more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

天皇賞(秋)

アーモンドアイ、現役最強を証明しました。

府中のスタンドが揺れた、という形容がありますが、直線に向いて逃げたアエロリットに人気馬3頭が雁行した瞬間は実際にスタンドが揺れていました。いや、もちろん錯覚なのですけど、確かに揺れていましたね。ね。

戸崎がアエロリットの粘りを引き出し、川田がダノンプレミアムに能力を全開にできる可能な限りのポジションを確保し、スミヨンは対アーモンドアイとしか言いようのない先行ポジションの強奪に成功していました。これらすべてのべストライドを叩き潰しての3馬身差。とんでもなく厳しい後傾ラップの中、決定的な差と言っていいと思います。

仮に乗り替わりだったら、4コーナーから直線入口で慌てる場面が見られたかもしれません。ルメールの自信は継続騎乗の賜物でもあるでしょう。レイデオロでもサートゥルナーリアでもなかったそのジャッジの回答はあの冷静なイン突きに集約されました。

昨年と一昨年の皐月賞馬、昨年と一昨年のダービー馬、昨年と一昨年のNHKマイルカップ馬、昨年と一昨年の大阪杯馬、そうか2歳G1を獲った馬も2頭いますね、そして昨年の香港ヴァース勝ち馬エグザルタントを抑えたクイーンエリザベス2世カップの勝ち馬も。一部重なっていますが、これらの実績馬が一堂に会した時点で凄いのに、これらをまとめて置き去りにしてしまったわけで。

待機策に徹したユーキャンスマイルが相当な切れ味を発揮しましたが(アーモンドアイより上がりが速いとは)、2、3着争いに加わるところまで。2008年のカンパニーを思い出しました。あの時はインを蛇行しながらの差し込みでしたけどね。ウオッカダイワスカーレットには及びませんでした。今回は上がり最速の3馬身先に勝ち馬がいますから、圧倒というほかありません。

昨年のジャパンカップも驚きましたが、今回も同様。いや、1年近くその強さを継続しているわけで、今回の方が凄味があるというべきでしょう。目撃できてよかったです。

公式レースラップ

12.8-11.4-11.5-11.6-11.7-11.6-11.3-11.1-11.3-11.9

天皇賞秋2ハロン目の傾向

天皇賞秋の過去ラップを紐解くとわかるのですが、スタートダッシュを効かせる2ハロン目に速いラップが出現しにくい傾向があります。過去5年のジャパンカップと2ハロン目を比較するとその傾向がわかりやすいでしょうか。以下、「開催年、スタートから2ハロン目のレースラップ、勝ち馬」で並べてみました。

天皇賞(2014~2018)

ジャパンカップ(2014~2018)

平均を示そうと思ったのですが、超不良馬場だった2017年の天皇賞を含めるのはさすがに…と思ったので一覧で。特に最初のコーナーまでのコース形態に違いがありますので(実質1ターンor2ターン、2000mは変則的な2コーナー、2400mは1コーナーまで距離が少なめ)、この差が先行馬のペース配分に影響を及ぼしているものと推察できます。

2018年はともにキセキの逃げでしたので端的な比較になりますね。また、2016年天皇賞エイシンヒカリの逃げだったのですが、3、4ハロン目が11秒台と緩急が逆転していることが特徴的です。距離が伸びた2400よりスタートダッシュに慎重な傾向が窺えますね。3ハロン目との強いギャップをつくらない、なだらかなラップで向こう正面にはいるのがスタミナ配分として望ましいというイメージが透けてみえます。

府中芝2000mの特徴というべきかもしれませんね。ちゃんと調べる時間があればなぁ、というところです。

アエロリット戸崎のペース配分は極めて理にかなったもの

逃げたアエロリットの特徴。ストライドの大きいタイプで、決してゲートが開いた瞬間に俊敏に先手を取っているタイプではない、という形容は外れていないと思われます。安田記念毎日王冠では、スタートは少し勢いをつけて出足のよかった他馬を交わしながら先頭に立つ姿が確認できますし。まして今回は距離延長した2000m、戦歴的には秋華賞の1度しか経験がなく、それ以上の距離で走ったことはありません。スタミナ配分的にゆっくり運ぶ場面をつくりたいと考えるのが自然でしょう。

ただ、同馬のストロングポイントであるスピードの持続力も遺憾なく引き出したいわけで。そうすると、レース前半は加減速を抑えて気持ちゆったり、後半は速いラップを持続して後続を封じるという戦略が浮かび上がってきます。

それを前提におきながらリアルタイムで観戦していましたので、1000m通過でスタンドはどよめいていましたが、こちらは「思惑通り進めているな」という温度感で受け止めていました。「むしろここから」「緩めずに上げていくはず」と思っていましたので、3コーナー過ぎでアクセルを踏んでいくアエロリットの姿に、実に気持ちよくテンションが上がりました。

おそらくこの説明で戸崎の戦略は説明がつくと思っているのですが、発表された公式レースラップを見ると、キセキよりコンマ1秒速い2ハロン目。戸崎、攻めていましたね。さすが。そして応えたアエロリットも素晴らしい限り。G1勝ちがひとつだけとは、因果なものです。

