more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

Breeders' Cup 2021

ラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌ、2頭の牝馬アメリカ競馬の最高峰を制しました。

こんな記念写真を見ることはできるとは。ほんとにビッグサプライズですね。

 

さて、歴史的快挙に水を差すようで大変申し訳ないのですが、戦前の盛り上がりは正直そこまで高くはなかったという認識でおります。マスメディアの注目度や期待度は、凱旋門賞ブリーダーズカップなのでしょう。一般のニュースで遠征が取り上げられたわけでもなく、地上波で中継があったわけでもなく。ディープインパクトオルフェーヴルのような狂騒とはだいぶ異なる静かな報道だったと思っています。個人的には、全然わるくないのですけどね。

何と言いますか、自分も2頭がなかよしといった情報に触れてあー頑張ってほしいな、というくらいの力の入り具合。

 

この2頭の表情と提示された大きな結果とのギャップにまだピンと来ていないのが正直なところです。

しかし、ディープインパクトの仔とオルフェーヴルの仔が同日にブリーダーズカップを勝利するとは。日本の血統も諸々の技術も、条件が合えば他国のトップと十分伍して行けるところまで来ているんですね。

優駿牝馬ブリーダーズカップ・フィリーアンドメアターフが、ブリーダーズゴールドカップブリーダーズカップ・ディスタフがつながったんだよなぁ、と言葉にすると、なんだかまだ実感が湧きませんけどね。

デルマー開催というアドバンテージ?

矢作師は西海岸のデルマー開催であること、競馬場のコース形態や芝コースの硬さ、輸送の条件などが日本馬へ向くものと睨んで、遠征を決断したようです。以前出版した自身の本でも西海岸なら、という言及があったようですね。

デルマー競馬場のコース形態、詳しく取り上げている投稿がありました。日本の中央競馬とは芝とダートが逆、内側になる芝コースの方がコーナーはきつくなります。この投稿では地方競馬、それも佐賀や浦和と同等という分析です。いやいや、きついですって。

annex.931women.com

JBCで例えると、名古屋や金沢での開催というイメージが近いように思いました。では勝った2頭に向いたコース形態かというと。。。アドバンテージがあったとは正直言いにくいように思います。ただ、ディスタフで超ハイペースから先行馬総崩れになったのは、この慣れない小回りという要因も関連していそうですね。

Maker's Mark Breeders' Cup Filliy & Mare Turf はラヴズオンリーユー

24.26-23:57-25:23-25:14-24:26-11:41
Final Time: 2:13.87

Breeders' Cup の公式YouTubeアカウントは解像度高めのレース映像を改めてアップしていました。

www.youtube.com

デルマーの公式YouTubeアカウントでレースから勝利後の表彰式までを観ることができます。

www.youtube.com

厳しいマークと川田のコース選択

スタートから最終コーナーまで、ラブのライアン・ムーアとラヴズオンリーユー川田の鍔迫り合いが続きましたね。

スタートはライアンがインから主張し、川田は外々を回る流れ。1週目の4コーナーでいったんライアンをパスして前にでますが、スタンド前の直線で今度はインへ被せにかかるライアン。1コーナーでは接触しラブが少し外に振られる姿が確認できます。ラブにとってはロスが大きかったでしょうが、この1、2コーナーでラヴズオンリーユーは先行馬群のポケットに入る形になりました。

向こう正面からは最後方にいた2番人気ウォーライクゴッデスが捲る形で進出、これに反応したラブともどもラヴズオンリーユーの外への進路を塞ぎました。外から蓋をされた、という表現がぴったりと思います。

ラヴズオンリーユーは残り100mまで進路が確保できない厳しいポジションに置かれていました。川田の「前半はよかったが後半が」という主旨のコメントはこのポケットに押し込まれた展開を差しているものと思います。ただ、川田のファインプレーはここで慌てずに対処したことでしょう。

