more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第90回 東京優駿

タスティエーラ、アップダウンの激しい展開を制しました。サトノクラウンきましたねー。

 

スタートからダミアン・レーンは前々で運ぶことを意識していたようです。かなり勢いのついたシーズンリッチに外から被せられながらの1コーナー、ここで引くことはありませんでした。1コーナーまでの攻防にウェイトが大きいのは急→緩→急のダービーならでは、でしょうね。

もし1コーナーを待たずに少し引いていたら、ノッキングポイントの外に回すような向こう正面になっていたかもしれません。それはつまりハーツコンチェルトやファントムシーフの直前ですから、先行策のアドバンテージが消えてしまうことを意味しています。

 

レーンが手綱を引いてシーズンリッチから距離をとったのは2コーナー。ここからペースを落とすことについて、ダービー馬の納得は早かったように見えています。2番手以降は離れていますし縦長の馬群でしたから、レースラップ以上に中団以降の各馬はスローダウンを強いられていたことでしょう。このペースへの順応力が試されたチャンピオン決定戦であったと思っています。

直線早めに先頭に仕掛けて抜け出すのは皐月賞と同様。内でホウオウビスケッツが粘っていたことも奏功していたでしょうが、ソールオリエンスに一気に交わされた体験をもっていないレーンへの乗り替わりはプラスに作用したかもしれません。

 

リバティアイランドより2秒以上遅い走破タイム。急→緩→急の展開にスポイルされない強さが求められたダービーでしたね。個人的にはワグネリアンのダービーに少し重なる印象があります。あえてイメージを重ねるならソールオリエンスはブラストワンピースにあたるでしょうか。

タスティエーラが僅差の勝利であることはこの世代にまだ傑出した牡馬がいないことを示しているのでしょう。そういうダービーもありますよね。

 

公式レースラップ

12.6-10.7-12.0-12.6-12.5-12.4-12.8-12.4-11.9-11.6-11.9-11.8

 

ダービーウィークは好天に恵まれる

よかったですねぇ。土日といいますか、レースの最中に降雨がないと府中の馬場はしっかりスピードを担保した良馬場になってくれます。

 

ダービーのひとつ前は伝統のむらさき賞、ローシャムパークが差し切り勝ち。現地ではレースの上がり34.0しか確認できていませんでしたが、後方から差していますからね、33秒前半から半ばが勝ち馬の上がりだろうと推測していました(実際は33.3)。

速い上がりが使えないと争覇圏内にはいられない、という観点で上位人気の評価を急に下げる必要はなさそう、というピントの合わせ方でしたね。

 

レースはアップダウンの大きい展開、残り4Fの上がり勝負に

パクスオトマニカが1コーナーまでの距離を目いっぱい使って先頭へ。パッと見、ゆったりめの印象でしたが田辺がスタートダッシュを深追いしなかっただけでしたね。ホウオウビスケッツがダッシュを利かせたことで10.8の計時につながったという理解でよいでしょう。

2コーナーでパクスオトマニカがスローダウン、ただその前からホウオウビスケッツのスローダウンは上手くいっていませんでした。丸田はかなり引っ張っていましたね。

向こう正面でもなかなか人馬の折り合いがつかず。パクスオトマニカがレースのペースを落としているのに、2番手ホウオウビスケッツはさらにスローダウンを試みることになりました。直後のメタルスピードはもちろん、後続は相当な減速を強いられましたね。

 

そして残り800mからの4ハロン上がり勝負、こうなると前で折り合った馬にアドバンテージが強くなります。問われた強さの質は、このラップに対応して前でポジショニングして立ち回る力、だったということでしょうね。

古いレースを引用しますが、個人的には1996年のフサイチコンコルドのラップを思い出しました。

 

ドゥラエレーデの落馬

…スタート直後の落馬。馬の鼻先が地面に付くくらい前脚を踏み込みそこなっていましたから、まずは人馬無事で何よりというところ。坂井瑠星も上手く落ちていましたね。

ただ、やはりこの先行争いにドゥラエレーデが加わっていたら、とは思ってしまいます。ホウオウビスケッツではなくドゥラエレーデが後続を引っ張っていた可能性はありますし、そうすると勝敗を分けるポイントは大きく変わったのではないか、と。

ソールオリエンスよりファントムシーフやスキルヴィングに少し向いた展開もイメージできてしまいます。ドゥラエレーデ自体の走りも見られませんでしたからね、残念。

 

タスティエーラ、レーンの直線のコース取り

改めてレースを見直しても、タスティエーラのレース運びはスムーズでしたね。2コーナーから向こう正面でのスローダウンもスムーズ。これまで学習してきたことが活きていますね。

かつての鞍上福永は中継番組で勝つことができなかったと話していましたが、共同通信杯で折り合いを重視したことがいまにつながっているように思っています。

 

