more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

追悼ハーツクライ

週中に残念なニュースが舞い込んできました。22歳、起立不能での死亡とのことです。

 

2000年代前半に生まれている名馬は20歳前後になる頃。同期のキングカメハメハディープインパクトも亡くなっていますし、そろそろそういう時期なのかと仕事中に思いを巡らせておりました。

平日の訃報はどうしても仕事の合間に驚くことになります。ちゃんと思い出すのが供養なのだと思いつつ仕事は待ってくれませんものね。週末に時間がとれてよかった。

 

JRAのリリースはこちら。吉田照哉さんのコメント、最初の一文に思いが溢れていると受け取りました。

ハーツクライが昨晩、力尽きました。最期の最期まで気高く、弱みを見せずに旅立ったと社台スタリオンの担当者から聞きました。

www.jra.go.jp

 

戦歴はJBIS-Searchにて。こうしてみると乗り替わりは多いのですが、きちんとジョッキーを選んでいることがわかります。期待の表れですね。

www.jbis.or.jp

 

ふるさと案内所のページも、2013年以降種牡馬リーディングの上位をキープしていることがわかります。

uma-furusato.com

 

どうやらJRAのリリースが過去2年もアーカイブされていないようで、以前のリリースへのリンクが切れてしまっていました。橋口調教師のことが浮かんだので自分が書いた投稿からダンスインザダークのリリースを辿ってみようと思ったんですよね。リンク切れか。。。過去のリリースは閲覧できるようにしてほしいところです。

 

吉田照哉さんのコメント、スポーツ報知にも全文が掲載されています。

hochi.news

こちらの記事もどこかで消えてしまうかもですよね。あとあと参照したい気持ちも含めて一部引用しながら書いていこうと思います。

 

4歳春まではバイプレイヤー

若葉S1着、京都新聞杯1着からダービー2着ですからクラシックの有力馬という評価も可能ではありますが、ダービーでは5番人気、新馬戦以降ダービーまで1番人気がないあたりに当時の注目度が表れているように思います。

3歳春、皐月賞まではブラックタイドコスモバルクが人気の中心だったんですよね。ダイワメジャーも10番人気で皐月賞を勝っていますし。キングカメハメハの評価はNHKマイルカップで一気に高まったという認識です。

ダービーでの評価もコスモバルクが人気先行していた印象ですし、ハーツクライより青葉賞を勝ったハイアーゲームの方が高かったと記憶しています。…当時の馬の名前を羅列していくだけでなつかしさが溢れますね。

4歳になって大阪杯2着(当時はG2)、宝塚記念スイープトウショウの2着。天皇賞春ではクラシック戦線で2度先着しているスズカマンボに敗戦していますから、こうして今振り返ってもバイプレイヤーのイメージが強かったのも納得の戦歴です。

 

ジャパンカップアルカセットの2着に来ていましたが、16番枠から後方インへすべり込んで、ハイペースも味方にしつつ直線インをついてのもの。

有馬記念で評価をあげるには、あのハーツクライ独特の成長曲線とそれを加味した先行策が可能であるという読みが必要になります。…後解説だとこうして語れますけどね。ディープインパクト一色のなかであの時期のハーツクライを指名するのは、ねぇ。

それも含めてのハーツのイメージなんですよね。

 

有馬記念ドバイシーマクラシックキングジョージでの評価の移り変わり

ディープインパクトを抑えた有馬記念。相手が相手だけに、その後、ハーツクライにダーティーなイメージがつくことを心配したのですが、次戦のドバイシーマクラシックの圧勝で、日本の競馬レベルがとてつもないところに進んでいることを証明してくれて、関係者、ファン、メディアの方を含めて皆さんが喜んでくれた。その姿を目の当たりにして私自身もこれ以上ないくらいに感激しました。

確かに有馬記念直後は「ディープを負かした馬」というアンチヒーロー的なニュアンスが多少あったように記憶しています。実際テレビの前でもリアクションに戸惑っていましたし。ルメールの策が当たった、ディープのコンディションがいまいちだったという、どちらかというとディープ側からの論評が多かった印象があります。