4コーナーでインへ切り込まずラブの後ろを選択し、できるだけスピードを落とさずに直線に向いたこと。その後、ひとつ外のウォーライクゴッデスの後ろへ動き、マイシスターナットとの間を割るタイミングを狙っていたこと。ここしかないというポジションから、ラヴズオンリーユーの瞬発力を引き出しました。切れ味に頼ったとも、信じていたとも言えそうです。

小回りコースですから、インの先行馬がバテてくることを想定していたのでしょう。3コーナー以降はインの馬を交わしていくという一貫したコース取りが見えました。

デルマーと佐賀のコーナーの相関に触れましたが、川田は佐賀競馬育ち。しみついた感覚が大一番で活きた、とはきれいにまとめ過ぎかもしれませんね。

川田将雅は海外G1初制覇

本当に意外です。でもよく考えてみたら未勝利だったんですよね。確かに強いお手馬で海外遠征というのはハープスターくらいでしょうか。ジェンティルドンナ、モーリス、ラブリーデイなど、乗り替わりでG1を制するイメージ。近々でG1を複数勝ったお手馬はファインニードルとクリソベリルかな。

海外遠征が決まって、乗り替わりで日本人ジョッキーという確率はどうしても下がりますから、乗り替わりで実績を積んでいる傾向だと海外遠征の機会自体が少なくなりやすいのかもしれません。

どちらかというとブラストワンピースやサトノダイヤモンド、ダノンキングリーのように再生請負人という印象のほうが強く。リーディング2位、その他の馬でも実績を重ねていることで、あまりパブリックイメージになっていないものと思っています。ラヴズオンリーユーの当初の乗り替わりも、そのニュアンスが強かった認識です。

本人が特別視していた凱旋門賞ブリーダーズカップ。これまでの丁寧な仕事の延長線上でそのひとつを掴むことになりました。初の海外G1勝ち、そして日本人ジョッキー初のブリーダーズカップ制覇。マチカネオーラあたりから注目していましたから、こちらも感慨深いものがあります。

https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211107-OYT1I50049-1.jpg

川田のガッツポーズ?

ゴール直後、小さくガッツポーズをしていたように見えているのは、流れかな。ラスト数完歩は左に手綱をまとめて右鞭で叱咤する意図だったのでしょうが、クルッと回して逆鞭に持ち替えるタイミングはなかったのだと思っています。もうゴールまで距離がないですものね。

順手のまま見せ鞭を1、2度、あとはカラダの伸縮に合わせてリズムをとるように右腕を大きく振る形になったのではないかなと。馬の推進に対して力が逃げない、腕の振り方になっていたと理解しています。結果、ゴールした瞬間に拳が上がった状態になり、それがガッツポーズに見えなくもないという。

普段の1着入線後の川田は、ゴーグルや砂よけのダート板を引き下ろしてから、乗り馬の首筋を「スー、ポンポン」ですからね。思わず感情が溢れたガッツポーズを期待したい気持ちはわかりますが。でも優勝レイの花びらを撒いたシーンは印象的でしたし、矢作師と抱き合ったときはこちらももらいましたよ。

※補足:netkeibaのコラムで答え合わせができました。ガッツポーズではなかったようですね。

news.netkeiba.com

ディープインパクト産駒、ブリーダーズカップも米G1も初制覇

時間の問題と言えばそうかもしれませんが、これでアメリカG1初制覇。調べた限り、イギリス、フランス、アイルランド、オーストラリア、ドバイ、香港に続く7か国目となりました。

ただ、ディープインパクト産駒に限らず、日本調教馬のブリーダーズカップへのチャレンジ自体が思った以上に少なめでした。フィリー&メアターフはラヴズオンリーユーで4頭目。スプリントは森厩舎しかトライしておらず3頭(アグネスワールド、マテラスカイ、ジャスパープリンス)。ターフはトレイルブレイザー、マイルは今年のヴァンドギャルド、そしてディスタフはマルシュロレーヌとそれぞれ1頭のみ。

