more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

キズナとエピファネイア、『優駿』のダービー回顧記事から

月末かつ週末、平日の業務を終えてようやく『優駿』を熟読する時間がもてました。

 

どうしても平日の業務は必要なミッションに自分を合わせていくスタイルになっていますので(多分に自分の性格からですね)、自分の内発的な「するぞ」という気持ちに素直になれるのはタイミングが限られてしまいます。

仕事へのプラスアルファを求めて組織マネジメントの学びを得ているところでもあり、最近見た中では「フィードバック(気づきを与えて現状改善)」「ファシリテーション(問いかけて別の視点をもつ)」「ストーリーテリング(自分語りでチームに動機付け)」といった要素分解とそのバランスが大事という見解が腹落ちしているのですが、それを自分が実行するには内発的な動機というより理解した必要性へ自分を寄せていくようなこころの整え方になるんですよね。

近々のアスリートはスポーツ科学を通じて得た効率的なカラダの動かし方を高いレベルで丁寧に実践していくことで高パフォーマンスを得ていくわけで、組織のマネージャーにもそうしたより高難度の立ち回りが常時求められてきていると実感している次第です。…現代のミドルマネジメントはつらい立場にあるとも聞きますし。ね。

 

ダノンデサイル陣営への丁寧なインタビュー記事が並んでいまして、かなり充実した読後感になっています。やはり、ダービーの大舞台ではまったくの偶然に満ちた勝利というのはないのだなと改めて感じた次第です。

点ではなく線をつくって1頭の素質をゴールまで運んでいくその現場にはなすべきマネジメントの存在があるようですね。そうした内容も優駿の取材記事からは読み取りました。

 

安田翔伍師の6週間の煩悶

皐月賞を使えなかったことでダービーまでの仕上げには相当な難しさがあった、とは各メディアで語られていますが、その具体的な内実を読むことができました。

調教の負荷を上げた瞬間、疲労と回復のバランス以上に「エピファネイア」の気性にスイッチがはいってしまったようで。はい、親父の狂ったような前進気勢は本命にしたダービーで目の当たりにしていますからね。それをなだめて緩和しながらも調教の負荷は緩められない。…難しいマネジメントに直面したことが窺えます。

 

ダノンデサイルの完成はもっと先にみていることも煩悶を深めた一因でしょう。エピファネイア分析を様々に読む中で、旺盛な前進気勢が早熟(=比較的早く使える)という評価につながっているが実は馬体の完成は晩成傾向にあるのでは、という見解を目にしていまして。

テンハッピーローズがパッと思い浮かびましたし、ステレンボッシュ桜花賞ぶっつけで使った国枝師の眼力はお見事だったかもとも思いますし、皐月賞で結果をだしたエフフォーリアは結果論ですがひとつふたつ早く仕上げてしまったのかなとも。

 

1週前追い切り後の「正直よくない」というノリさんのコメントはそうした煩悶の先に負荷をかける判断をした結果の産物だったのでしょうね。レース当日、不安のない100%の出来で送り出したわけではないということ、勝利後も師のテンションが上がり切らなかった理由もこれなのかと納得をいたしました。

 

わるい出来ではないけど枠順と先行馬の少なさと鞍上とでこわいな、というのがダノンデサイルの当日の見立てでしたので、ある意味その見立ての答え合わせにもなりましたね。

 

社台ファームの現場改善

これは優駿の記事の一部を引用しようと思います。筆者の見解ではありますが、このダービー制覇がたまたまではないことが窺える文章と思いました。

現在、社台ファームが全体に共通の目標として掲げるのは「丈夫で健康、かつ調教では操作性の高い馬を作って美浦栗東に渡す」なのだという。

その操作性の高さで良いポジションを取ってレースの主導権を握る。前を射程圏に入れて進み、直線では早めに抜け出して、最後は鍛え上げた筋持久力で押し切る。ダービーでダノンデサイルが見せたそんな走りは、まさに社台ファームがここ数年、取り組んできたことの集大成のような内容だった。

 

牧場の取り組み、その詳細はぜひ本誌でお読みいただくのがよいと思います。ノーザンファームへの対抗意識などもしっかり垣間見えます。おすすめです。

 

