more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第82回 菊花賞

タイトルホルダー、見事な逃げ切りでした。独壇場でしたね。

スタートから先頭に立つという明確な意思表示。これから3000m走るところ、2ハロン目が11.1。過去3年(勝ち馬はフィエールマン、ワールドプレミア、コントレイル)のレースラップで11.9、12.4、11.9ですから、菊花賞での先行馬は序盤もっとゆっくり入っているんですよね。過去に11.1を計時した菊花賞は2015年キタサンブラック、それ以前ですと2003年ザッツザプレンティまで遡ることになります。どちらも自身が計時したラップではないですよね。

スタートダッシュでワールドリバイバルを抑え、横山和生モンテディオのけん制を振り切っての単騎先頭。ここからは一人旅になりました。先行策を取った馬はディヴァインラヴを除いて大敗し、序盤に待機策を取った「第2集団」の中から実績馬2頭が2、4着へ差してくる展開。おそらくは「第2集団」の先頭にいたディープモンスター武豊が5着ですから、あの位置が3000mを走り切るのに妥当なペースだったのでしょう。

それを1頭だけ先手を取って押し切ったわけですから、排気量の差が歴然だったというべきなのでしょうね。鞍下の特徴を押さえた妥当な戦略とはいえ、実行に移せることとは別。皐月賞然り、ダービーの1コーナーまでもそうですね、横山武史の思い切りのよさ、判断のよさが目立ったG1戴冠と思っています。

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2021年菊花賞、レース序盤にモンテディオからけん制されるタイトルホルダー

公式レースラップ

12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

対比すべきは1999年のセイウンスカイでしょうね。京都と阪神の違いはもちろん。

13.3-11.5-11.7-11.7-11.4-12.1-13.1-13.5-12.7-12.9-12.3-11.9-11.6-11.5-12.0

それぞれ、1000mずつの3分割にしてみると相似形であることがよくわかります。

2021年タイトルホルダー
60.0-65.4-59.2

1998年セイウンスカイ
59.6-64.3-59.3

3分割したら似ているだろうなとレース直後に思っていたら、netkeibaの中の人も同じ考えでしたね。世代が近いかしら。

 

横山武史の「急→緩→急」

オールドファンからウマ娘で競馬を始めたファンまで、セイウンスカイを引き合いに出して盛り上がっているのはとてもいい感じ。親父の模倣を狙ったわけではないでしょうが、父横山典弘菊花賞は下敷きにあるのでしょう。その種の情緒はファン同士の会話に留めておくのが吉ですね。

ただし、スタートダッシュの厳しさと、2周目の1コーナーでのスローダウンはセイウンスカイよりメリハリが効いている印象。スタートダッシュが厳しくなったのは前述した通り、ワールドリバイバルモンテディオを振り切るまでに要した分。その意味では狙ってメリハリを効かせたわけではなく、必ずしも理想的な序盤のラップではなかったようにも見て取れます。

…この20年で馬のつくり方が変わったことも背景にあるのかな。急加速に耐えうる筋力の付け方、コントロールにかかる調教技術などなど。これをよく活かせる先行気質のジョッキーとの組み合わせが、最大ラップ差3.2秒を自身で作り出しつつ完勝できた要因と推察しています(mahmoudさんも指摘していますが、さすがに14.3まで歩いてはいないだろうと思っていますけどね)。

グッとラップを落とした残り1600mからのラップは、旧京都との100m程の差はあるにしても1コーナー付近。2周目の1コーナーで緩める、ここは後続のジョッキーも理解していたことでしょう。

現にセファーラジエル鮫島克駿は1周目のスタンド前で最後方から進出、1コーナーでブレーキを踏むことを狙ったタイミングと思われます(そもそも最後方だったことが相当な不利であったわけですが)。ただ、ここでも横山武史は後続を寄せ付けませんでした。

