more than a SCORE

1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

第22回公開馬学講座

毎年恒例になりました、関東装蹄師会主催の馬学講座にお邪魔してきました。

例年通り、馬事公苑近くでの開催。昨年より開始時期がちょっと早くなりましたね。

講座に関するページは以下。ですがこちらも例年通り、昨年分を上書きされていまして、過去の開催内容が参照できない状態。改善されるといいのですけどね。

www.kantoso.jp

いちおう、前回参加した際のメモも。

keibadecade.blog98.fc2.com


今年のテーマは以下の通り。それぞれ要点をまとめておこうと思います。

講演1 「日々のフットケアのポイント」
講師:富山拓磨先生(日本装削蹄協会)

講演2 「神が授けた天然の靴・その優れた仕組みと機能」
講師:青木修先生


日々のフットケアのポイント

富山先生の講演から。

冒頭に「フットケアの主役は誰か?」という問いかけ。さらに「日々のフットケアの目的は何か?」という問いかけが続きました。その場で回答を求めるというより話の導入ですね。

それに合わせて、作業そのものが目的になっていないか?という言葉がありましたので、そこで講演の大枠はイメージできましたね。

例えばブラッシング。馬体の細かい傷や体温の確認など個体のコンディションの変化に気づきやすいというメリットを挙げて、ブラッシング自体を単に目的化せず有益なものにしてほしいと話されていました。

並行して、リスクとコストパフォーマンスのバランスについても触れていました。冷暖房完備など施設やひとにお金をかければ万全になるだろうが、有限であるコストとリスク(今回でいうと脚元のトラブル)を考えながら対策を考えていくべき、とのこと。このあたりは改めて、というニュアンスでした。

ある診療所の集計では、診療全体の1/4は跛行、その内半分以上は蹄のトラブルに起因するとのこと。蹄に痛みがあることは診断麻酔で判断。診断麻酔という言葉は初めて知った言葉なのですが、部分麻酔をかけて痛みが引けばその箇所に痛みがあることがわかる、と説明を受けて理解ができました。この後は蹄のトラブルにフォーカスして話が進みます。

蹄のトラブルは長期化しやすい、それは装削蹄のオプション費用や薬や検査などの治療費がかさみやすい。先ほどのコストの話はここのマエフリになっていましたね。

サプリメントの話も。蹄の角質の9割以上はタンパク質(ケラチン)でできていて、蹄の生成にはこのケラチン生成をサポートする必要があるそう。具体的には亜鉛(ミネラル)、ビオチン(ビタミンB)、メチオニンアミノ酸)をバランスよく摂取すること。特にビオチンは通常だと不足しないようで、不足を補うというよりは促進するという発想のようです。

注意点として、サプリメントの効果が出るまでには9カ月から1年ほどかかるということ。爪がほぼ生え変わるまでの期間ですね。ただ蹄が乾燥して締まった状態になる冬場ですと、状態が良化したように見えやすいとのこと。勘違いは禁物とのことでした。

蹄を洗う必要はあるか。これについては端的な答えがあるわけではありませんでした。個人的にはきれいにした方がよい、という漠然としたイメージをもっていましたが、どうやら衛生面などで必要な場合は洗うべき、不要と判断できる時まで機械的に洗う作業をする必要はない、というスタンスでしたね(富山が爪を洗うなと言った、みたいに伝わってしまって誤解を招いたこともあったようです。大変ですね)。

蹄油を塗るタイミングも同様。夏場は一般的には保湿ケアの必要が少ないため、馬体を洗う前に蹄油を塗って余計な水分をいれないようにする、反対に冬場はもろもろの手入れが終わって十分に蹄が水分を含んだ後、乾燥を防ぐために蹄油を塗る。目的から考えればタイミングが変わるのはごく自然なこと。一律の作業にしないことが重要と強調されていました。

その他、水よりアンモニアは蹄が吸収しやすく、蹄のタンパク質がアンモニアに負けてしまうため馬房の掃除は重要であること、また馬が太ることは脚元への負荷が増すため要注意であるなど、いくつか注意点について掘り下げておりました。

結びとして。トレーニングは継続しなければ効果が出ない、トレーニングは強度を上げなければ効果がない、ただしトレーニングの強度が増すほど肢蹄にかかるストレスは増える=故障のリスクはあがる、故障した場合はトレーニングが継続できない、そして治療、回復までのコストが上がる。こうしたリスクを予防し、現実的なコストで馬と向かうために日常的なフットケアは大事、冒頭の質問であるフットケアの主役は飼養者(会場は乗馬をされている方が一定数)、そしてその目的と意味をしっかり理解しましょう、とのことでした。

