more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

有馬記念

リスグラシュー、問答無用のグランプリ連覇でした。

レース前半、インへ寄せて少しずつポジションを下げていく姿に「やっぱり鞍上が初めての中山だからな…」と残念に思っていたのですが、残念だったのは自分の見立ての方でした。4コーナーのタイト目なコーナーリングをフルに利用した外への展開、あれが決まるとは思いませんでした。

ハイペースだったことで直線馬群がばらついたことも背景にあるでしょうが、ムーニーバレーの4コーナーを捌いてきた人馬ですものね。これに重きを置くべきでした。アーモンドアイのガス欠がなかったとしても、この有馬記念リスグラシューが上回っていたように思っています。

今年の皐月賞馬、菊花賞馬を2、3着に退け、春と秋の天皇賞馬、そしてジャパンカップ馬を置き去りにしました。このメンバー相手に5馬身という着差がレーティング126という見解を導いたことでしょう。文句なしの2019年総決算、年度を代表する末脚でしたね。

公式レースラップ

6.9-11.1-11.4-11.4-11.5-12.2-12.3-12.1-11.7-12.3-13.4-12.2-12.0

アエロリットの逃げは有終の美

キセキの出遅れはあったにせよ、スタートのよかったクロコスミアと内枠を利したスティッフェリオが前々で張る3コーナー。アエロリットは加速しながら大回りを余儀なくされつつの先頭。これでだいぶ気持ちがはいってしまったことでしょう。2000mまでしか経験のないマイルG1勝ち馬にこのスタートダッシュは相当過酷だったはずです。残り400のハロン棒付近でようやくスティッフェリオが追い付きますから、残り600からの13.4はアエロリットの失速がきれいに表れたラップになりました。

これだけの加速を前半に求めたのは、やはり引退レースという情緒が大きかったのではないかと推察します。勝負がかった戦略というより、アエロリットらしさをどう表現するか、ここに力点が置かれていたと考えるほうが、この意識的なオーバーペースを説明できると考えています。菊沢師はこの馬のペースなら番手でも、という発言をしていましたが、これもまたアエロリット「らしさ」を求めたものでしょう。

それにしても、速かったですね。ここまで深追いした前半になるとは思いませんでした。

前半のラップを2003年と比較

最初の100mを除いて、前半の4ハロンが連続して11秒台前半という極めて速い有馬記念は2003年シンボリクリスエスまで遡らないと出てきません。それだけでも今年が相当に突っ込んだ前傾ラップであることがわかります。勝ち馬が9馬身差で圧勝していますので、着差のつく決着という点も今年と相似形でしょう。

2003年のラップがこちら。走破タイムは奇しくも今年と同じです。
7.0-11.2-11.2-11.2-11.6-12.3-12.9-12.6-12.2-12.7-11.7-11.7-12.2

タップダンスシチーが逃げの形をつくりましたが、ザッツザプレンティ安藤勝己アクティブバイオ武幸四郎が最初のホームストレッチで勢いよくこれを交わして、そのまま雁行した逃げを披露。見て取る限り、2頭の鞍上、どちらも引かなかったようですね。

逃げ馬を捉えに行ったのはリンカーン武豊。そのまま2着に残りますが、それよりこのラップを早仕掛けで受けるのは攻撃的。マーベラスサンデーの頃よりは達観が見えますけどね。その攻撃的な仕掛けを直後で虎視眈々としていたのがペリエでした。直線まで持ったままなのはダミアン・レーンと同じですね。

超ハイペースの消耗戦で、厳しい追走から末脚を伸ばせるというのはひとつの強さの証明でしょう。ディープインパクトの切れとは異なるタフな末脚が求められた認識です。終始インでじっとしていることは大きなアドバンテージになりますね。

佐藤哲三の分析

netkeibaのコラムは有料ですので忖度しましてかいつまんで。レーンはスタートからあまり負荷をかけずにインへの誘導ができている、との分析がありました。フィエールマン池添が前々をもとめたのとは逆張り、という戦略。

というより、宝塚記念コックスプレートも同様のニュートラルさがそこにあったと見ています。リスグラシューのストロングポイントを引き出すための序盤のリズム。佐藤哲三の指摘から、継続騎乗のメリットが大きくでたという思いが改めて強くなりました。そう考えると、G1騎乗の特例を適用させてレーン続投を実現した矢作師のマネジメントもまたお見事でしたね。