参考までに。現在のレコード、2011年トーセンジョーダンのラップを比べてみましょう。極端な前傾ラップとのギャップが見て取れます。エアレーションがなかった時期と記憶しています、エクイターフのポテンシャルがある意味でがっつり引き出されたレコードとの比較ですね。

2011:12.5-11.0-10.8-10.8-11.4-11.8-12.0-11.9-12.1-11.8
2019:12.8-11.4-11.5-11.6-11.7-11.6-11.3-11.1-11.3-11.9

アーモンドアイの俊敏さがアクシデント回避のポイント

サートゥルナーリアに前をカットされた時点で、個人的には色めき立っていました。内枠発走の懸念が噴出した瞬間、であったはずです。あそこから巻き返せるのですから、もう対抗する術がないですよね。

レーシングビュアーには「マルチカメラ」というサービスがありまして、重賞に限ってですが3アングルを同時に確認できる映像が週明けに公開されます。その映像で改めて確認してみましたが、カットされ仰け反った瞬間こそアーモンドアイの特徴、柔らかさや俊敏さがよく表れた瞬間のように見えました。

接近するサートゥルナーリアをラチまで寄って避け、それでも避けられない右前脚を起き上がりながらステップを踏むことで回避。たぶん並みの馬ならもっと厳しいアクシデントになっていたと思われます。スミヨンが戒告で「済んだ」のはアーモンドアイだから、という言い方もアリでしょう。ちょうど、アエロリットの後ろにはいろうとルメールが少し緩めた瞬間、そのタイミングを狙うようにサートゥルナーリアが加速してきましたから、前を譲らないと厳しい、という条件が重なったとも言えそうです。

泰然自若のイン追走、盤石のイン突き

でもその後は泰然自若としていましたね。結果から遡れば、ダノンプレミアムとサートゥルナーリアを視界に収めながらの追走ですから、絶好のポジションともいえます。

直線のイン突きは結果論でしょう。4コーナーを回り切るあたりのルメールの操舵は、スティッフェリオの左右あたりを目指しています。そこを諦めてサートゥルナーリアの真後ろ、サートゥルナーリアの手応えを見極めてからインと、ひとつひとつ選択肢を消していきながらのイン選択と見えています。それを可能にする道中の落ち着きと圧倒的な「余力」が大きな勝因なのでしょうね。

アエロリットがインを空けていたのは、安全配慮というよりは馬場の傷み具合を見極めたものと思います。内外の極端なバイアスは見出せませんでしたが、よりよいコース選択をした分インから2頭分を空けることになったのでしょう。戸崎が意図的に開けていたわけですから、こじ開けた、という表現はちょっと当たらないでしょうね。でも、盤石のイン突きであったと思っています。

末脚の持続力勝負で2000mを制する

後傾ラップ、かつ4ハロンのロングスパート勝負。末脚の持続力を問う流れは中距離チャンピオンにふさわしい厳しさと思います。その中での3馬身差は決定的でしょう。メンバー構成的にも、これだけ明確にチャンピオン決定と言いやすいレースは久しぶりかもしれません。

ライバルの次走報ですが、netkeibaによると、ダノンプレミアムはマイルCS、サートゥルナーリアは有馬記念、ユーキャンスマイル、ワグネリアンマカヒキ、スワーヴリチャードはジャパンカップ、ウインブライトは香港カップ。分かれましたね。端的に距離適性だけで判断されたわけではないでしょうが、適した距離が微妙に異なる馬が一堂に会することが可能なのが2000mという表現も十分可能と思われます。有力各馬の交点となるレースでの勝利、大きいですね。

ドバイターフを制しているわけで、今年G1は2勝。でもこの1勝で年度代表馬、そう判断してもよいと思います。普通の年なら早計のひと言なんですけどね。

川田のテーマ設定とダノンプレミアムの実力発揮

レース前のインタビューで、「G1では本気で走ったことがない」と川田のコメントがありました。扇情的なニュアンスも汲み取れるのですが、おそらくは自身の鼓舞のためと鞍下の評価のため、と受け取るのが妥当なように思っています。真面目さからくる応対の厳しさは誤解も孕んでしまうようですね。リアルタイムではないですので全く一致するわけではないかもしれませんが、全盛期の岡部さんも近しい厳しさを醸し出していたのではと、脳内で勝手に符合させています。

以前から感じ取ってはいましたが、近年の川田、特に有力馬での重賞騎乗ではかなり具体的にテーマを設けて臨んでいるように映っています。昨秋のキセキやミッキーチャーム、今年のダノンファンタジーではより顕著ですね。インタビューでもあの通り言葉は選びつつですが、かなり読み取りやすく表現をしてくれます。根の正直さがそのまま出ているのでしょう。それをいくらかでも解して予想に臨むと、こちらのイメージも不明確な部分が減るんですよね。