レーンの技が見事だった(と思っています)のは、直線にはいってから。いったん1頭分ないくらい外へステップし内のシーズンリッチとの間隔をとりました。そこからその間隔を詰めるように内へ戻りながら加速。その間にシーズンリッチが下がっていきましたので、より内へ流れて粘っていたホウオウビスケッツに近づく形に。レーンはここで左鞭を使い、タスティエーラを外へ誘導します。

外へステップ→内へ加速→左鞭で外へ。端的にいうとタスティエーラはジグザグに走っているんですよね。この場合、真後ろの馬は抜きにかかるには進路を決めづらい状態に置かれます。その真後ろは図らずも皐月賞馬ソールオリエンス。

自分の真後ろが誰であっても抜かしにくくするけん制の効果はあるでしょう。コントロールの効いた中でのコース取りですから技術、というべきでしょうね。

2頭は道中近くにいましたから、真後ろが誰かレーンはわかっていたかもしれません。着差を考えれば見事なファインプレーと思います。

 

サトノクラウン産駒のダービー制覇

ドゥラメンテキタサンブラックに続いて同期サトノクラウンがG1馬を輩出しました。3頭とも好きな馬でしたから、この世代の予想は楽しくも悩ましかったのを改めて思い出しましたね。

サトノクラウン産駒といわれて納得する程度には似た馬体という印象なのですが、ダービーの走りっぷりからは高速馬場への適性は息子のほうがあるようです。

前半の加速でポジショニングできる機動力は息子の器用さが一枚上かもしれません。父が制した香港ヴァースは、後方から徐々にポジションをあげていく加速ラップ。3、4コーナーで下がってきた馬にブレーキを踏まざるを得ませんでしたが、4コーナーで進路を確保してから直線目いっぱい伸びてハイランドリールを捕まえました。

書いててめちゃめちゃなつかしい。タフにスピードを持続する力は父に軍配があがるように思います。

当時書いた記事を引っ張り出してきました。香港ヴァースのラップタイムとあわせてどうぞ。

keibadecade.blog98.fc2.com

 

ノーザンダンサー系のダービー制覇

ドゥラメンテが日本のリーディングサイアーを詰め込んだ血統に対して、父Marjuはラストタイクーントライマイベストと遡るノーザンダンサー系。日本ではノーザンテーストを最後に(1992年)、ノーザンダンサー系のリーディングサイアーは出ていません。欧米豪とは違う、日本の血統傾向の端的な特徴といえるでしょう。久しぶりに「傍系」からダービー馬が出たことになります。

 

ノーザンダンサー系のダービー馬を遡ったら、直近が2006年メイショウサムソンという驚き。メイショウサムソン以前、そしてノーザンテーストの牙城が崩れた1993年以降でみると、1996年の私的名馬フサイチコンコルドしかいないという。…そもそもノーザンテースト自体、産駒のダービー馬はダイナガリバー1頭だけですしね。

 

父系的には珍しい結果になったという発見でした。サトノクラウンの現役後半は何とか種牡馬にと願っていましたが、まさかこんな形でひとつの結実を迎えるとは。長く競馬をやるものです。

 

望田潤さんのレース回顧からほぉーという言葉を引用しておきたいと思います。

blog.goo.ne.jp

Sir Ivorといえば、キタサンブラック産駒もSir Ivorのニアリークロスが成功していて、イクイノックスはダンシングブレーヴ経由でSir Ivor≒Drone6×5・5、ソールオリエンスはGone West経由でSir Ivor≒Secrettame6×5、サトノクラウンキタサンブラックのような重厚な種牡馬に、軽さやしなやかさを補うのに有効なクロスと考えたいですね

 

キタサンブラックサトノクラウンの血統の相似性については以前触れていましたね。両馬がワンツーした天皇賞の時の記事、こちらも合わせて。

blog.goo.ne.jp

 

ソールオリエンスは折り合いと展開の綾で2着

やはり武史は先行ポジションを求めにいきましたね。本人の気質的にも予想はつきましたが、馬もしっかり応えるスタートダッシュをみせていました。

ただし2コーナーでのスローダウン、ここでソールオリエンスが納得するまでに時間がかかってしまいました。これがスタートから出していくリスクの部分ですね。

すぐ横にいるタスティエーラが早くに力みが抜けた追走をしているのとは対照的な姿。皐月賞で余力を残せたレース前半とはだいぶ異なる流れになりました。

 

直線は不運でもありますね。先に書いたレーンの動きをまともに受け止めるポジション。じっとせざるを得ない時間、ここを慌てなかったのは鞍上の力と思いつつ、長く末脚を使える本馬からすれば持ち味を出し切れない結果になってしまったように見えています。それでも勝ち馬までクビ差ですものね。

 

1週前のフォトパドックパドックでも、よく見えていたんですよね。馬体のスケール感はひとつ抜けている印象でした。それでもきっと秋にはより完成されてくるでしょう、楽しみにしたいと思っています。