本人がインタビューで触れていましたが、武史のポイントは他馬に並ばれないことでした。マイペースで落ち着かせるため、他馬に影響されないポジションまで加速しての単騎逃げ。その後残り1600から直線ラスト1ハロンまで一貫して加速ラップであったことを考えると、フィジカルの強さをストロングポイントとして押し出した戦略とも言えそうです。

このあたりもセイウンスカイの、スペシャルウィークとの実力差を補うための技巧に寄った「急→緩→急」とは異なっていたように感じますね。

セイウンスカイがつくりだした「虚」

「馬も場所も違うしね。父親としては良かった、おめでとう」とは横山典弘のコメント。短いながらも名手の矜持が覗くコメントです。

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自分なりに読み取ったのは、京都と阪神の大きな違いである3、4コーナーの坂の捌き方。というか利用の仕方。旧京都の外回りは残り1200から800手前までに高低差4mの登坂、その後は残り600までの約1ハロンで3mほどを一気に下ります。阪神にはないアップダウンですね。

セイウンスカイは登坂から加速ラップを開始、下りでさらに加速しています。残り800付近の下りに差し掛かるあたりは後続に大きなリードができていました。下りはじめて後続がまだ登坂している最中、おそらく待機勢には少しの間セイウンスカイとの距離感を微妙に見失う場面があったのではないかと推察しています。

クイーンスプマンテエリザベス女王杯で、ブエナビスタの鞍上が「前が見えなかった」と話していたことを思い出しました。スミヨンが蓋をした焦れる後続の中で一番最初に動いたのがカワカミプリンセス横山典弘

ペースの遅さももちろんですが、アンジュレーションによるジョッキー心理をよくわかっているからこその追撃だったと受け取っています。当時はカワカミプリンセス本命でしたので、真っ先に動き出した鞍上の判断力に溜飲が下がるというところでした。

横山典弘が意図的につくった虚の瞬間。あくまで個人的な見立てですし、ここだけがポイントではないわけですが、フィジカル重視の武史の逃げとは異質な演出ではあったのでしょう。先のコメントは一緒にされては困るよ、というところなのかもしれません。

JRA公式チャンネル、もうひとつ画質を上げてもらいたいところですね。1999年、幻惑の菊花賞です。

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ラップ分析を通じた過去のフィードバック

いまさらということかもしれませんが。ひとつ感じたのは、コースレイアウトやアンジュレーションを考慮したラップメイクについてはすでにジョッキー間で研究がすすんでいるはずで、その良質なケーススタディとしてセイウンスカイ菊花賞はとっくにフィードバックされているであろうということ。その前提で、プラスアルファの部分でしのぎを削ることがいまのトップジョッキーに求められる資質なのでしょうね。

それを横山の息子が菊花賞で体現した、というのが情緒的でもあり必然的でもあるように思っています。

ドゥラメンテ産駒の菊花賞制覇

およそ現役時のドゥラメンテをイメージしにくい逃げ切り。どちらかというと、ぶっちぎり方は母父モティヴェーターの方かな、などと記憶を手繰ったところで映像を再確認。…やっぱりモティヴェーターっぽさの方が強い気がしますね。2005年の英ダービーです。

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ドゥラメンテは自身がケガで参戦できなかった3冠目を産駒で獲ることになりました。個人的には3冠を目指してほしかった分感慨深いものがありますが、ケガがなかったら3冠に臨んでいたかは何ともいえなかったんですよね。凱旋門賞かクラシックか、価値の優先順については当時なりに言葉にしております。

keibadecade.blog98.fc2.com

種牡馬としての評価が固まる前の早逝。限られた産駒の中からのG1制覇ですから、血がつながっていく可能性が高まったという意味ではよかったと思っています。個人的にはアヴェラーレに期待、今度は牝馬でも、ですね。

keibascore.hatenablog.com

気になった馬

オーソクレース

セントライト記念の内容は正直評価を上げるものではなかったのですが、追い切りの動きをみてだいぶ評価を改めました。大外枠からのスタートも揉まれない要因としてプラスに捉えて、相手の1頭に含める判断に。鞍上が鞍上ですからね。