持ち回り開催で遠征のノウハウが蓄積しにくいという側面もあるのでしょう。デルマーでの日本馬勝利はヌーヴォレコルトが最初、だと思われますので、ドバイ遠征とは段違いにハードルが高いものと推察します。日本馬のチャレンジというより、矢作師のチャレンジというべきなのかもしれません。

アメリカの馬産界隈で注目を受ける初めての大きな結果なのでしょう。母父ストームキャットも含めて、これでディープインパクトアメリカでも注目されるきっかけになるなら。

2019年牝馬クラシックホースの活躍

桜花賞馬 グランアレグリア
オークス馬 ラヴズオンリーユー
秋華賞馬 クロノジェネシス

3頭とも、凄い戦歴になりましたね。ただ感嘆したくて箇条書きにしてみました。次走は順に、マイルチャンピオンシップ香港カップ有馬記念、ですね。

Longines Breeders' Cup Distaff はマルシュロレーヌ

21.84-23:13-24:73-25:58-12:39
Final Time: 1:47.67

こちらはNBC Sportsのほうがクリアに観ることができますね。

www.youtube.com

こちらはTwitter経由で中継を観ていましたが、ちょっと鳥肌ものでした。Gallopの表紙では「マルシュロレーヌ続いた」とフォントサイズを少し下げての表現でしたが、いやいや、こちらの方が歴史的意義は大きいと思います。完全アウェイを覆したわけですからね。

あちこちの記事が取り上げている通り、アメリカ馬以外ですとカナダが一度制したのみ、北米以外の地域から勝ち馬が出たことがないのがブリーダーズカップ・ディスタフの歴史。グリーンチャンネルの中継で「トップ中のトップ中のトップ」と合田さんが勢いよく表現されていましたが、日米のダート戦の異質さを乗り越えて一気に頂点を取ってしまった、史上に残るアップセットだったわけです。

スマホの映像をみながら、直線で粘り込む姿に「マジか、マジか」と呪文のような繰り返し。日曜の朝から、家人は心配したでしょうね。

負かしたメンバーがどうかしている

netkeibaさんが端的に触れておりますね。

 

もう少し詳しく書いておきます。1番人気レトルスカ。今春アップルブラッサムHで昨年のディスタフ覇者モノモイガールと昨年のプリークネスS勝ち馬スイススカイダイヴァーに土をつけてのG1制覇、その後はG1連勝を含む5連勝でディスタフを迎えました。

そのレトルスカをG2アゼリSで破っているのが昨年のケンタッキーオークス馬シーデアズザデビル。シーデアズザデビルはそのケンタッキーオークスでスイススカイダイヴァーを2着に退けています。スイススカイダイヴァーは後のBCクラシック馬オーセンティックを退けてのプリークネスS勝ち。

昨年のBCディスタフ、1番人気がモノモイガール、2番人気がスイススカイダイヴァー。2頭とも今年のディスタフには参加なりませんでしたが、昨年の実績馬と入れ替わる形で新たな実力馬が有力視されていた、という認識でおります。

さらに昨年の2着馬ダンバーロード、そして3歳世代からはデビューから5連勝でケンタッキーオークスを勝ったマラサート。まさにアメリ牝馬ダート路線の一線級が揃ったというわけですね。

一方のマルシュロレーヌの重賞勝ちは、レディスプレリュードTCK女王盃エンプレス杯ブリーダーズゴールドカップ。先のツイート通り、すべて日本のローカルグレードですから、国際格付け的には重賞未勝利。リステッドすら未勝利という、謎の戦歴に見えるでしょう。どうしていきなりBCディスタフにエントリーしたんだ的な。

3、4、5歳の牝馬G1勝ち馬が一堂に会したエリザベス女王杯で、アメリカの芝ローカル重賞を勝っただけの遠征馬がまとめて差し切り勝ちを決めたら。なかなかに事件、ですよね。

超ハイペースを後方追走

現地実況は声を張り上げて、400mごとのスプリットタイムを伝えていました。「Forty Four!!」が一番トーンが高いかな。有力馬が前のめる超前傾ラップ。前半800mが44.97。速過ぎますね。デルマーの小回りに対して有力各馬の先行への意識が強く出過ぎたものと思っています。

