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1996年から競馬を開始。20年続けてなお楽しんでいくための備忘録を兼ねた日記。

日本ウマ科学会 第31回学術集会 合同シンポジウムメモ

1カ月経ってしまいましたが、昨年12月の日本ウマ科学会、何とか合同シンポジウムだけ参加をしてきました。

いろいろ考えるところはあるのですが、まずは参加した際のメモをまとめておこうと思います。スライド資料の配布などはなく、あくまで聞き取った範囲でのメモになりますので不十分な内容である前提でお読みいただければ。

そしてもうひとつ。今週の競馬ブックで小島友美さんが記事を書かれているんですよね。せめてもの誠意を発揮しまして?まだ読んでいません。というわけで「あくまで」純粋に自分が録音なしで聞き取った内容になります。

ブックとの誤差がありましたら、どうぞこちらを疑ってやってください。…正直、記事の存在に気が付いてからは、アップするのをやめようかなとも思っていたのですが、このブログは個人の備忘録じゃないか、と思い直して残りを書き上げた次第です。

第31回 学術集会

講演要旨は以下にて。

jses.equinst.go.jp

合同シンポジウム講演要旨

以下の通り、箇条書きしました。冊子をいただいていますのでそこからの転載です。あ、冊子はウマ科学会の会員には郵送で届きます。PDF版は上記ページにアップされていますね。

「競馬産業の国際化 -これまでの取組みと将来-」

  • 日本のPart1国入りまでの道のり
  • (JPN)を国際ブランドに
  • 施設面から見た各国の競馬場
  • 安全な国際間移動の仕組みづくり
  • 海外から見た日本競馬
  • 総合討論

では、順番に。

日本のPart1国入りまでの道のり

JRA馬事部の山野辺さんの講演。これまでの取組みを様々な数字で示していったため、スライドの情報量が多かった。テーマ的に必要と納得しつつも、さすがに網羅的に書き取ることはできず、かいつまんでのメモになりました。

主旨はタイトルそのまま、ICSCのPart1国を目指した目的と経緯について。以下の内容がその目的とされたようです。

  • 日本競馬の国際的評価の向上
  • 日本の競走馬のレベルアップ
  • 日本競馬のブランドイメージの向上
  • 日本馬の輸出促進

正確な記述については1992年からスタートした取り組みである国際化計画を当たるのがよいようです。第1次の計画は8か年計画、2000年に5か年計画として更新されています。

元をたどると1983年の軽種馬生産振興対策協議会からスタートしているようで、その当時は「生産界の7本柱」と呼称した7つのテーマにフォーカスしていたと説明がありました。7つすべてをメモできていないのですが、種牡馬改良、繁殖牝馬の改良、共同育成施設、JBIS事業もここがスタートになっているようですね(88年から取り組み開始、とのこと)。

また、いわゆる「マル混」レース数の変遷や、国際レースの増加の推移などをグラフ化して紹介されていました。

それぞれメモした範囲ですが、マル混は1971年には年間レース数の10%、それが1999年には55%まで増加し、現在はこの55%を維持しているとのこと。一方の国際レースは、1991年には2レースのみ。ジャパンカップ富士Sと思われます。1993年に安田記念が加わり、1999年には12レース、Part1国入りした2007年には111レースまで増加しました。2017年ではさらに増えて167レース。

「マル外」馬の輸入頭数は増減がはっきりしていますね。1992年82頭→1997年453頭と、90年代の「マル混」レース増加に比例しています。ただ、「マル外」のコストパフォーマンスが国内生産馬の比較して一律で上回るとはいえない、という分析も。2000年代にはいって輸入頭数は減少し、2017年は154頭という実績に。確かに、90年代後半はタイキシャトルシーキングザパールグラスワンダーエルコンドルパサーと質も量もすごかったですものね。

ロンジンワールドベストホースランキングに登場する日本馬も増加。レーティング115以上の日本馬は、1998年15頭→2017年43頭まで増加しているとのこと。

様々な数字は、先に箇条書きした目的に対しての効果、成果として紹介されたと理解をいたしました。

(JPN)を国際ブランドに

次は日本軽種馬協会の松田さんによる講演。個人的に盛大に勘違いをしておりまして、レースの格付けとしての「Jpn」ではなく、国名表記としての「JPN」(USAとかFRAとか)を指していました。いやー、ちょっと別の期待をしていたので謎の肩透かし感がありましたが、完全にこちら側の事情ですね。