それに限らず、独特な視点が多いレース回顧でしたので、ぜひ一読を。引き合いに出した2003年有馬記念で、分析しているご本人がタップダンスシチーに乗っているという符合も個人的には面白く感じております。

news.netkeiba.com

リスグラシューに歴代最強牝馬の声

歴代最強の議論はたいがい結論がでませんし、わいわいやることに意味があると思っています。自分としては、異なる強さをもった2頭、アーモンドアイとリスグラシューが直接対決してくれた稀少さを有難く感じているところです。

もし、リスグラシューが昨年のジャパンカップにでていて、2:20.6のアーモンドアイを捉えることができたかというと、ねぇ。馬場やペースによるバイアスが強過ぎると意見は出そうですが、あらゆる条件に適応するコンディショニングが特異過ぎると考えれば、強さと脆さの一端が垣間見えただけ、とても味わい深いG1になったと受け取っています。

ただ、今年のリスグラシューは大崩れがないんですよね。金鯱賞の2着も相当に強い内容でしたし。このあたりにアーモンドアイとの差を見出すのはアリかもしれません。

大器晩成を育て切る環境

アルテミスSで本命にした時から、印に迷う長いお付き合いをしてきました。スタートで無理をさせないことで獲り切れなかったクラシックがあると理解していますが、この特徴を捉えた中での長期戦略が大きく実を結んだと思います。

言うは易し。個人馬主より相対的に早期の結果が求められるであろうクラブ法人の馬ですから、このじっくりとした馬づくりとオーナーシップのバランスがよくここまでうまく拮抗したなと。強く鍛えられる時期を見極めて待てるひとが携わり、それをオーナーシップが支える、という条件が整うのはなかなか稀有でしょう。

東京新聞杯で結果がでたことが大きかったでしょうか、そのまま2018年前半はマイル路線への拘泥が見て取れますね。安田記念でいったんその流れは途切れたように見える戦歴ですが、これもいまから振り返ればその後の布石になっていたと考えられます。

どうしてもジョッキーの乗り替わりという、動かしやすいファクターが弄りまわされてしまっている印象が拭えないのですが、それをも越えて馬体の完成に辿り着いたことが素晴らしく。これで引退という引き際も含めて、お見事でした。

アーモンドアイの主な敗因は1周勘違い

「最初のコーナー、フィエールマンを交わしたところで気持ちがはいってしまった」「ハミをかんだまま1周してしまってのガス欠」。おおよそ要約するとこういった表現になるでしょうか、これら国枝師の分析が主な敗因でよいと思っています。

個人的には、アーモンドアイが1周勘違いした、という表現の方がしっくりきています。

今年はドバイターフ安田記念天皇賞秋とワンターンの競馬しかしてきていません。そこに1周半回るレースが選択され、そして最初の4コーナー手前で前の馬を交わすように外へ誘導されたわけですからね。ドバイターフのレース後には、3、4コーナーで自分から動いていったというルメールのコメントがありました。もともと前進気勢をしっかりもった個体ですので、この誘導をゴーだと勘違いしてもおかしくはないでしょう。

トロールビデオでみると相当に力んでいる姿が見て取れます。結局息を入れる場面がないまま、最後の直線まで進んでしまったようです。そこに輪をかけて、先ほどからの分析通り、空前のハイペースですのでね。直線までジッとしたのが勝ち馬ですから、そりゃ、あの追走からさらに突き放すことは難しかったでしょう。

レース直後にパトロールビデオを観た際は、ディープインパクト菊花賞を思い出しました。また、レースの大半を力んで走ってしまったのはグラスワンダーエアジハードに惜敗した安田記念が思い起こされます。あの時のグラスワンダーは外国馬にぶつかって引っかかってしまい、ほぼ1000m噛みっぱなしでゴールになだれ込みました。…よくハナ差まで持ち込んだなと。あー、どちらのレースも今回の有馬記念同様、1倍台の1番人気という共通点がありますね。

アーモンドアイ、レース後3日ほど筋肉痛が取れなかったというコメントも見つけています。相当に仕上がりがよかった分、目いっぱい力んで走った反動も少なくなかったのでしょう。