枠順からみて最内への誘導は厳しいでしょうから、2列目の好位3、4番手。内からアエロリット、スティッフェリオの1、2番手の並びとすると、スティッフェリオの直後。この位置ならアーモンドアイより前で勝負できる確率が上がります。能力全開、真っ向勝負のためのポジショニング。獲りに行くだろうと予想していましたし、実際に獲りに行きましたね。

ドレッドノータス坂井瑠星が2コーナーでタイトに押圧していましたが、首をねじ込んで前に入れさせませんでした。ここが2着を死守した大きな要因と思っています。そうですね、このアクションが近々の川田への信頼感であり、リーディング争いの原動力であり、個人的にヴェロックス惜敗と読み得た根拠でもあると思っているところです。

4コーナーでドレッドノータスが限界を迎え、外への展開が楽になりました。労せず直線ではよいコースを選択。存分に切れを引き出してくれたわけですが、アーモンドアイが強すぎたこと、ゴール手前で追い込んだユーキャンスマイルとワグネリアンに詰め寄られていることから、強さが感じ取りにくい見栄えになってしまいましたね。惜しいところです。いやいや、アーモンドアイがいなければ、アエロリットを自力で叩き潰して後続を振り切った天皇賞になったわけですから。

次走はマイルCSとの報道。5月の京都であれば全幅の信頼を置くところですが、ここのところの荒天、2週後の馬場をどんなコンディションにしているでしょう。その見極めが必要と思っているところです。

また、同馬主のダノンキングリーとバッティングするものと思いますが、おそらく京都改修でチャレンジできる機会がなくなることを考慮したのでしょう。もうひとつG1を。予想し甲斐のある選択と受け取っています。…香港かなと思っていましたけどね。

サートゥルナーリアは気負い込みとスミヨンの戦略のアンマッチ

パドック、返し馬まではしっかり落ち着いた様。フジの中継で断片的に映り込む姿を確認していきましたが、君が代演奏のあたりから首をブンブン、発汗も目立ち始めました。ただゲート前の輪乗りで気持ちがはいるのは神戸新聞杯も同じ。このファイティングポーズが即敗因ではないと思っています。

スタートから2コーナー、アーモンドアイの前に入るまでのコース取りには唸りました。パスする馬をカットする強引さはブエナビスタを思い出させますが、スタートで後手を踏んでからの加速と、斜めに進路を確保していく動体視力とコントロールはさすがです。勝負できるポジションを確保するならあれしかなかったでしょう。内に切れ込む判断にしなければ、よくてダノンプレミアムの後ろ、最悪はその外をずっと回されていたかもしれません。

ただ、このポジション確保のためのプッシュが最大の敗因になった模様。2コーナーから力みっぱなしでの追走となりました。ダービーや天皇賞秋での兄エピファネイアを彷彿とさせる引っかかりでしたね。4コーナーでようやく人馬の力みが取れたように見えましたが、直線に向いたストライドを見る限りはもうスパート状態だったのでしょう。直線半ばで力尽きてしまいました。

府中が苦手、になっているかもしれません。が、仮にそうだとしても、コースレイアウトとフォームがマッチしないというよりは、府中という場所への苦手意識が芽生えている、と考えるほうが妥当と感じます。個人的には違うと思っていますが、これが苦手のきっかけになる可能性は否定できない、とは思っています。

エピファネイア弥生賞を思い出すんですよね。この時も序盤の人馬のコンタクトが強く、そのまま力みっぱなしでの敗戦。その後の折り合いに難しさを残す敗戦になりました。弟は大丈夫だ、と言いたいところですけどね。神戸新聞杯天皇賞よりはるかに遅いタイムでの折り合い、破綻していませんので、勝負にいった分の後遺症が残るものと推察しています。

次走は有馬記念になるのでしょうか。中山ではG1を2つ獲っていますし、神戸新聞杯から直行であれば相当楽しみになったはずなのですけどね。おそらく今後結果を出すために折り合いを取り戻す1レースを挟む必要があるのでは、と思っています。攻めにいきにくいテーマを背負う馬は本命視しにくいんですよね。G1ならなおさらです。

ひょっとしたら、折り合いを克服して勝ち切ってしまうかもしれませんが、その可能性は低く見積もるべきと心得ておくつもりです。…鞍上がルメールに戻り、黒帽を被っていれば、楽しみにしちゃうかもですね。

最後に

現場の歓声、直線目いっぱい凄かったですね。フジの中継ですと、ゴールした瞬間にアングルを切り替えて勝ち馬を正面から捉えるわけですが、いったん音量絞っているのかな、スタンドが一番湧いた瞬間なのでだいぶ印象が違って見えました。何かしら意図があるのでしょうが、臨場感を伝えるならボリュームそのままのほうが、という素人感想をもった次第です。10万人の熱気はなかなか味わえないですからね。

アーモンドアイの次走、ジャパンカップ香港カップのいずれかになる模様です。個人的には香港で評価を高めてほしいと思っていますし、来年の現役続行…はないかな。もう少し見ていたいと思いつつ、決定を楽しみに待ちたいと思います。