2017年の日本のサラブレッド生産頭数は7080、これは世界で5番目とのこと。参考までに、アメリカは20900、オーストラリアは12786、アイルランドは9689。この規模感で生産される日本の競走馬をどう海外にプロモーションするか(=購入につなげるか)、というのが松田さんらの取組みとのことでした。

シンガポールの例を出されていましたね。協賛レースの開催に合わせて、特設ブースの設置、サムライサラブレッドというPR用のDVD放映(会場でも流していただきました)、また後日に英語版セリ名簿を送付するなど、活動を工夫された結果、ジョリーズシンジュにつながったと聞いてびっくり。3冠馬ですものね。

英文のセリ名簿はPRのために準備する必要があったり、まず日本の血統が現地の方になじみがないですし、異なる育成、調教の環境や、そもそも輸送コストなどなど、購入に至るまでのハードルはいまもって高いようです。

また、ファッションブランドのようなイメージ戦略が適合せず、勝敗が何よりのPR材料であること、映像やキャッチフレーズだけでは買ってもらえない、という実感のこもった説明もされていました。

日本馬の海外遠征で当たり前に結果がでること、これがJPNブランドが国際化するために必要、との言葉が締めくくり。宣伝をしなくても買いに来てもらえるのが理想、とのことでした。

施設面から見た各国の競馬場

今度はJRA施設部の高田さん。主に馬場の違いについてのプレゼンテーションでした。

競馬場に共通するコースレイアウトの条件からスタート。スタートから最初のコーナーまで最低200mが必要、コーナーの半径が芝とダートでそれぞれ規定がある、向こう正面を高くしてスタートからゴールまでを見やすくする、通年緑化のためのオーバーシーディングなど、いろいろと配慮された設計と運用であることが語られました。

馬場については、支持力の保持、均一性(補修に相当な人数をいれていると強調)、緩衝性(破壊による衝撃緩和)、そして排水性。これらの要素への対策を続けてきたことが紹介されました。

排水性を上げた結果、肥料も水も抜けやすいコンディションになり、細かい散水や肥料散布が必要になっていること。またバーチドレンやシャッタリングマシンを映像とともに紹介。バーチドレンは縦方向に穴を開け(棒を地面に垂直に差して斜めに抜く)、シャッタリングマシンで横方向にゆさぶる(地面に対して刃を斜めに入れる)、これで馬場を柔らかくしている、というのは既に知られているところでしょうか。

こんなことをやっているのは世界で我々だけかな、というコメントも。自虐ではなく、手間暇かけています、という少し俯瞰した表現でしたね「スポーツターフ」という表現がありましたので、アスリート向けにチューニングしているという認識をもって取り組まれていると受け取った次第です。

また、欧米の馬場を視察した際のエピソードなどを踏まえていましたね。ベルモントパークの馬場の含水量は日本のダートの倍近くであり、水分を含むと締まって固くなる。アメリカのダートは赤土で単一構造(複数の層を持っていない)に対して、日本はクッション砂が8~9cm、芝同様に排水性を備えた馬場、「サンド馬場」という表現もありました。

安全な国際間移動の仕組みづくり

こちらはJRA馬事部防疫課の山中さんによる講演。個人的にはこの内容が一番目新しいものでした。一般のファンからは距離の遠い話ですしね。

2014年3月に設立されたIHSCという団体。ここが馬の国際間移動の簡素化について取り組んでいるとの話でした。後日調べた記事を補足しておきます。設立当時の記事で、4項目の主旨が箇条書きされており、その中の一つに国際間移動が示されていますね。

www.horsetalk.co.nz

要約してしまいますが、HHP馬(High Health High Performance Horse)という乗馬や競走馬など特定の用途に向けて予め一定の水準で管理されている馬について諸条件を前提に、隔離検疫を簡略ないし省略できないかという取組みがあるようです。