 

ドバイシーマクラシックでの逃げ切りは日本を背負っての快勝、そしてキングジョージを目指すと橋口師のコメントが報じられたあたりから、秋に凱旋門賞というディープと日本の2枚看板という位置づけにメディアやファンの語りが変化していったと記憶しています。

そしてキングジョージでの大善戦。

キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークスでもアスコット競馬場のゴール前で先頭に立ち、世界トップクラスと互角に戦ったシーンは、この業界にいるすべての方々を勇気づけたと思います。

遠征前の期待感は、前年のゼンノロブロイインターナショナルS、同年のディープの凱旋門賞、こうした日本のチャンピオンクラスの海外遠征と同等だったと思います。…ディープだけは特別な過熱がありましたけどね。

 

見出しにした3戦で一気に評価を高めた、これもまたハーツクライの強い印象として残っています。

 

喉なりの公表とラストラン

ラストランとなってしまったジャパンカップ。喉なりを公表して臨む橋口師に誠実さと潔さを感じていましたが、ご本人曰く黙っていられなかったとのこと。Gallop増刊ではディープインパクトVSハーツクライの盛り上がりに水を差したくなかった気持ちが読み取れました。

当日現地でパドックや返し馬を確認していましたが、強い印象がないんですよね。ディープばかり観ていたのかもしれませんが、ウィジャボードドリームパスポートをより上位に評価していたのは覚えていますので、個人的には調子があがっていなかったという理解に落ち着いています。残念ながらやっぱりという負け方でしたしね。

 

独特な前脚の振り方と成長曲線

もうハーツクライの代名詞ですよね。外股、ガニ股、当時からいろいろな言われ方をしていました。Gallop増刊のインタビューを読んだ限り、照哉さんも橋口師も早くからその特徴を捉えつつ、マイナスポイントとは評価せず大きく許容してきたことが伺えました。「母父トニービン」も引き合いに出されていましたね。

個人的にはコーナリングと俊敏な加速力に影響があるのかなと思っていました。中山や阪神内回りで買いづらい理由にもなっていましたね。

 

追い込み傾向になりやすいのもこの前脚が理由と思っていたのですが、どちらかというと後躯のエンジンがしっかりしていないことが、あの不器用さにつながっていたようです。

胴も脚も長め、となるとトモでつくった推進力にも大きさが必要、スムーズに上半身へ伝えていく体幹も必要。それを実現するには相応の期間の成長とトレーニングを要する、という理解に落ち着いています。それに気づくのはずっと後、産駒にも同様の晩成傾向が語られてからですね。トニービンの時点で気づいておくべきだったかしら。

 

種牡馬ハーツクライ

最近のファンはこちらのイメージのほうが強いですよね。以下はJBIS-Searchの種牡馬成績ページです。

www.jbis.or.jp

2023年3月時点で産駒G1馬はリスグラシュージャスタウェイ、スワーヴリチャード、ドウデュース、Yoshida、ヌーヴォレコルト、サリオス、シュヴァルグランワンアンドオンリー、タイムフライヤー、アドマイヤラクティ。Jpn1を制しているノットゥルノを含めて12頭ですね。

 

4歳秋に覚醒するハーツクライをきれいに体現したのはジャスタウェイでしょう。それまでの善戦マン的なイメージが一変するあたりも含めて、あの天皇賞秋は鮮やかでした。孫のダノンザキッドにも若い頃の「緩さ」は受け継がれているようですね。

 

