急性大腸炎、9歳の若さで逝ってしまいました。
JRAの発表によると、亡くなる1週間ほど前から右前肢の蹄冠部外傷を治療していたとのこと、良化を示していた矢先に腸炎の兆候が出て急に悪化、という経緯だったようです。
2つの症状の因果関係はさすがに計りかねます。細菌が腸に?といった端的な推測は素人目線でしかありませんし。亡くなった直後というのは行き場のない気持ちを向ける場所を探してしまいがちですよね。力の強さはあっても向きが定まらないという。いちファンとしては関係者の尽力に感謝しつつ残念に思うことが程よい表現なのかなと受け取りなおしているところです。
堀師の言葉
平日の業務が終わってからこちら、ゆっくりとドゥラメンテを思い出しておりました。
レースの雄姿も脳裏に浮かんでいたのですが、堀師の言葉がすっと思い出されましたね。初年度のスタリオンパレードで「未完成のまま引退した」
という発言。種牡馬ドゥラメンテを売り込む、アピールする場に適った発言であると同時に、率直な実感であるんだなとも受け取った記憶がありました。
調べてみると2017年の社台スタリオンパレード、競馬ラボのレポート記事の中に堀師のコメントが文字起こしされていました。ちょっと肝心なところで誤字があるのですが、大意は伝わります。
映像はこちら。馬市ドットコムのアカウントです。集音が少し弱く、聞き取りにくいのは確かですが、堀師がどんなトーンで話していたかがよくわかります。普段から感情の抑揚を抑えてコメントされる師ですが、こうした場でこうした言葉を選ぶことに、思い入れの強さを受け取ることができます。ユーモアを感じさせる一面もありますね。
Number Web、島田さんのダービー回顧記事のタイトルは「レコードで二冠達成のドゥラメンテ。陣営が凱旋門賞に慎重な理由とは。」。記事の最後に堀師のコメントを紹介し、慎重な理由を示していました。師曰く、「個人的には、もっとしっかり完成してからでもいいのでは、という気持ちです」。
記事中では「(管理馬が)荒々しいと言われることは、我々スタッフとしては恥ずかしいことです。きょうはそんなに荒々しくなかったと思うのですが、いかがでしょうか」という師のコメントも紹介されています。
名前の由来に引っ掛けるとより語りやすくなりますから「荒々しさ」の印象が強調されがちではありました。ラフな所作なくダービーを力でねじ伏せた直後のコメントですから、パフォーマンスにフォーカスしてほしいという思いでもあったのでしょう。
堀師の話しぶりにはリップサービスが少ないといいますか、受け手にとってのわかりやすさや印象のよさより正確に伝えることに主眼を置いている認識があります。チャットやメールのテキストを「!」で盛らないタイプというのが適当でしょうか。個人的にはそちらの語りの方が好感をもっていまして、追い切り後のインタビューなど、長いのは確かですけどね、言葉のひとつひとつを額面通り受け取ることができる信頼感をもっております。
…なんだか、この言葉を取り上げるだけでドゥラメンテの回顧としては十分な気がしてきました。
春のクラシックは1強
皐月賞の4コーナー、ひとつタイミングの早い手前替えから馬群の外まですっ飛んでいく姿。そしてデムーロの「たまらん」と言わんばかりに首を振りながらあっという間にリアルスティールを捉える瞬間。そこから春のクラシックはドゥラメンテ一色になったと理解しています。
ミルコの判断が大きいと思っていますが、スタートからポジションを取りに行くドゥラメンテは見られませんでした。皐月賞はほぼ最後方ですからね。当時はポジショニングで心配したのを覚えています。でもコントレイルも1コーナーの入りは後ろでしたしね、展開と実力次第なのかもしれません。
近年のダービーは馬場のよさと速さが相まって、前でポジショニングするのが基調となっています。そこからするとドゥラメンテのポジショニングと差し脚はかなり荒々しくセオリーを外しています。それでも圧勝したからこその1強ムードでしたものね。
3歳クラシックホースの凱旋門賞遠征についての議論
ドメスティックな3冠か、野心的な海外遠征か。今後、ドゥラメンテのような馬がでてきたら改めて議論になるのでしょう。コントレイルはコロナウィルスという世情がありましたからね。