滞在が90日以内、マイクロチップでの個体識別が可能、繁殖農場に立ち入らない、他の馬と接触しないなどが諸条件になる模様。カプセルや風船の中に馬を収めて移動するようなコンセプトから「バブル」と呼称されているとのこと。バブルトゥバブルという表現がありました、カプセルの中にはいって移動しているイメージでよいのでしょう。東京オリンピックパラリンピックの参加馬についても、同様の措置を検討しているようです。

ただこれであらゆる地域からの移動に対して、伝染病がくまなく防げるかという課題は残るようです。検疫にかかるコストなどから、こうした取り組みは進んでいきそうですが、閉鎖性の強いルールになるのかは今後の取り組み次第と受け取りました。

海外から見た日本競馬

最後はウインチェスターファームの吉田直哉さん。Twitterアカウントをフォローしていまして、直接お話を聞くのを楽しみにしていました。ご本人のこれまでの経歴を紹介しつつ、海外から見える日本の姿について触れるという進行でした。

1994年に参加した生産者国際会議で日本の関税が高いと評判が悪かったこと、当時日本で重賞を勝ってもセリ名簿で評価されないことなどを紹介。94年ですとジャパンカップは14回を数えていますが、まだまだ日本馬をオフィシャルに評価する枠組みが不足しつつ、一方で外圧ではないですが(外圧かな)日本への販路を求める機運が高まっていたことを示すエピソードと受け取りました。

フジヤマケンザン香港カップを勝ったため、ワカクモの血統がブラックタイプになりますから、この牝系が海外で売れないかとも考えていたようです。

関税障壁、輸送コスト、そもそも諸手続きの煩雑さ、当時日本産馬の輸出にもハードルの高い状況があり、これに様々に苦労した話が続きました。計画自体は中断という扱いになっているようです。

一方で日本馬が凱旋門賞を勝てるのかについてもさらりと言及。アガ・カーン殿下、ニアルコスファミリーなど2400mへ特化した配合、その繁殖牝馬の取捨を繰り返している、という力の入れ方に触れて、これを乗り越えるのは容易ではない、との見解を示されていました。

日本馬の強さを自認するのであれば、海外馬の輸入障壁低減をはかって、同じ土俵で勝負できるよう図るべきでは、という指摘もあり。なかなか厳しい指摘ですが、今後の方向性として馬の輸出国として発展していくためには、という視点はあまり近々の一般のメディアでは見あたらず、新鮮な印象をもちました。

海外へのプロモーション、マーケティングの観点からはジャパンカップは大事、と語る一方で、日本の馬場でレースをすると脚が壊れるという理解も存在し、日本と諸外国とのコミュニケーションはまだまだ不足しているとの言及が結びとなりました。

パネルディスカッション

時間がだいぶ押したため、若干バタバタとした運びになっていましたが、主に司会の方の質問にこれまで講演したパネリストが応じていく進行になりました。

ジャパンカップをよくするためには?という質問には駐在員だけでなく国際部のスタッフやエージェントの介在など、有力馬招待のアプローチを増やしていくべきとの提言は吉田さん。山野辺さんから馬場の安全性もアピールしたいとのコメント。

真の国際化は成ったのか、という少し抽象的な問いについては吉田さん、即答できない、確実に進んでいるという印象はある、とのことでした。家族連れ、女性客の増加についてはJRAマーケティングは素晴らしく、こうした点もアピールしていくことが大事という、側面からのコメントもありました。

会場からの質問はなく、少し時間をオーバーして終了となりました。


最後に

時間がなかったこともあると思いますが、正直パネルディスカッションは積極的な意見交換には至らなかった印象です。個人的に質問したいことがあるにはあったのですが、前置きがとても長くなってしまうため遠慮いたしました。議論が様々に進めばその内容をフックに質問できるかなと思っていたんですけどね。

国際化というあいまいな表現がなかなか通じにくくなってきたことを踏まえて、問題点の整理とひとり分の見解などまとめられればと思っています。あくまで外野から眺めるいちファンの視点、だからこそという態度表明になればよいですね。連休中にいけるかなー。時間がなかったらごめんなさいです。

そしてこのあと競馬ブックの小島さんの記事を拝読して、ちゃんと恐縮しようと思います。