キズナ産駒の当たり年とその背景の類推

ダービーは2着ジャスティンミラノが本命だったわけですが、今年の3歳世代はキズナ産駒の当たり年と語られる場面をよく目にしました。

現3歳世代は2021年生まれ、2020年に種付けされた世代になります。この年キズナは大きく種付け頭数を伸ばしており、一方のエピファネイアも増加トレンドにありました。


以下は2021年に生を受けたサラブレッドのお父さんを対象にしたランキング、いわゆるサイアーランキングです。

www.jbis.or.jp

 

上記リンク先はおそらくデイリーで情報が更新されていきますので順位の変動はあるものとして、2024/6/29現在の上位20頭を種付け頭数の増減と合わせて一覧してみますね。ちょっと時間を要する作業にはなりましたが、『優駿』の良記事とサイアーランキングに触発されてしまいました。

 

順位 種牡馬 2019年種付け頭数 2020年種付け頭数 19→20年の増減
1 キズナ 164 242 +78
2 エピファネイア 225 240 +15
3 スワーヴリチャード - 123 20年新種牡馬
4 マジェスティックウォリアー(USA) 141 175 +24
5 ドレフォン(USA) 204 186 -18
6 ロードカナロア 250 181 -69
7 リアルスティール 177 176 -1
8 モーリス 212 165 -47
9 ブリックスアンドモルタル(USA) - 178 20年新種牡馬
10 ニューイヤーズデイ(USA) - 158 20年新種牡馬
11 ダイワメジャー 157 112 -45
12 ドゥラメンテ 184 178 -6
13 ヘニーヒューズ(USA) 170 132 -38
14 レイデオロ - 196 20年新種牡馬
15 ホッコータルマエ 208 161 -47
16 ダノンレジェンド(USA) 126 143 +17
17 シニスターミニスター(USA) 115 119 +4
18 ハービンジャー(GB) 217 119 -98
19 モーニン(USA) - 190 20年新種牡馬
20 ルーラーシップ 227 134 -93

 

…仮説検証のつもりだったのですが、想定していなかった傾向も出たのでそちらから。

20年新種牡馬が5頭ランクイン、それぞれ100頭を超える種付け頭数を記録しています。一方でロードカナロア、モーリス、ダイワメジャーヘニーヒューズホッコータルマエハービンジャールーラーシップなど既存勢力の大幅な種付け頭数減少も並行して観察できますね。

例年の傾向を把握しているわけではないのですが、かなり種牡馬評価の入れ替わりが激しかった年なのかもしれません。

 

個人的に推測していたのはポスト・ディープインパクトでした。

ディープインパクトは2019年に亡くなっていますので、2020年はチャンピオンが「抱えていた」優良な繁殖牝馬をどの種牡馬に種付けするか、という生産者にとってこれまでと異なる判断が余儀なくされた年であったでしょう。

良質な繁殖牝馬とは?といった質については自分では的を射た議論はなかなか難しいわけですが、量的な視点、種付け頭数の伸びから推測すると、ポスト・ディープインパクトとして相対的に選ばれていたのはキズナだったように読み取れます。コントレイルの種牡馬入りはまだ先というタイミングですしね。

 

だからこそ、キズナ産駒のダービー制覇という視点では今年獲れなかったのは痛恨だったかもしれません。今年の2歳に引き続きよい産駒が現れるとよいのですが。

そしてそのキズナ産駒のダービー制覇を阻止したのがエピファネイア産駒、というのがまた何ともいえない巡り合わせと歴史の重みを感じさせます。エピファネイアもこれまでで最高の種付け頭数を記録した年ですしね。

過渡期の中で際立ったライバル関係、という見方はちょっとロマンティックが過ぎるでしょうか。

 

…ちなみに、同年に亡くなっていますのでポスト・キングカメハメハも同時に生じたのかと思っていましたが、2019年は種付け実績ゼロでしたね。すでに後継への移譲も進んでいた中で迎えた2020年だったのだろうと推測が成り立ちます。それにしてはロードカナロアルーラーシップの落ち込みが顕著ですけどね。

 

最後に

ドウデュースの敗戦に直面したくなくてG1の回顧記事を後回しにしたわけではないのですが(苦笑いするところですね)、宝塚記念帝王賞は振り返っておきたいですね。この土日でゆるゆるとまとめられればと思っています。