…見出しの区切りなくざーっと書いてきましたが、前半だけでかなりの知識量ですよね。内容の面白さに疑うところはないのですが、なにぶん門外漢ですので付いていくのがなかなか。これで当日とったメモの半分くらいですからね。会場には小学生(乗馬をしているのでしょう)もおりましたので、もう少し噛み砕いているとよいのかな、と思いながら休憩にはいりました。


神が授けた天然の靴・その優れた仕組みと機能

続いて、こちらも恒例の青木修先生。当日は体調がすぐれなかったようで途中から座っての講義となりました。ご自身で79歳と話されていましたから、それを考えるとこれまでが元気過ぎと申しますか。。。いや、とっても誉め言葉ですけどね。

馬の脚がわるくなると装蹄師のせいにされることが多く、当時の会長から相談を受けたことでこの講座が始まったという経緯から、馬壊しているのはお前たち(=乗り手)だ!というおなじみのお叱りフレーズまで、いつものやつをかましてからスタート。無理しないようにと思いつつ、ですね。

チーターのスピードがナンバーワンですが、牛や馬は草食の分お腹の構造が複雑、それを支えるために背骨が固くなった、そしてそれではチーターなどの肉食動物から追いかけられる際に不利である。その結果、蹄が人間でいう中指が発達して、つま先立ちの状態になったという、かなり噛み砕いた説明が導入になりました。

合わせて、蹄叉部分が犬猫でいう肉球にあたることも。においがね、という指摘もありましたね。蹄叉の角質には皮脂腺、汗腺の組織が残っており、ほとんど機能していないが、雑菌がはいりやすい状態にある、これが蹄叉腐乱の要因になるという説明もありました。

蹄の構造には理想形があるそうです。標準蹄 ideal foot と呼び、正面から見てきれいな台形、横から見て蹄の先の角度が45~50度とされていて、装蹄の際はできるだけ理想の形に近づけるとのことでした。こんなきれいな爪は見たことないよね、という問いかけには、現場のご苦労が滲みます。

爪の形は夜、馬房でつくられるとのこと。運動時の負荷とは関係がないようです。それは馬が立って寝るため。カラダを横にして寝るのは相当安心した環境下でも2時間ほど、立って寝る際にはハの字に前肢を開く、その際に内側に体重がかかるためきれいな台形にはなりにくい傾向があるようです。ちなみに運動の際は左右の幅を狭く踏んでいるため、問題ないそうです。カラダの薄い馬は逆に狭く立ち続けるため、外側の蹄壁が圧迫されるとのこと。なかなか難儀なものですね。

馬の爪が伸びるのは1カ月に約1cmほど。爪先もかかとも伸びますから、1cm分蹄部分が前方に出るイメージ。そうすると荷重がかかった際の球節の沈下具合が大きくなり、特に運動時に負荷がかかりやすい状況になります。

海外の乗馬ですと一度装蹄すれば2カ月はそのままで大丈夫という認識もあるようですが、気候が異なり、また最も蹄の薄い種であるサラブレッドが乗馬の大半であることなどから、装削蹄をしっかり行うことが大事、とのことでした。

結びには昔話が。当時のベテランの方に、これはどの脚の蹄鉄か、という試すような質問をされたそう。前肢の方が左右とも外への曲線が広くなる打ち方が通例だったようで、前後左右はそれで区別ができたそうです。…先ほどのidealとは相反しますよね。その後の研究でこの人間の爪先のような形は、慢性的な球節への負荷がかかることがわかったそう(旋回の際に常にねじってしまう)。競馬場のカーブではそこまでひねることはないようですが、乗馬ですと頻度は高いですよね。

ちなみにジャパンカップ後、4、5年で、こうした四肢で異なる形状をする装蹄は減っていったそうです。ちらっと、やっぱ外圧だねと言われていたのは印象的でした。


最後に

蹄機がポンプ作用をしている、といった知識の再確認になるかと構えていましたが、個人的には全然知識の及ばない内容で面白かったですね。蹄なくして馬なし、という言葉により深みが増した格好です。

サイエンスが根拠になったサラブレッドの取り扱いは、自分がファンになってからも様々に進んだという認識がありますが、その詳細はなかなか一般のファンには届きにくいなぁと。…それはそうか、馬券には直結しにくいですからね。

飼料管理の情報とか、本は買いましたけどざっくりとした読み方しかできませんからね。どこかで機会があれば昭和の時分からの変遷など、聞いてみたいものです。