ワールドプレミアが好位から押し切りました。さすが武豊でございます。
出していきましたねー。前々で立ち回るイメージでデムーロと藤岡佑介が促していくのに並行して、軽く外に膨れながら最初のコーナーで先行するユニコーンライオンの直後に収まりました。
成長途上のワールドプレミアをどう導くのか。継続騎乗の経験がベストな選択を生んだものと受け取っています。しかし、随所にレジェンドの技巧が見られましたね。
公式レースラップ
12.9-12.4-12.3-12.6-12.2-12.2-12.7-12.7-12.5-12.8-12.5-12.0-12.0-11.8-12.4
昨年、フィエールマンが勝った時のレースラップも合わせて。
12.8-11.9-12.5-12.9-12.6-12.4-13.3-13.0-12.8-12.7-12.8-12.2-12.2-10.7-11.3
レースラップから垣間見える馬場コンディション
昨年の走破タイムは3:06.1、今年は3:06.0。コンマ1秒の差だけなのですが、道中のラップ構成には違いがありますね。昨年と比べると「道中に13秒台がないこと」「上がりで11秒前半以上のラップがないこと」が今年の特徴といえるでしょう。
平均的に流れた、緩みの少ないレースラップ。引っ張ったのはデムーロと藤岡佑介ですが、どちらも切れ味勝負では分が悪いという判断があったものと思います。さらに、土曜の日中に降雨のあった馬場コンディション。菊花賞直前で良に回復するスピードはさすがの暗渠管と思いつつ、高い加速力、高いトップスピードを活かせるコンディションでなかったことも確かでしょう。
こうした要因が重なって、緩みが少ないレースラップが生み出されたものと推察します。
武豊が好位を取りに行く判断にすると予測
ワールドプレミアの2戦目、つばき賞。最内枠からのスタート、すぐに寄せてきたユニコーンライオン(一緒に走っていましたね)に対し、促して前に入れさせない戦略を取っていました。結局3コーナーの通過順は3番手。
少頭数の3歳500万下ですからペースやポジションの意味も異なるのでしょうが、出遅れなくスタートし、早めにポジションを主張できるワールドプレミア。G1直前に映像を見直すことができてよかったと思っています。後方待機だけでない選択肢が武豊にあるかもしれない、と気づけたのは予想の上では大きかったですね。
菊花賞当日の午後の芝レース、武豊はブラヴァスとアイラブテーラーで直線外へ。馬場のよいギリギリ外、このコース選択を試しているように見えていました。
ワールドプレミアの末脚の切れと持続力。改善してきたとはいえ3、4コーナーで置かれがちな癖。降雨の影響が残る=速いラップが見込めない切れにくい馬場。逃げ馬が明確にいないメンバー構成。このあたりを加味して、控えて差す戦略を選択肢から外したのでしょう。また、好位を取ることで、その直後に寄せてくるであろうヴェロックス川田を内に入れさせない流れを作りやすくなります。
ヴェロックスの仕上がりにパドック映像を観ながら唸るばかりだったのですが、これらの条件を踏まえ、川田の気概と武豊の老獪を秤にかけて、ワールドプレミア本命を決めました。よかった。
武豊の4コーナーの捌きが絶妙
ユニコーンライオンが2周目の登坂で手応えが怪しくなり、武豊は直後のポジションを捨ててひとつ外へ展開します。そこでヒシゲッコウとのせめぎ合いが生じるのですが、ここで引くことなく進路をキープ。前にいたヴェロックスが外に動いたことで前方がクリアに。ヒシゲッコウを外に受けつつ、ギアを上げながら4コーナーを回っていきます。この段階では意識も馬の向きも外へ向けているんですよね。
直線の少し手前、今度は空いていたインへハンドルを切りました。これが絶妙でしたねー。勝負どころですから共に加速していたヒシゲッコウは遠心力のついたまま外へ。これはスミヨンにも切り返せないでしょう。
逃げるカウディーリョとヴァンケドミンゴの間、進路の選択肢は複数確保できていたでしょうね。結果、インをきっちり回ったカウディーリョのひとつ外に進路を確保して、直線めいっぱい末脚を発揮するお膳立ては整いました。すばらしいリードというほかないですね。
昭和、平成、令和の菊花賞を制覇
武豊の菊花賞はこれで5勝となりました。順にスーパークリーク、ダンスインザダーク、エアシャカール、ディープインパクト、そしてワールドプレミア。
スーパークリーク以外はリアルタイムで観ていますね。これだけでもベテランファンなのに、最年少制覇記録と最年長制覇記録を同じジョッキーが達成したのはもう凄いの一言。大怪我のあとの馬回りがよければ、きっともっと勝っていたのでしょうね。