あの仕上がりと落ち着きのアーモンドアイを本命視したことに悔いはありません。むしろ真っ向から評価できたことはよかったと思っています。アクシデント含め、ネガティブな条件が重なっての大敗。アーモンドアイが負ける場面が具体化されたことは分析志向のファンには悲観する出来事ではないでしょう。そりゃ負けてほしくはないですけどね。

この1戦でアーモンドアイを見限るのは早計でしょう。コンディションを戻して、軽い馬場であれば、いや多少重い馬場でも、平気で着順を巻き返してくると思っています。ルメールの言う通り、「これも競馬」で大きく括れる負けという結論ですね。

サートゥルナーリアは落ち着きをキープしての2着

すっかり牝馬2頭に注目を持っていかれていますが、相当に強い2着だったと思っています。リスグラシューがインで進路を模索する間があったとしたら、このペースを受けて自力で先頭に立っていますからね。

リップチェーン装着でおとなしくさせる試みや、返し馬のあともスミヨンが鐙を外すなどテンションの上がりやすい条件を如何に避けるかに苦心していたようです。それでも1周目のスタンド前ではフィエールマンの後ろで首を振っていましたけどね。

神戸新聞杯が鮮やかだった分、スロー専門という向きもあったようですが、いやいや、問題は勝負どころまでのスタミナのロスだったでしょう。それは半兄エピファネイアリオンディーズと同様の課題でもあります。ロードカナロアの分、エピファネイアよりかは息長い末脚とはいかないかもしれませんが。…そういえばエピファネイアの父はシンボリクリスエスでしたね。

これで来年は中距離に特化したローテーションになるのでしょうか。府中を避けるローテーションになるのかも注目点と思っています。香港、合うのではないでしょうか。来年が楽しみな1頭です。

ワールドプレミアは末脚に賭けての3着

菊花賞を除いて、ある意味でこれまでと変わらない後方待機策。ただ、今回はより鞍上の意図が強かったように思っています。

これまでは成長途上の馬体に合わせて、序盤のスピードを捨てて負荷を抑えざるを得ないという戦略だったでしょう。対して、この有馬記念は序盤のハイペースに賭けての待機策だったように受け取っています。嵌らなかったら着順を落とす、レースの流れを決め打ちした作戦。またこれが嵌るから武豊は怖いですよね。

来年は天皇賞春から逆算したローテーションになるとのこと。長距離路線の中心でしょう。とても楽しみになりました。

引退する馬たちと有馬記念の位置づけ

勝ったリスグラシューも引退ですが、すでにシュヴァルグランレイデオロ、クロコスミア、アエロリット、アルアインがすでに競走馬登録を抹消。繁殖入りが決まっています。

正直、名前が挙がった馬たちには予想の段でほぼ印を回しませんでした。須田鷹雄のツイートに「有馬記念は興行、理不尽、情緒」という表現がありましたが、先のアエロリットでも触れたように、ラストランという情緒があの変則的なコースと相まってある意味理不尽な展開を生むのかもしれません。

そもそも、有馬記念という「総決算」に適性を外している馬が結集することが興行であり情緒ですものね。広く日本に認知されていることは競馬の興行面を支える重要な価値であるでしょう。

G1にふさわしい舞台という観点で、距離変更やコース変更が議論されることがままありますが、こうした一般への認知から「理不尽」さを保持する切り口があってもよいと思います。もちろん馬券からは外しますけどね。その認識のギャップもまた味わいでしょう。例えば、Stop The Nationという価値は、おそらく競走馬の距離適性を考慮して保たれているわけではないですものね。

最後に

ふー。ようやく有馬の回顧に着手できました。書き出すと長くなるのがわかっていましたし、これでもまぁまぁ割愛していますので、平日の業務を考えると時間が足りないなぁと感じる次第です。

読まれる方向けにならないかもしれませんが、ハイコンテキストを前提にするともっとざっくりした短い文章になるはずなんですよね。それですと、なかなか察しのいい方でないとわからなくなってしまう恐れもあって。…日記なのに何を迷っているのか、という話なのですが。

さて、もうホープフルS当日。アーモンドアイに全力を注いだ分、何とか取り戻さないといけません。いや、この取り戻すという発想がよくないかもしれませんw

コントレイルが人気を集めていますが、府中のほうがよいと思うんですよね。そのあたりを注視して、本命をまとめようと思います。ワーケア、かな。頑張ります。