 

ファントムシーフは展開にスポイルされての8着

出負け気味のスタートから、あまり負荷をかけないスタートダッシュになりました。1、2歩目だけみればタスティエーラと同じくらいですので、もともと先行争いに加わる意図はなかったのでしょう。

2周前から当週まで、武豊が3回追い切りに乗っていました。最終追い切りでは促す前に馬が加速し始めたとのコメントも。ハミを強くかけずに馬の前進気勢とフォームの伸びやかさを優先する、武豊仕様にチューニングされていることが窺えました。

 

でもこのペースでしたからね。上がり3ハロンは勝ち馬と同じ33.5。ポジションが勝因のウェイトを持つレースで、チューニングの内容と実際のレース展開がうまく嚙み合わなかったという面は敗因として大きかったと理解しているところです。

向こう正面で動く勇気が足りなかったという鞍上のコメントですが、そこだけにフォーカスしても…というのが正直な感想。そうした見解もこみこみで出しているコメントと推察していますけどね。もしこれが継続騎乗だったら、あまり躊躇せず動いていたかもしれません。

乗り馬のスタミナの底を知っているかどうかは仕掛けどころに大きく影響しますね。不要な癖がついてしまうなど、初騎乗ではどこまで懸念すればよいかも手探り感が強いでしょう。どちらかというとファントムシーフの未来を壊さない中で勝機を探った騎乗だったと思っているところです。

 

パドックで確認した馬体はフォトパドックよりよい印象。動かしてよいタイプ、という認識を深めました。成長が早かった分、今後も大きな変化はないのかな。そこがソールオリエンスとのスケール感の違いと受け取っています。秋にはよりはっきりした差がついていても不思議はないですね。

 

はい、今年の本命でした。他馬との比較や早い仕上がり、加速に間を要する特徴など様々なウィークポイントを踏まえたうえでの本命視でした。テン乗りは勝てないというジンクスも打ち破ってほしかったなぁ(まぁ、ジンクスを知らなかったレーンが打ち破ったわけですけど)。野路菊Sからこちら、見続けたイメージは叶いませんでしたね。

 

秋は菊花賞でしょうか。賞金的にもどこかでもうひとつ重賞タイトルがほしいところ。神戸新聞杯には向いている気がしていますが、どうなるでしょう。秋以降も楽しみにしています。

 

ハーツコンチェルトは向こう正面での押し上げが効いての3着

遅いと把握してからの思い切りがよかったですね。人気薄かつ長い直線に向いた走り、継続騎乗であったことが思い切りのよさを生んだと思っています。

素質馬の素質がここで見られるとは。ここ数戦は馬場や展開と噛み合わない姿が見られていましたので、その間に鞍上が特徴をつかんでいったともいえそうです。

こちらも秋が楽しみ、菊花賞の舞台にアジャストできるかはわかりませんが、今回以上の人気で迎えてもおかしくはないですね。

 

スキルヴィングは急性心不全

残念な結果になってしまいました。「競走馬は命がけでレースに挑んでいる」というのは比喩表現にとどまってほしいわけで、実際には事故なく戻ってくるのが何よりなのです。

観戦している方が多い分、反響も大きいですよね。ルメールの対応も十分に配慮が効いたものでしたし、倒れる瞬間の動画をあげてくれた方に罪はないですし。スキルヴィングだけ取り上げて悲しむこともおかしなことではないと思います。関係者の捉え方とライトなファンではギャップがあって然るべきでしょう。

 

自分の心境と完全一致というわけではないのですが、静かに事態を受け止めるには島田さんが選んだ言葉が程よいように思っています。競走中の事故というテーマ、一時の、ひとり分の感情から発される言葉では解決しないでしょうからね。

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弔意を示すことも、勝者を讃えることも、敗者の復活を祈ることも、もちろん、してはいけないことではないし、また、人に強要すべきことでもない。

 

最後に

ダービーウィークが終わると天候が崩れて、安田記念がそれなりに荒れた馬場になるというのはどこで身に付いたイメージでしょう。

ダービー→安田記念で一気に馬場が悪化するのはいつだったか、ずっと記憶を遡ってみたのですが、スペシャルウィークタイキシャトルが真っ先に思い浮かびまして、ワンアンドオンリージャスタウェイにも行き当たりました。あるにはありますね。

 

時期的には梅雨入りしていてもおかしくないタイミング。今年は関東も関西も台風の影響で、金曜から土曜朝にかけて強い風雨にさらされました。土曜のレースを見ている限り、乾くのは早いようですがそれでも降った量が量ですからね。

 

乾ききる前にレースで掘り返していますので、これが日曜の安田記念にどう影響するか。この投稿は土曜の夕方ですがまだ追い切り映像も確認していない状態。土曜のレースを観て明日の馬場のイメージが少しできてきましたので、その先入観をもとに各馬の仕上がりをみてみようと思います。