令和にはいってから重賞を勝っていないことは認識していましたが、ここで決めるとは。これで元号を3つ跨いでのG1勝ちも成りました。ラグビーがなければ月曜の一面は確実だったかな。あ、日本シリーズもありますね。
Racing Postのツイッターアカウントが「Yutaka Take rewrites history books yet again with Kikuka Sho victory」と呟いていましたので、それでよしとしましょうか。
ワールドプレミア今後の可能性
パドックでは前走以上に気持ちがはいった姿。入れ込むという表現でよいのでしょうが、早く走らせろというメッセージに見えていました。返し馬のあとは比較的落ち着いていたようですので、おそらくファイティングポーズだったのでしょう。気持ちの面でもまだ成熟には時間を要するものと思っています。
脚質も後方待機だけではなくなっていくのではないかと。あとは他馬との兼ね合いでまたひとつG1を積み増していけるようにイメージしています。鞍上はそうそう変わらないでしょうからね。今年、この後のローテーションから期待して待ちたいと思います。おそらくジャパンカップではないんじゃないかと。
あ、京都で先行して押し切る姿は、全兄ワールドエースと重なるでしょうか。同じ京都のマイラーズカップは速いラップを溜めずに押し切る内容でした。馬場コンディションは異なっていますが、弟も近しい特徴を発揮したように思っています。
サトノルークスは外々を回りながらの2着
相変わらずパドックでは歩幅が狭めで見栄えがいまいち、でも返し馬で走らせるとしっかり動けている。これまでの印象そのままで、より仕上がったという見立てでした。どうしてもこの枠だとインには入れられませんね。ずっと外々を回りながら、直線も外から末を伸ばしました。
3コーナー過ぎでタガノディアマンテが仕掛けたことがプラスに働いたように見えています。パスされないようホウオウサーベルがタガノディアマンテといっしょに上がっていったことで、直線までの距離ロスを抑えたコース取りが可能になりました。3、4コーナーで外を回されていたら着順は下がっていたでしょうね。このあたりが福永の経験値、細かな判断の積み重ねで掴んだ2着と思っています。
ヴェロックスは勝負をかけての3着
勝てませんでしたね。レース後の川田のコメント、3000が長かったと思わざるを得ないというのは、正直戦前から見通していたことと思います。そのうえで先行ポジションを取り、4角先頭という勢いで外へ展開する積極策はさすがのリーディングジョッキー。でも、緩んだ馬場と緩まないペースが最後に堪えたと見えました。
それでも粘っての3着は地力の証でしょう。ジャスタウェイ産駒の可能性を見極めるのはもう少し時間を要すると思うことにいたします。…ヴェロックスという個体に関しては、もう少しボリューミーな馬体で中距離を押し切るほうが向いているのでしょうね。
▲ユニコーンライオンは3000が長かった模様
最初のコーナーまでに3番手のインを取り切る姿は、まさにイメージ通りでした。そのままの手応えで直線を向けばとんでもない馬券を取れていたかもしれませんが、3コーナーで早々に脚があがる厳しい展開。
レース結果のコーナー通過順が示す通り、ヴェロックス以外の先行馬は壊滅状態ですからね。ユニコーンライオンとメイショウテンゲンに至っては4コーナーで2桁まで通過順を落としていますから、相当に厳しいペースを刻んでいたと言えそうです。
神戸新聞杯のパフォーマンスと、折り合いに不安がないこと、そして内枠の岩田。買いの条件が揃っていたんですけどね。筋肉質な馬体は長距離に向かなかったかな。それ以上に馬場とペースが堪えたというべきでしょうか。うまく仕切り直してほしいところです。
最後に
菊花賞は府中で観戦し、その後競馬博物館へ寄りました。「皇室と競馬」展を趣深く眺めていると、20歳そこそこと思しきカップルが。おそらくは彼氏が競馬好きで彼女を連れてきた、という流れかなとさらっとプロファイルなどしていると、彼女がひと言、「キタサンブラックって聞いたことある」。…いやー有難いですね。競馬博物館にビギナーの方が普通に立ち寄っているというのはちょっと新鮮でした。
先ほどラグビー日本代表の戦いが終わりましたが、今回のワールドカップでラグビーに初めて触れたいわゆる「にわかファン」が多くいたわけですよね。興味のなかった層が競馬場に来る機会を得ているというのは、競馬が長く続いていくためには大事なファクターと思っています。Numberの表紙もラグビーに持っていかれてましたからね。競馬も捨てたものではないと、ちょっとだけ思った次第です。
いずれあの彼女も、今日目にしたワールドプレミアの4角イン切り返し、キタサンブラックの天皇賞秋とよく似ていることに気づいてくれることでしょうね。無理かなw