です。
悪友との議論はそれに留まらず、互いの仕事の話から世情の話まで。話の流れで「貧すれば鈍する」という発言が自分の口をついて出ていたのですがどういう流れで行きついたのか。およそ競馬とはかけ離れたトークにもなっておりましたね。
レモンポップ、引退と総括についてはタイミングを改めてまとめようと思っています。ラストランは◎を打ち切れませんでしたが、やっぱり思い入れは強い馬ですので。ゆっくり映像を振り返りながら言葉をまとめておきたいですね。お疲れさまでした。