オイシン・マーフィーは有力馬が序盤のペースを引っ張ることを見越して、スタートから無理にスピードを求めず後方待機を選択しました。この読みがぴったり嵌りましたね。

ただ、3コーナーから持ったまま上がっていって直線を待たずに先頭に立ったあたりは、マルシュロレーヌの地力の証であったと思います。あの馬なりでレトルスカを交わすあたりは鳥肌ものでしたね。

オイシン・マーフィーの無欲さ

少し動き出しが早かったか、などと思いながら中継を見守っていたわけですが、2着ダンバーロードとの着差を考えるとあの判断が賢明でした。

インタビューを聞く限り、オイシンはあまり勝ちを意識していなかったように見えています。ハイペースを外した待機策でどれだけ上位に来れるか、という戦略を取った結果、見事に嵌ったというのが程よい見立てではと思っています。

マルシュロレーヌ、これまでは川田のお手馬ですからデルマーにいるのに乗り替わりとは、という思いは湧きますよね。

ただ、この一戦だけでみると、乗り替わり初騎乗のオイシンでよかったかもしれません。あの1コーナーまでの割り切った後方待機は、よくわかっていないジョッキーがシンプルに認識しないと出来ないそれだったでしょう。騎乗依頼はオーナーからだったようですが、矢作師がアグレッシブさを選びやすい川田の気概をあらかじめ考慮していたのなら、見事な采配だったのではないかと思っています。こちら側の勝手な推察ですけどね。

マルシュロレーヌの血統に注目

BLOODHORSEによるマルシュロレーヌの血統分析記事です。

https://www.bloodhorse.com/horse-racing/articles/254766/marche-lorraines-japanese-lineage-shines-through-in-bc?utm_source=BHTW&utm_medium=social

かなり詳細ですね。ステイゴールドオルフェーヴルであれば海外実績の分まだ語られやすいかもしれませんが、ノーザンテーストオグリキャップクインナルビーといったドメスティックな名前がアメリカメディアに語られているのは不思議な感覚です。BCディスタフを制した原動力に関心が向けられた結果なのでしょう。

日本のダート競馬への注目

一度のアップセットで一気に評価されるとは想像しにくいですが、これまで日本のダート競馬には国外から注目されるきっかけが少なかったでしょうから、これがひとつの契機になるかもしれません。

クロフネドバイワールドカップに乗り込んでいたら日本のダートには違う未来が、などとオールドファンは考えてしまいますけどね。

サンデーサイレンスの帰還

ラヴズオンリーユー、マルシュロレーヌとも父系にサンデーサイレンスアメリカを離れた1989年BCクラシックの勝ち馬が孫、ひ孫の代でBCの舞台に戻ってきました。競馬主要国の歴史を見ても、輸出されたチャンピオンの血統が世代を経て母国に戻ってくるケースはどれだけあるのでしょう。

世界の血統のトレンドが少しずつ近接してきていくでしょうから、今後こうした「帰還」が増える可能性はあるように思います。後年アルゼンチンからアグネスゴールドの血統が戻ってくるかもしれませんしね。

Daily Racing Form でサンデーサイレンスに注目した記事が上がっていますね。"The two mares are by a pair of Japanese Triple Crown winners in Deep Impact and Orfevre, respectively." の一文が誇らしいです。

www.drf.com

最後に

レース前日は茨城にいる妹夫婦のところに久しぶりに訪問。密を避けながら久しぶりにゆっくり話す時間をもつことができました。帰りは日付が変わってしまい、常磐道のパーキングエリアで仮眠。自宅に戻ったあたりでラヴズオンリーユーの吉報に触れることになりました。

そのままターフが終わるまで観戦と情報収集を続けていましたから、かなりの夜更かしさんでしたね。日曜は一日疲労感が取れませんでしたが、それだけの価値はありましたとも。

さて、もう次の週末。指定席が取れましたので土曜の武蔵野Sに参戦予定です。