望田潤さんの追悼文では、「緩さ」も含めて血統の傾向が端的に書かれていてわかりやすかったです。一部引用します。

トニービンってのはHyperionベース(Hyperion5×3・5)ですから基本的には後輪駆動の血で、でもGrey Sovereign系らしいトモの緩さが若いうちはついて回るので、後輪駆動なのに後駆がパンとしてくるのが古馬になってからなので晩成なんですよね

blog.goo.ne.jp

自身もドバイやアスコットへ遠征して結果を残しましたが、産駒の活躍もすごいものがあります。

ハーツクライ自身と同様にアウェイに乗り込んでもパフォーマンスが落ちるどころか、むしろ強さを見せつける産駒が多く

ハーツ自身はキングジョージ遠征で寂しがってしまったようですけどね。でもパフォーマンスを極端に落とすことはなかったといえるのでしょう。

リスグラシューコックスプレートジャスタウェイドバイデューティフリー(のちのドバイターフ)、アドマイヤラクティコーフィールドカップなどなど、鮮やかな海外G1勝ちはパッと思い出せます。シュヴァルグランのシーマクラシックもヒシイグアスの香港カップも惜しかったですものね。

そう考えるとサリオスの幻のラストラン・香港マイルは走らせてあげたかった。左前の跛行とジャッジされていましたが、それもハーツクライあっての特徴だったのかもしれません。

 

G1馬ではありませんが、個人的にはウインバリアシオン天皇賞春も印象深く。当初の鞍上岩田が前週に騎乗停止でシュタルケへ乗り替わり、そのシュタルケも前日に落馬で急遽武幸四郎へサイド乗り替わり。自分はこれをプラスととらえて最終的に本命にしたのを覚えています。フェノーメノを交わせていればなぁ。なつかしい。

 

先ほど2023年3月時点と書きましたが、まだまだG1馬が増える可能性がありますからね。現役ではヒシイグアス、ダノンベルーガ、ダノンザタイガー、ハーツコンチェルト、ハーパーあたりが期待できるかしら。2021年生まれが最終世代は今年デビューですし、もうしばらくはハーツクライ産駒を楽しむことができますから。

 

そうでした、母父ハーツクライも走っていますものね。もちろんエフフォーリアがその一番手に挙がるでしょう。独特の緩さはエピファネイアのパワーで補完した、とイメージしています。ロードカナロアとの組み合わせでケイデンスコールやトロワゼトワル、リオンディーズでインダストリアなどなど。…そうかキングカメハメハか。

先日メイショウミモザが繁殖入りしましたし、ペリファーニアが桜花賞でどんなパフォーマンスになるかも興味深いところ。ハーツの特徴は少し薄れていくのかもしれませんが、母父ハーツがどんな傾向になっていくかも引き続き興味深いです。…ハーツの3×4とか、どれくらい外股になってしまうんでしょう。

 

最後に

吉田照哉さんの言葉を引き続き。

育成期は足を振るような独特な歩様ながらも、調教走路で見せるバネの違いは明らかでした。それまでも多くのサンデーサイレンス産駒を手掛けてきましたが、跳ね方、敏捷性、推進力がケタ違いで、かなり自信を持って橋口弘次郎調教師にお渡ししました。

3代母のビューパーダンス導入からリアルタイムで目撃し続けてきた当事者ですから、この期待感からハーツの血が広がっていること、そして現在の喪失感に至るまで、外野からは想像に及ばない思いがあるものと推察しています。

ハーツクライ、心の叫びという馬名も威圧的な雰囲気と相まって、とてもしっくり来るものでした。勝ったレース、負けたレースも含めて色々な景色を見せてくれました。感謝しています。どうか安らかに眠って欲しいと思います。

でもこの一文は共感するばかりでした。立場は異なってもあのチャレンジを期待して見守ったことはファンも関係者も同じですよね。

ドバイシーマクラシックで直線押し切りにかかる姿。ちょっと物見しているように見えますけどね、でもあの存在感と馬体の膨らみはぜひ間近で見てみたかった。現役時にその成長曲線を追いかけたことは産駒の楽しみ方にもポジティブに影響しています。

 

いまであればドウデュース。アイビーSで目にとめてからこちら、思い入れの強い1頭になっています。あの回転力は古馬になってさらに完成度を増している様子、京都記念はすごかったですものね。今月末にはドバイターフで同期で同父ダノンベルーガとの対決が控えています。

 

まだまだハーツクライで楽しむことができそう、という見通しがあまり悲しい感情を喚起していない理由なのでしょう。おつかれさまでした。ゆっくり休んでください。