レースではひとつふたつ厳しいポジションから外しての追走と映りました。翻せばタイトルホルダーの逃げを真っ向から追走できる評価を得られていなかった、とも言えそうですので、やはり本命視までは難しかったかなと。ただ、マリアライトの叔父にリアファルがいたことが切らない材料になったのは書いておこうと思います。

ディヴァインラヴ

福永の好リードの賜物と思っています。終わってみると勝ち切るには足りなかったように映りますが、序盤の好位勢(=ディープモンスター以下の第2集団より前ですね)の中では最先着ですからステイヤーの資質を示したといえそうです。このまま長距離だけを使うには少し番組が少ないでしょうか。ダイヤモンドSでお会いしたいですね。

ヴェローチェオロ

本命にしました。ゴールドシップというプッシュ材料もありますが、前走示したレース途中で押し上げる力、その息の長さがじわじわポジションを上げる戦略に活かせることを期待していました。

期待とはうらはらでしたね。スタートから位置を確保できず、アリーヴォに前にはいられてからは2周目の4コーナーまで馬群の中で囲まれっぱなしになってしまいました。外からヴィクティファルス、オーソクレースと順番に被せられ、被せた側は順番にポジションを上げていきました。力を見込まれてマークされていたわけではないですよね。。。

3、4コーナーで手応えが怪しくなったというのもオーソクレース→ディープモンスターと進路をけん制された結果。直線に向いてからは取り直してディープモンスターとクビ差の6着は何とか格好がついたというところ。自慢の息の長さは十分発揮できたとはいえないでしょう。幸も「もったいない競馬」とコメントしているのはこの一連の囲まれ方を指しているものと推察しています。

ステラヴェローチェ

待機策にならざるを得ない脚質、前走の疲れが残っているように見えた馬体。少し強調材料に乏しい1番人気という印象でした。皐月賞馬もダービー馬も不在でしたから、神戸新聞杯勝ちが光るのは納得するところではありますけどね。少しスイートスポットが小さいタイプかもしれません。

でも終わってみたら皐月賞2着とホープフルS2着でワンツー、朝日杯2着のステラヴェローチェが4着ですから、これまでの実績馬が順当に上位に来たとも言えそうです。

最後に

すでに天皇賞の枠順がでておりますね。菊花賞のまとめをさくっと終わらせたいなぁと思いながら、なかなかまとまって集中する時間が取れませんでした。賞与評価などする立場でもありますので、さすがにそれを置いておいてというわけにはいかず。ちょこちょこ書きながら週末になってしまいました。

週中に発生した台風は本島には接近しない模様。日曜に弱雨の予報ですが、馬場コンディションを逐次追いかける必要はなさそうです。

事実上の3強。前の週からコントレイルを上位に取ろうと思ってきましたが、内枠を引きますねぇ。並び的に2、3番がスタートの目立つ馬ではありませんので、自身がしっかりスタートを切れれば難なく好位を取ることが出来そうです。ざっくりですが、ピクシーナイトのイメージでよいのかなと。

週明けのフォトパドック。グランアレグリアがちょっとふっくらした印象だったんですよね。水曜に追い切りを消化した後、金曜にも坂路2本、うち1本は55秒台ですから、少し余裕あり?負荷をかけたかったように勘ぐっております。であれば、ひとまわりパンプアップしたエフフォーリアに期待するのもアリかな。

でも序盤をニュートラルに進められるのはグランアレグリアのような気がしています。福永と武史はしっかり出して包まれにくいポジションをねらうでしょうし、先行策を取りたい馬が外枠からインへ寄せてくるでしょうから、ひとつ後ろに外したポジションを楽にとれるのはルメールかなと。

序盤のポジショニングのポイントはポタジェとトーセンスーリヤがどれくらい前を狙うのか、だと見ています。

お腹の調子が少し不安定なのもあり家族のお祝いもあり。指定席の抽選は見送って、久しぶりに両親といっしょに天皇賞を観ることになりそうです。父親はいわゆる本命党。菊花賞馬連6点で仕留めていましたが、3強のどれからいきますかね。