いまも変わらず、個体によってローテーションが違ってよいということと、ドゥラメンテには菊花賞に向かってほしかったというのが個人的な希望です。
ドゥラメンテ VS キタサンブラック
宝塚記念週のGallop表紙。2頭の顔写真を並べて対決を煽る少年誌のような構図。個人的には好きだったんですよね。ドゥラメンテ不在の菊花賞、そしてその年の天皇賞春を獲って完成期に入りつつあったキタサンブラック。クラシック3冠を分け合った2頭が再び対決するグランプリでしたからね。
ただ、2頭をライバル視する文脈は当時からあまりなく。G1を制した時期がずれていますし、レース中2頭で競り合ったこともワンツーで決着したこともないですし。レース後もマリアライトが勝利したこととドゥラメンテの引退でライバルという構図は成立せず。。。
週中、ダービーの映像を見直していたとき、横にいた奥さまが「キタサンブラックはふわふわ走ってるね」とひと言。ええ、ご慧眼でございます。あの雄大なストライドを活かしたチャンピオンにはまだ十分な鍛錬が積み重なっていない頃。競走馬としてのピーク期がずれていることを端的に示唆していてお見事な指摘だったなと。
もし、この2頭が2016年後半から2017年の競馬を引っ張っていたら、すごく面白かったと思っているんですよね。キタサンブラックのジャパンカップ、個人的には日本近代競馬の結晶だと思っているレースですが、あの如何ともしがたい2400mをドゥラメンテがどうねじ伏せにいったのか。
2頭のチャンピオン、ライバルと評価されるだけの文脈が足りなかったのは改めて残念に思います。
競走馬としても未完
セントポーリア賞や中山記念など、ひとつひとつ振り返るとものすごい冗長になりますので涙を呑んで割愛いたします。
以下、ドゥラメンテの戦歴です。印象少ないですが、連対率100%ですね。
宝塚記念の録画も見ましたが、ドバイ帰りで調子を戻したところという堀師のコメントがありまして、パドックももうひと回り大きく見せられる馬体かなという印象でした。ドバイシーマクラシックは落鉄のまま走りましたし、古馬になって完成した姿を見せることはなかったという評価でよいのでしょう。
種牡馬としても未完
9歳の夭折、残した産駒は5世代ということになります。
ガーサント、ノーザンテースト、トニービン、サンデーサイレンス、キングカメハメハ。スタリオンパレードで紹介されていたように、歴代の日本リーディングサイアーが重ねられた血統。配合の難しさを語られる面もありますが、ノーザンテースト、トニービンが示す成長力がどの程度であるのか。初年度産駒がまだ3歳ですからね。その評価を固める前に亡くなってしまったことも、未完と表現すべき点でしょう。
社台スタリオンのドゥラメンテのページはこちら。2021年度は400→1000万に種付け料も上がっていました。
リンクをたどればすぐたどり着きますが、ドゥラメンテのギャラリーも。
最後に
自分の言葉で締めようと思ったのですが、冒頭で触れたスタリオンパレードでの堀師の挨拶の言葉が最もいまに適しているように思っています。
もちろんスタッドイン当初の期待感を表現しているわけですが、惜別の思いを重ねるとまた感慨深く響いてきました。
自分なりに全文起こしをしてみました。こちらで哀悼の意を表したいと思います。
堀宣行です。よろしくお願いいたします。
ドゥラメンテは私の調教師のキャリアの中でも最高に特別な馬でした。1歳の4月に初めてドゥラメンテと会ったんですけれども、その時の圧倒的なオーラで、その後の1歳の選定のハードルは一気に高くなってしまって、毎年何百頭も馬を見るんですけれども、気にいる馬がほとんどいないというような状況になって困っています。
この背中から尾根にかけてのラインは、この牝系特有のものだと思うんですけれども、力強い飛節と合わせて競走馬の理想なんじゃないかなと感じてます。まだ薄手の馬体だとか、そのー、自分がキングなんだとアピールするような立ち振舞いと合わせて、まだまだ競走馬として完成する前の引退で、この馬のパフォーマンスをしっかり出せれば、競馬史上最高の実績を上げる事が出来たんじゃないかなと感じています。
何年後かには、この社台スタリオンのキングとして君臨してくれるんじゃないかなと思っています。
また、私が、ドゥラメンテの1歳に会った時に感じたような出会いを、この馬のこどもとできればと期待しています。よろしくお願いいたします。